プレスリリース

世界最高電力密度の超薄型音力発電素子の開発に成功 ―会話や音楽、環境騒音など様々な音を利用した高効率の発電を可能に―

 

発表のポイント

◆世界最高電力密度(8.2 W/m2)の超薄型音力発電素子の開発に成功した。
◆この音力発電素子は、圧電材料を含む柔らかいナノファイバーシート3層から構成されており、総厚さは50マイクロメートルと極薄である。
◆会話の音や周辺からの音楽といった環境音を用いて発電することが可能であるため、今後、モノのインターネットIoTやウェアラブル機器への様々な音を用いた電力供給が期待される。

 

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発表概要

東京大学大学院工学系研究科のOsman Goni Nayeem特任研究員(研究当時)、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授らは、薄型発電素子としては世界最高電力密度の超薄型音力発電素子を開発しました。この音力発電素子は、非常に柔軟な特性を持つ3層のナノファイバーシートで構成されており、総厚さは50マイクロメートルと極薄です。すべての層に通気性があり、平らな基板の上に製造される従来の薄型発電素子よりも環境音を用いて大きな電力を生み出すことができます。さらに、圧電材料(注1)で形成したナノファイバーシートのファイバーを一方向に配向させることで、薄型音力発電素子の中で、世界最高の電力密度を実現することに成功しました。今後、モノのインターネット(IoT)やウェアラブル機器への様々な音を用いた電力供給が期待されます。

本研究成果は、2023815日付で米国科学誌「Device」のオンライン版で公開されました。

 

発表内容

〈研究の背景〉

近年、電子機器の小型化と高性能化が進み、ウェアラブル機器やIoTの普及が進んでいます。それに伴い、交換不要な電源の開発が望まれていました。このような状況で、周囲の環境に存在する微小なエネルギーを電力に変換する環境発電技術は、持続的な電力源としての応用が期待されています。環境発電技術の中で、音響エネルギーを用いた発電は、光や温度などを用いたエネルギー源に比べて季節や地域の気候変動の影響を受けにくいため、持続的な電力源としての可能性が注目されています。これまで、圧電材料を用いた発電床システムや、特定の周波数を持つ音響エネルギーを共鳴させて増幅できる立体的な構造を持つ音力発電素子が提案されてきました。しかし、薄型で高効率な音力発電素子を実現することは困難であるとされていました。これは、一般的に電力変換効率を向上させるために用いられる立体的な構造などを、薄い素子に持たせることが困難であること、また音による振動を増幅させるための微細な穴などの構造を薄型素子に加工することが技術的に難しかったためです。さらに、薄型素子は従来の厚い素子と比べて、同じ音による変形が大きくなってしまうため、薄さと耐久性を両立することも課題となっていました。

 

〈研究の内容〉

本研究グループは、電界紡糸法(注2)によって形成した複数のナノファイバーシートを積層することで、超薄型(50マイクロメートル以下)のナノメッシュ音力発電素子を開発することに成功しました。開発した発電素子は、2層のナノファイバー電極シートで、圧電材料であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)のナノファイバーシートを挟むことで形成されています(図1)。ナノファイバーシートはファイバー径が数百ナノメートルの多数のファイバーから形成されているため、シート上に多数の微細な穴がある構造を持っています。すべての層に通気性があり、音による空気の振動が圧電材料であるPVDFナノファイバーシートに直接伝わるため、平らな基板の上に製造される従来の薄型発電素子よりも環境音を用いて大きな電力を生み出すことができます。さらに、PVDFナノファイバーシートのファイバーを一方向に配向させることで、世界最高の電力密度(8.2 W/m2)を実現しました(図2)。

 

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図1:超薄型ナノメッシュ音力発電素子の構造(左)及び各層の拡大図(右)
ナノファイバーを用いているため、柔軟性と通気性を兼ね備える。

 

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図2:ナノメッシュ音力発電素子の発電性能
115 dBの音源に対して、薄型音力素子の中で世界最高の電力密度(8.2 W/m2)を生成する。

 

〈今後の展望〉

今回開発した音力発電素子は、周辺からの環境音を高効率で電力に変換することができます。たとえば、開発したセンサをマスクに貼り付け、会話の音や周辺からの音楽を電力に変換することで、発光ダイオード(Light Emitting DiodeLED)を光らせることができました(図3)。さらに、温湿度センサと組み合わせることで、環境の温度と湿度を計測し、無線でデータを転送するセンサシステムの電力源として使用できることを確かめました。今後、IoTやウェアラブル機器への様々な音を用いた電力供給が期待されます。

 

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図3:ナノメッシュ音力発電素子をマスクに貼り付けた例

 

発表者                                          

東京大学大学院工学系研究科

染谷 隆夫(教授)

横田 知之(准教授)

李 成薫(講師)

Osman Goni Nayeem(研究当時:特任研究員)

 

論文情報                                          

〈雑誌〉Device815日付、オンライン版)

〈題名〉High power density nanomesh acoustic energy harvester for self-powered systems

〈著者〉Md Osman Goni Nayeem, Haoyang Wang, Chihiro Okutani, Wenqing Wang, Chunya Wang, Sunghoon Lee, Tomoyuki Yokota, Takao Someya*

〈DOI〉10.1016/j.device.2023.100050

〈URL〉https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666998623000741

 

研究助成

本研究は、科研費「国際共同研究加速基金(国際先導研究)(課題番号:22K21343)」の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)圧電材料

応力を電気に、もしくは、電気を応力に変換できる材料のこと。

 

(注2)電界紡糸法

溶解した材料に電界を印加し、紡糸する手法。細く尖ったノズルに高電圧をかけて液状の材料を噴出させることによって、直径がナノ寸法のファイバーを作ることができる。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Device:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666998623000741