プレスリリース

コンパクトなセルロースナノファイバー(CNF)パウダーを開発 ―水に混ぜると、無色透明で液だれしない液体になる―

 

【研究成果のポイント】
◆開発したCNFパウダーは、固形分100%なので、コンパクトに運搬・保管できる。
◆CNFパウダーを混ぜた液体は、無色透明で、霧吹きしても液だれしない。
◆化粧品やサニタリー用品の増粘剤として、CNFの更なる活用が期待される。

概要
fig1大阪大学産業科学研究所 能木雅也教授らの研究グループは、コンパクトで持ち運びしやすいセルロースナノファイバー乾燥粉末(CNFパウダー)を開発しました(図左上)。水のようにサラサラした液体は霧吹きすると液だれしますが、このCNFパウダーをまぜると液だれしなくなります(図下)。また、その液体は無色透明を保つため(図右上)、化粧品やサニタリー用品での増粘剤としての利用が期待されます。
これまでCNFは、化粧品やボールペンインクの増粘剤などに利用されてきました。従来のCNF増粘剤は、90%以上の水を含んだペースト状であり、そのほとんどを水が占めるため、運搬・保管に課題がありました。そこで、CNFペーストを加熱して水分除去(加熱乾燥)した粉末や、CNFペーストから水分昇華(凍結乾燥)させた粉末が提案されていました。しかし、それらCNFパウダーは、静電気を発生して周囲に付着しやすい、水に混ぜると白く濁る、霧吹きすると液だれするといった課題がありました。
今回、能木教授らのグループは、CNFペーストをアルコール脱水・凝固し、その凝集物を風乾して、CNFパウダーを製造しました(動画URL参照)。このCNFパウダーは、ボリュームも小さく(嵩密度が高く)静電気を著しく低減できるため、運搬・保管の問題を解決します。そして、水に加えても無色透明な外観を保つため、商品の色あいを変化させないという添加剤として優れた特徴を持ちます。さらに、水に加えるとネバネバした液体になりますが、かき混ぜるとサラサラになり、放置するとネバネバした状態に戻ります。この特異的な性質が、「霧吹きしても液だれしない」という現象を生み出します。
CNFパウダーの作製方法は、下記URL・右QRコードにて動画公開しております。QR
https://youtu.be/xLfPd0ML_A4
本研究成果は、2023年6月2日に米国科学誌「Macromolecular Rapid Communications」(オンライン)に掲載されました。(オープンアクセス)

 

研究の背景
2006年、東京大学の齋藤継之らが発表したTEMPO酸化CNFは、幅2-4nmとCNFの中でも最も微細なナノファイバーです。このように超微細な繊維が水中で均一分散すると、霧吹きしても液だれしないという機能が発現します。例えば、水のようにサラサラした液体を霧吹きすると、着弾した後に液だれします(図1a)。液ダレないように増粘剤を加えると、粘度が高くなりすぎて、霧吹きできなくなることがあります(図1b)。一方、TEMPO酸化CNFを加えた水は、ノズルを押すと一時的に粘度が小さくなって吐出され、着弾すると粘度が大きくなって、液だれを防ぎます(図1c)。粘度が大きく変化するという性質は、あらゆる増粘剤のなかでもTEMPO酸化CNF特有の性質です。そのためTEMPO酸化CNFは、増粘剤として幅広く商用利用されており、なかでもTEMPO酸化CNFを加えたボールペンは、2015年に発売されて以来、全世界でのロングセラー商品となっています。

 

fig2

 

このように増粘剤として大ヒットしているTEMPO酸化CNFですが、固形分数%・水分90%以上という低固形分濃度ペースト(図2左)で流通しており、過剰な水分が流通・保管の問題を生んでいます。そこで、水を含まないCNFパウダーの開発が求められていましたが、従来のCNFパウダーは、CNFペーストと比較して、増粘剤の性能が大きく劣っていました。

 

研究の内容

従来のCNF増粘剤は固形分2%のペースト状であり(図2左)、その体積のほとんどが水です。このペーストを水に加えると、CNFが液中で均一分散するので、無色透明な液体となり(図2中)、ノズルを引っ張ると粘度が小さくなって吐出され、着弾すると粘度が大きくなって、液だれを防ぎます(図2右)。

能木教授らのグループは、CNFペーストをエタノールなど有機溶媒に浸漬して脱水・凝固させ、凝固させたものを風乾して、CNFパウダーを製造しました(動画URL参照)。このCNFパウダーは、CNFペーストを脱水・凝固しているので、固形分重量の同じCNFペーストと比べると圧倒的に小さな体積になり(図7)、パウダー1粒ずつが適度な重量を持つため、静電気で周囲に付着することはありません(図6右)。そして、このCNFパウダーを水に加えると、CNFが水中で均一分散するので、無色透明な液体となり(図3中)、霧吹きしても液だれしません(図3右)。

CNFペーストを110℃オーブンで乾燥したCNFパウダーも、水を含まないので、CNFペーストに比べて非常に小さな体積になります(図4左)。しかし、このパウダーを水に加えると、CNFが液中で均一分散しないので、白濁した液体になります(図4中 瓶の後ろラインが見えない)。また、吐出されて着弾しても、粘度が大きくならず小さいままなので、液だれします(図4右)。

CNFパウダーを作る方法として、CNFペーストを凍らせ、凍った水を昇華させる(凍結乾燥)という方法もあります。このCNFパウダーを水に加えると、CNFが液中で均一分散するので、無色透明な液体となり(図5中)、霧吹きしても液だれしません(図5右)。この乾燥では、CNFペーストから水が抜けても体積収縮せず、水が存在した場所は空隙として残ります。そのため、CNFパウダーは体積のほとんどが空気であり、重量のわりに大きな体積になっています(図7)。このようにフワフワした粉末は、静電気によって、周囲に付着するため、ハンドリングが非常に難しいです(図6左)。

 

このように、能木教授らのグループが開発したCNFパウダーは、コンパクトでボリュームが小さく・帯電の影響も受けないためCNFペーストが抱えていた運搬・保管の課題を解決できます(図7)。そしてCNFパウダーは、水に加えても無色透明な外観を保ち、霧吹きしても液だれしないなど液体の粘性を大幅に改善します。

 

fig03

図2 (左 CNF ペースト、固形分濃度 2%(中)水に加えると無色透明な液体(右) 霧吹き しても液だれしない

 

 

fig04

図3(左)開発したCNF パウダー(中)水に加えると無色透明な液体(右) 霧吹き しても液だれしない

 

 

fig05

図4(左)110 ℃オーブン乾燥で作製した CNF パウダー(中)水に加えると水は白濁不透明になる(右)霧吹きすると液だれする

 

 

fig06

図5(左)凍結乾燥で作製したCNF パウダー(中)水に加えると無色透明な液体になる(右)霧吹きしても液だれしない

 

 

fig07

図6(左)凍結乾燥で作製したCNF パウダーは、静電気によって色んなところに付着する(右)

我々 の CNF パウダーは、帯電の影響を受けず、ハンドリングが容易である

 

 

fig08

図7 同じ CNF 重量のサンプル。(左)体積の9割以上が水となるCNFペースト(中)

体積の9割以上が空気となるCNFパウダー(右)開発したCNF パウダー

 

 

特記事項

本研究成果は、2023年6月2日に米国科学誌「Macromolecular Rapid Communications」(オンライン)に掲載されました。(オープンアクセス)

タイトル:“Evaporative Dry Powders Derived From Cellulose Nanofiber Organogels to Fully Recover Inherent High Viscosity and High Transparency of Water Dispersion”

著者名:Hitomi Yagyu, Takaaki Kasuga, Nodoka Ogata, Hirotaka Koga, Kazuho Daicho, Yohsuke Goi, and Masaya Nogi

DOI:https://doi.org/10.1002/marc.202300186

なお、本研究は、JST CREST (JPMJCR22L3)の一環として行われました

 

参考動画

図1 動画バージョン https://youtu.be/lQ2wYXQGnPQ

3分解説動画(日本語) https://youtu.be/Hy_KMWA4Lfc

3分解説動画(英語) https://youtu.be/PAEd36v_SjI

ご興味あれば、是非、視聴してください。

 

参考URL

能木 雅也 研究者総覧URL 

https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/c7790bc7e8ffd104.html

能木 雅也 ウェブサイト

http://www.nogimasaya.com/

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Macromolecular Rapid Communications:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/marc.202300186