プレスリリース

東京大学とNEC、Beyond 5G共同研究技術の社会実装に向けて キャンパステストベッドを活用した取り組みを開始 ~高周波の利活用を目指した未来社会創造に向けた共創活動を立上げ~

 

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(所在地:東京都文京区、研究科長:加藤 泰浩、代表研究室:中尾研究室(教授:中尾 彰宏)、以下「東京大学」)と、日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 CEO:森田 隆之、以下「NEC」)は、高周波の利活用を目指したBeyond 5G共同研究技術の社会実装に向けて、「キャンパステストベッドへの共同研究技術の導入」と「未来社会創造に向けた共創活動」を開始いたしました。

 

両者は2021年12月に「Beyond 5G価値共創社会連携講座」を開設(注1)し、両者の知見を融合した研究開発、および人材育成についての取り組みを開始しています。本キャンパステストベッドでは、その研究開発成果を活用し、社会課題を解決するユースケースの実証を通じて社会実装を目指す取り組みを行います。

 

第5世代移動通信システム(以下、5G)の次世代となるBeyond 5Gの社会実装によって、時間・空間といった物理的制約から解放され、新たなコミュニケーション体験、および生活者の求める多様な価値観に寄り添った働き方や暮らしが実現できるものと考えられています。また、2030年代に期待されている未来社会の実現には、時・場所・人に応じて、超大容量や超低遅延などアプリケーションの要求が多様化することが想定されています。一方で、サイバーセキュリティの観点では、電波の漏れなどによって起こる情報漏洩やハッキングといった社会問題の解決が求められています。

 

解決策として、従来のように時間的・空間的な要素を考慮しない画一の無線通信を提供するのではなく、空間的にきめこまかく限られた領域で通信の可否や通信品質を制御することが考えられます。東京大学とNECは、多様なアプリケーションがその場所で必要な通信品質や安全性を確保できるように、Sub6、ミリ波やサブテラヘルツなどの高周波の特性も生かしながら、安全・安心に情報通信を産業や生命維持に利活用するために、無線品質や安全性を要求に合わせて動的に提供可能な新たな情報通信の世界を創造します。

 

今回取り組みのポイント

1.キャンパステストベッドへの共同研究技術の導入

東京大学とNECが連携して目指す「今だけ・ここだけ・あなただけ、安心安全堅牢な通信」を実現していくためには、柔軟かつ繊細な通信を提供できる可能性を持つ、高周波を利用していくことが必要となります。高周波は、高速・大容量な通信が提供できる一方で、その周波数特性が要因で、遮蔽物に弱く通信エリアの構築が困難なことが知られています。このような限られた通信エリアにおける通信の利用効率の向上のためには、利用者のアプリケーション品質要求を正確に捉え、優先的に高周波を利用することや、時にはSub6の利用に限定するといった、動的な通信制御が必須となります。

今回、時間的・空間的な分解能を高め周波数利用効率を向上させる「ダイナミック時空間スライシング技術」(注2)と、体感品質(Quality of Experience、以下QoE)や通信品質の変動を予測し、QoE要件を満たすよう通信リソースを制御する「End-to-End QoE制御技術」(注3)を、東京大学本郷キャンパスに構築しているキャンパステストベッドへ導入し連携させることにより、高周波の活用も考えた新たな通信制御が可能になり、社会実装に向けた様々な実証やユースケースの創出を目指しています。

 

fig1共同研究技術の利活用をキャンパステストベッドで推進

 

2.未来社会創造に向けた共創活動の開始

5Gは通信基盤としての役割に加え社会基盤にもなりつつあり、Beyond 5Gは新たな社会システムであるSociety 5.0の実現のための中核的な機能を担うことが期待されています。2030年代には、Beyond 5Gは時間・空間といった物理的制約を解放し、生活者の求める多様な価値観に寄り添った働き方や暮らしを可能とする新たな社会基盤への進化が求められています。

そこで求められるBeyond 5Gの機能要件として、これまでの5Gの特徴的機能である「高速・大容量」、「低遅延」、「多数同時接続」の更なる高度化のみならず、新たに「自律性」、「拡張性」、「超安全・信頼性」、「超低消費電力」といった機能が挙げられています。これらの実現には、前述の東京大学とNECが取り組んでいる共同研究技術を活用した「今だけ・ここだけ・あなただけ、安心安全堅牢な通信」が貢献できると考えています。

 

このBeyond 5Gを用いた未来社会創造の一つとして、キャンパスやその周辺をベースとした未来シーンの検討を両者で行いました。未来のキャンパスでは、敷地内を行き交う個人を認識し、それぞれに適した移動手段や食事の提供、ホログラムを活用したコミュニケーションなどの個人に寄り添ったサービスが生まれてきます。このようなサービスを実現するために、時間・場所・人に応じてQoS(Quality of Service、以下QoS)を動的に制御しながら最適な通信を提供していくことが求められます。

 

fig2

2030年代の未来シーン例

 

「今だけ・ここだけ・あなただけ、安心安全堅牢な通信」は、工場・倉庫・建設現場・商業施設・教育機関・エンターテインメントなど様々な産業での新たなシーン創出につながると考えています。今後は、新たな未来社会創造に向けて様々な産業からパートナーを集めながら社会実装に向けた共創活動を推進していきます。

 

両者は、Beyond 5G共同研究技術の技術有用性と社会受容性の両面をキャンパステストベッドで実証し、社会実装を目指します。本キャンパステストベッドを苗床として、共同研究技術以外の東京大学/NECの技術(Local 5Gシステム、生体認証システムなど)やパートナーの技術を活用しながらBeyond 5Gの新たな価値創出に向けて共創活動を推進していきます。

 

 

注1:東京大学とNECBeyond 5G技術の確立に向け「Beyond 5G価値共創社会連携講座」を開設

https://jpn.nec.com/press/202202/20220215_02.html

 

注2:ダイナミック時空間スライシング技術(東京大学研究技術)

本技術では、これまでの画一的なネットワークスライス(ネットワークを流れるフローを識別し、各フローに対して通信資源を割り当て、それぞれ分離・独立して運用される技術)から、時・場所・人といった要求に合わせて、オンデマンドにネットワークスライスを提供できるよう拡張します。特に、多様なアプリケーション品質要求を満たせるよう、ネットワークスライスに対して、通信品質制御を施します。このQoS制御として、無線と有線の両ネットワーク区間における帯域制御や優先制御を行います。

これまで東京大学では、スマートフォン上のアプリケーションが生成するパケットに対して、イベント情報(例えば、測位情報)を挿入し、そのイベント情報に基づくQoS制御を実現してきました。この技術を利用することによって、例えば、ある特定エリアに居る利用者に対して、優先的に高品質な通信を提供することが可能となります。今後、この技術を、5Gシステムに拡張させていき、Beyond 5Gに資するダイナミック時空間スライシング技術の実現を目指していきます。さらに、本技術をAPIとして実装・公開することで、後述するEnd-to-End QoE制御技術との連携を促進します。

 

3End-to-End QoE制御技術(NEC研究技術)

本技術では、高周波の特性を活かしつつアプリケーションの体感品質を確保することを目的に、QoEや通信品質の変動を予測し通信リソースを最適に制御します。End-to-End QoE制御技術は、映像分析やロボット制御などの多様なアプリケーションの特性を学習し、現場で変化する通信品質を予測し、その変動に合わせてスケジューリングや接続先基地局の選択など通信リソースの最適な制御手段をAIにより自動決定します。その結果、アプリケーションのQoE確保が可能となります。End-to-End QoE制御の効果をさらに高めるためには、ネットワーク側のよりきめ細やかな制御が必要であり、前述のダイナミック時空間スライシング技術との連携による実現を目指します。

 

 

 

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