プレスリリース

1.発表者
杉田 直彦(東京大学 大学院工学系研究科 附属人工物工学研究センター 教授)

2.発表のポイント:
◆低コストかつ簡便で高性能AR手術ナビゲーションを開発し、医療機器薬事認証を取得
◆モバイル携帯端末を用いたARシステムによる低コスト、簡便性、高性能の全てを実現
◆高い汎用性による正確なナビゲーション手術の普及と医療費の国内還元循環、海外マーケットへの進出を期待  

3.発表概要: 
人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty;以下、TKA)において、正確な骨切りによる良好な下肢アライメント(注1)の獲得は、術後成績に直結する最重要課題の一つであり、それをアシストする様々なシステムが導入されている。しかしその殆どが高価で操作が煩雑となるため普及には至っていない。この課題を解決すべく、東京大学と国内医療機器製造販売業のシェルハメディカル株式会社にて、低コストかつ簡便で高性能なAR(Augmented Reality;拡張現実)手術ナビゲーションの研究成果として「Ortho Raptorナビゲーションシステム」(類別:機械器具 12 理学診療用器具、一般的名称:手術用ナビゲーションユニット)を開発し、TKA用AR手術ナビゲーションとしては国内初となる医療機器薬事認証を取得した。
市販されているモバイル携帯端末を用いることにより、低コストの製品化を実現した。またAR機能による直観性を高め術者の使い易さを追求し、さらに低反射特殊技術を用いて手術用のARマーカーも開発し、手術室の無影灯下でも高い認識性能を持つARシステムとなった。本システムによりTKAにおけるナビゲーション手術を促進させることで、正確かつ短時間の手術による更なる患者の満足度とQOLの向上へ寄与が期待される。また、膝関節・股関節合わせた関節症患者へ展開し、術前三次元計画情報および術中運動計測の連携も含めた複合的なシステムの構築を目指す予定である。

4.発表内容: 
近年コンピュータ技術が発達し、それを用いた手術(コンピュータ支援手術;Computer Assisted Surgery;以下、CAS)において手術支援システムの開発、導入がされている。また、整形外科領域においても赤外線を用いた光学式手術ナビゲーションが国内に多数導入されている。しかしながらこれらシステムのコストは大変高く、病院施設への導入には数千万円から数億円のコストが必要となる。またこれらのシステムでは術前のセッティングや術中に患者への術具固定などの作業が発生し、手術時間の延長や操作の煩雑性が課題となっている。また、患者の骨に術具を固定することによって骨折を生じた事例も報告されている(注2)。
人工膝関節置換術(TKA)はアメリカでは年間100万例施行されており、国内でも年間10万例が施行され、近年の高齢化に伴い年々増加傾向である。TKAにおいて正確な骨切りによる良好な下肢アライメントの獲得は、人工膝関節の寿命や可動域の制限などの術後成績に直結する最重要課題の一つであり、これまで骨切りをアシストする様々な光学式手術ナビゲーションシステムが導入されてきた。近年では光学式位置計測器の代わりに加速度センサを用いた簡易で低コストであるポータブルナビゲーションシステムが導入されているが、回旋方向の計測ができないなどTKAに必要な全ての軸をサポートしているわけではない。さらに、このシステムを含め人工膝関節置換術全体の数パーセント程度しかCASが普及していないのが現状である。
これらの課題を解決すべく東京大学と国内医療機器製造販売業のシェルハメディカル社にて低コストかつ簡便で高性能なAR手術ナビゲーションの研究成果として「Ortho Raptor」を開発し、TKA用AR手術ナビゲーションとしては国内初となる医療機器薬事認証を2021年2月22日に取得した。当システムは市販されているモバイル携帯端末を用いることにより低コストの製品化を実現し、AR機能で直観性を高めることで術者の使い易さを追求した。また、可視光領域の反射率1%以下という低反射特殊技術を用いて手術用のARマーカーを開発し、術野を強力に照らす無影灯下でも高い認識性能を持つARシステムを実現した。これらの技術により計測誤差0.5 mm、0.8°という高性能な計測を実現した。さらに、このARマーカーは患者へ直接固定せず手術器械に取り付ける方式のため患者の骨折の危険性を回避している。これらの研究開発により、本システムはTKAに必要な全ての軸を高性能にサポートし、低コストと簡便さを兼ね揃えたシステムとなった。
本システムによりTKAにおけるナビゲーション手術の促進と、正確かつ短時間での手術による患者の満足度およびQOL(Quality of Life;生活の質)向上への寄与が期待される。さらに殆どが海外資本で占める国内マーケットにおいて国産品による医療費の国内還元循環を図る。また、原理的には人工股関節置換術、骨切り術への展開が可能であるため、膝関節、股関節合わせた関節症患者へ適応し、術前三次元計画情報および術中運動計測の連携も含めた複合的なシステムの構築を計画している。加えてモバイル携帯端末が世界的に普及しているという利点を活かし、場所や低医療費マーケットなどを選ばない海外での普及も目指す。

5.注釈
注1 下肢アライメント:
脚の並び方,位置関係のこと。アライメントが悪いとO脚やX脚となる。

注2 参考文献:
栗山新一、百名克文、玉置康之、田中康之、藤田俊史、井上悟史:人工膝関節全置換術に用いたナビゲーション から起因する合併症.中部整災誌 2010;53:763-764

6.添付資料:

(a)


(b)


(C)

図1:AR手術ナビゲーション OrthoRaptor の概要
((a)概要,(b)設置方法,(c) 使用中画面)


図2:AR手術ナビゲーションの操作手順

プレスリリース本文:/shared/press/data/setnws_202104120916340867760716_433513.pdf

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP607938_V00C21A4000000/