プレスリリース

Beyond 5Gの社会実装に向けた共創活動の実施結果と今後の展開について ~教育活動への貢献を通じて、今だけここだけあなただけ・安心安全堅牢な 通信の社会受容性を確認~

 

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(所在地:東京都文京区、研究科長:加藤泰浩、同研究科中尾研究室教授:中尾彰宏、以下「東京大学」)と、日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO:森田隆之、以下「NEC」)は、Beyond 5G共同研究技術の連携および社会実装に向けた検証を東京大学本郷キャンパスのキャンパステストベッド1)で行い、両者の技術の有効性と社会受容性を確認することが出来ました。

なお、今回の共創活動は、東京大学が20242月に発表し、NECが第一号として認定された呼称制度(注2)を活用した人材交流の一環として行われたものです。両者は今回の検証結果を基に、新たな企業や大学等への参画も呼びかけながら、Beyond 5Gの新たな価値創造に向けた活動を強化して行きます。

 

1.共創活動の概要

共創活動では、東京大学の「ダイナミック時空間スライシング技術」(注3)と、NECの「End-to-End QoE 制御技術」(注4)を連携させ、次世代ネットワークに求められる、ユーザーの状態を元に動的に通信品質を制御する「今だけここだけあなただけ・安心安全堅牢な通信」をキャンパステストベッドに新たに実装しました。

また、東京大学の講義に両者の社会連携講座のメンバーが参加し、学生による未来シーンの検討(医療、教育現場等での活用)を支援し、社会課題からアプローチすることの重要性を学生に伝えると共に、両者で検討した未来シーンを具現化するアプリケーションを構築し検証を行いました。

 

2.共同研究・検証結果並びに今後の展開について

(1)共同研究

キャンパステストベッドに実装した両者の技術を進化させ連携することで、「今だけここだけあなただけ・安心安全堅牢な通信」を実現しました。End-to-End QoE 制御技術は、ユーザーの利用しているサービスを検知し、それに対する通信要件を判別する機能を実装しました。また、ダイナミック時空間スライシング制御技術は、動的な測位ベースだけでなく時間やユーザーの動きに対応した制御機能を実装しました。これらを連携することで、次世代ネットワークに求められるユーザーのサービス要件を元にNW制御を行い、ユーザーの状態に合わせて通信品質を確保できるようになりました。

 

fig01

連携イメージ

 

(2)「ホログラムサービス」(注5)を用いた、本通信技術の社会受容性の検証結果

共創活動の第一弾として、未来シーンとして期待される「ホログラムサービス」を用いて、本通信技術の社会受容性の検証を行いました。

End-to-End QoE 制御技術によってホログラムサービスに必要な通信帯域を設定し、ダイナミック時空間スライシング技術によってユーザー1人ひとりの専用スライスを空間的に生成します。これにより、ユーザーの状況に応じて安定した品質でサービス提供を継続し、「今だけここだけあなただけ」の通信を実現可能であることを確認しました。

また、位置情報やユーザーの状態に基づいたアクセス制御により、ユーザーのサービス中断の意思に応じて通信を適切に停止することで情報漏洩リスクを軽減し「安心安全堅牢」な通信であることを確認しました。サービス中断に伴い冗長な通信を抑制することによる通信リソースの削減、再開時は再度必要リソースを割り当てることによる通信リソースの最適制御を、ダイナミックに制御可能であることを確認しました。

 

fig02

今だけここだけあなただけ・安心安全堅牢な通信

 

実証実験に参加した学生や大学スタッフからは、ユーザーの観点から「従来の通信と比較して高画質なホログラム映像を途切れることなく見ることができた」「席を離れる際には自動で映像が途切れるので、ログアウトなどの手間がかからず、勝手に見られたり操作されたりする心配もなく安心して利用できた」などのフィードバックがありました。

また、日常で利用するその他のアプリケーションにおいても、本通信技術を用いればより安心感があるなど、ポジティブなコメントが数多く寄せられました。

 

(3)今後の展開について

2030年のBeyond 5G時代には、時・場所・人に応じて、超大容量や超低遅延などアプリケーションの要求が多様化することが想定されています。

このような未来には、限られた通信リソースを効率的かつ柔軟に各ユーザーの要求に応じて提供する技術が必要となります。加えて、近年重要視されているサイバーセキュリティの観点では、工場・ビル・施設などからの電波が意図せずに傍受されることによって引き起こされる情報漏洩やハッキングといった社会問題の解決が求められています。

 

東京大学とNECは、従来のように時間的・空間的な要素を考慮しない画一の無線通信ではなく、多様なアプリケーションがその時・その場所に応じて必要な通信品質や安全性を動的に提供可能な無線通信を、共同研究技術を用いて実現します。

 

「今だけここだけあなただけ・安心安全堅牢な通信」の社会受容性が検証できたことを受け、今後両者は継続して本キャンパステストベッドを苗床とし、Beyond 5Gの価値創出に向けて、東京大学とNEC以外の企業との共創にも拡大した活動を目指します。

 

以上

 

 

注1:東京大学とNECBeyond 5G共同研究技術の社会実装に向けてキャンパステストベッドを活用した取り組みを開始 

https://jpn.nec.com/press/202202/20220215_02.html

 

注2:<東京大学大学院工学系研究科、産学連携を更に加速> 社会連携講座の取組促進に寄与する人材への呼称制度を創設

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-02-07-001

 

注3:ダイナミック時空間スライシング技術(東京大学研究技術)

これまでの画一的なネットワークスライス(ネットワークを流れるフローを識別し、各フローに対して通信資源を割り当て、それぞれ分離・独立して運用される技術)から、時・場所・人といった要求に合わせて、オンデマンドにネットワークスライスを提供できるよう拡張する技術を指します。特に、多様なアプリケーション品質要求を満たせるよう、ネットワークスライスに対して、通信品質制御を施します。このQoS制御として、無線と有線の両ネットワーク区間における帯域制御や優先制御を行います。 これまで東京大学では、スマートフォン上のアプリケーションが生成するパケットに対して、イベント情報(例えば、測位情報)を挿入し、そのイベント情報に基づく QoS 制御を実現してきました。この技術を利用することによって、例えば、ある特定エリアに居るユーザーに対して、優先的に高品質な通信を提供することが可能となります。

 

注4:End-to-End QoE 制御技術NEC 研究技術)

本技術では、高周波の特性を活かしつつアプリケーションの体感品質を確保することを目的に、QoEや通信品質の変動を予測し通信リソースを最適に制御します。End-to-End QoE 制御技術は、映像分析やロボット制御などの多様なアプリケーションの特性を学習し、現場で変化する通信品質を予測し、その変動に合わせてスケジューリングや接続先基地局の選択など通信リソースの最適な制御手段をAIにより自動決定します。その結果、アプリケーションのQoE確保が可能となります。End-to-End QoE制御の効果をさらに高めるためには、ネットワーク側のよりきめ細やかな制御が必要であり、前述のダイナミック時空間スライシング技術との連携による実現を目指します。

 

注5:ホログラムは、「映像が立体的に記録・再生されている媒体」のことを指し、三次元かつ本来実現できない視点で対象物を観察できるという特質から、様々な分野で活用が期待されています。教育現場においては物理学・生物学・地理学の学習効果向上、遠隔授業、医学実習への応用など、人間本来の能力・時間・空間を超えた実践教育を可能にすることが期待されています。

一方でホログラムサービスの実現には、安定した大容量データ通信が必要であり、同時に個人情報や機密情報が含まれる可能性があるため、他者からアクセスされないようにセキュリティを確保する必要があります。

 

研究助成

本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究(JPJ012368C01201)により得られたものです。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル