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若手研究者紹介:浅谷 公威 特任講師

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技術経営戦略学専攻 坂田・森・浅谷研究室 浅谷 公威 特任講師

 

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【経歴】

2015年9月 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 博士課程修了(博士(工学))

2015年11月 技術経営学専攻 特任研究員

2019年10月 技術経営学専攻 特任助教

2021年8月 技術経営学専攻 特任講師

 

【研究について】

Science of Scienceとは科学者の行動を科学する学問です。学術論文データの解析が主ですが、予算・政策・SNSなどのデータも組み合わせて、学術界の生態系の理解を行います。その結果は科学技術政策・科学の産業応用・チーム・ジェンダー・科学者のキャリア等について有用な知見をもたらします。

 

私達のグループが着目する現象の一つが研究の時間差です。「日本の研究は遅れている」と感じる国内の研究者は多いかもしれません。私達は研究トピックの時間差をScopusの全論文のデータから定量化しました[1]。図aの赤線はアメリカの2015年の研究トピックと日本の2010 - 2020年の研究トピックの類似度、青線は日本の2015年とアメリカの2010 - 2020年の比較です。赤と青の線を比較することで日米の研究トピックに時間差が存在することが分かります。同様に中国もアメリカに対して研究トピックが遅れていますが(b)、イギリスとスイスはアメリカとの間に時間差はありません(c, d)。これらの時間差を年度ごとに「研究トピックの進捗度」として指標化したのが図eです。欧米諸国(+シンガポール、香港)、とその他の国々で定常的に時間差が存在することが分かります。

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図 a-d:研究トピックの二国間比較

図 e:二国間比較の積み上により各国の研究トピックの進捗度TPI (Topic Progress Index)を指標化。その年次推移をプロット。

 

日本は研究トピックの進捗度は1990年頃から徐々に落ちてきており、世界の先端から離れて「その他の国々」への分類になりつつあります。この分析は、科学技術予算を線形に増やすだけでいいのか、科研費等の大型予算の審査・事後評価をどうすればよいか、海外とどう交流すべきかなどの問いへの参考になる情報となります。

 

この研究の他に、政策とサイエンスの関わり、科学者のX/Twitterの使用とその効果、Slow-Citedな論文の解析、重要概念の抽出によるノーベル賞予測、などの様々な研究にも取り組んでいます。その他にもカーボンナノチューブの基礎研究と応用の歴史、SDGsと学術論文の関わりなどの分野に特化した解析も行っています。

 

【今後の抱負】

情報は瞬時に公開され研究環境の差異も縮まっていくなかで、非対称な時間差が生じるメカニズムはよく分かっていません。私達は、共著ネットワーク構造と研究トピックの時間発展を調べるとともに、研究トピックが伝播するプロセスのモデル化を試みています。また、文化現象一般における時間差はあまり定量化されていない興味深い現象です。学術の生態系には時間差に限らず面白い構造や現象が沢山あります。大規模な学術論文データが公開されており、様々な観点から研究することが可能です。一緒に研究をしてくれる研究者を募集しています。

冒頭でふれましたScience of Scienceに関する書籍(Dashun Wang et al, 2021)[2]を日本語に翻訳しており、年内に出版する予定です。

 

[1] Asatani, K., Oki, S., Momma, T., & Sakata, I. (2023). Quantifying progress in research topics across nations. Scientific Reports, 13(1), 4759.

[2] Wang, D., & Barabási, A. L. (2021). The science of science. Cambridge University Press.

 

【URL】

坂田・森・浅谷研究室:https://www.sakatalab.t.u-tokyo.ac.jp/