発表のポイント
◆ CO₂を岩石と反応させ、安定な炭酸塩鉱物として固定する「CO₂鉱物化」は、自然界で起こる地球化学的プロセスを利用してCO₂を安全に固定できる技術として注目されています。CO₂の固定に有望なカンラン石は地球上に大量に存在しますが、種類によってCO₂との反応速度が大きく異なり、その理由は十分に解明されていませんでした。◆ 研究グループが明らかにしたCO₂が鉱物表面に直接反応する「表面反応」を従来の反応モデルに組み込むことで、カンラン石がどのくらいの速さでCO₂を固定するかを定量的に予測することに成功しました。
◆ 本成果により、CO₂を高速に鉱物化できる岩石や地下貯留層を事前に選定できる可能性が高まりました。将来的には、CO₂鉱物化を大規模なCO₂削減技術として利用するとともに、水素生成や重要鉱物回収を組み合わせた新しい地下資源利用への展開も期待されます。

カンラン石を利用した地表および地下でのCO₂鉱物化プロセス
概要
東京大学大学院工学系研究科の邵 子樺 大学院生(研究当時)、梁 云峰 特任研究員、辻 健 教授と、ENEOS Xplora株式会社の研究グループは、CO₂を安定な鉱物として固定するカンラン石(olivine)について、CO₂との反応速度を予測する新しいモデルを構築しました。
CO₂を岩石と反応させ、安定な石(鉱物)として固定する「CO₂鉱物化」は、CO₂を安全かつ長期間固定できる有望な技術とされています。将来的には、直接空気回収(Direct Air Capture: DAC)と組み合わせることで、大気中のCO₂を減らす技術としても期待されています。
カンラン石は地球上に大量に存在し、非常に大きなCO₂固定能力を持つ一方、種類によって反応速度が大きく異なります。本研究では、第一原理分子動力学(ab initio molecular dynamics: AIMD)シミュレーション(注1)と地球化学反応モデル(注2)を組み合わせ、研究グループが先行研究で明らかにしたCO₂と鉱物表面の直接反応を従来の反応モデルに組み込みました。その結果、種類の異なるカンラン石の間でみられる反応速度の違いを説明し、実験で観測された鉱物化時間を高い精度で再現することに成功しました(図1)。
本成果は、CO₂を高速に鉱物として固定できる岩石や地下貯留層を見つけ出すための新たな指針となり、将来的な大規模CO₂固定技術の実現につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年10月14日付でNature Portfolioの学術誌「Nature Communications」にオンライン速報版として掲載されました。

図1:カンラン石によるCO₂鉱物化と新しい表面反応
従来考えられてきた溶解―沈殿反応に加えて、CO₂分子が鉱物表面に直接反応する「表面反応」が、CO₂鉱物化の速度を大きく左右することを明らかにしました。
発表内容
〈研究の背景〉
地球温暖化を抑えるためには、CO₂排出量そのものを削減することに加え、排出を避けることが難しいCO₂を回収し、長期間にわたって安全に固定する技術が重要です。その有力な方法の一つが、回収したCO₂を地下深部に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)です。なかでも近年、CO₂を岩石と化学反応させ、安定な炭酸塩鉱物、すなわち「石」として固定するCO₂鉱物化が注目されています。
CO₂鉱物化は、自然界でも起きているCO₂と岩石の反応を利用する方法です。ひとたび CO₂が鉱物として固定されると非常に安定な状態となり、再び地下から大気中へ漏れ出すリスクを大幅に低減できます。そのため、自然の地球化学的プロセスを利用しCO₂を安全かつ長期間固定する技術として期待されています。特に日本のように地震や地殻変動が活発な地域では、CO₂を安定な鉱物として固定することは、長期的な貯留安全性の向上につながります。また将来的には、大気中のCO₂を直接回収するDACと組み合わせることで、大気中のCO₂を減らす技術へ展開する可能性もあります。
研究グループは2025年に、玄武岩を構成する鉱物の表面とCO₂が水を介さずに直接反応する「表面反応メカニズム」を明らかにしました(参考情報①)。また、鉱物表面に存在する非架橋酸素(non-bridging oxygen: NBO)(注3)の密度が高いほど、CO₂との表面反応が進みやすいことを示しました。これは、CO₂が水に溶けてから鉱物と反応すると考えられてきた従来のCO₂鉱物化について、鉱物表面での直接反応という新たな反応経路を示した成果でした。
しかし、この表面反応の存在が明らかになっても、「どの鉱物が、どの程度の速さでCO₂を固定するのか」を定量的に予測することはできていませんでした。特にカンラン石では、種類によってCO₂との反応速度が大きく異なります。自然界に広く存在するマグネシウム(Mg)に富むカンラン石はCO₂との反応が比較的遅い一方、カルシウム(Ca)を多く含むカンラン石は非常に高い反応性を示し、1気圧のCO₂環境では約2時間でほぼ完全に反応することが報告されています(参考情報②)。同じカンラン石でありながら、なぜこれほど反応速度が異なるのか、また、その違いを予測できるのかは、これまで明らかになっていませんでした。地下でのCO₂鉱物化のフィールド試験においても、カンラン石などを含む岩石層へCO₂を圧入した場合は数か月程度で鉱物化が進むことが報告されてきましたが、従来の地球化学反応モデルでは、同じ反応に数十年から100年以上かかると予測されることもあります。この大きな乖離を説明し、CO₂鉱物化の速度を正確に予測することが、CO₂鉱物化を将来の大規模なCO₂固定技術として利用する上で重要な課題となっていました。
〈研究の内容〉
本研究では、第一原理分子動力学シミュレーションと地球化学反応モデルを組み合わせた新しいモデルを構築し、研究グループがこれまでに提案してきたCO₂の「表面反応」と、従来から考えられてきた「溶解―沈殿反応」を統合することで、カンラン石のCO₂反応速度を予測しました。その結果、CO₂表面反応を考慮することで、種類の異なるカンラン石の間でみられる大きな反応性の違いを説明できるだけでなく、CO₂鉱物化の進行速度も、より正確に予測できることが分かりました。
CO₂表面反応とは、CO₂分子が鉱物表面に存在する非架橋酸素と直接反応する現象です。この反応が起こると、カンラン石の結晶構造からMgやCaなどの金属イオンが溶け出しやすくなり、その結果としてカンラン石の溶解が大きく促進されます。さらに、CO₂濃度が高くなるほど、この表面反応が促進されることも明らかになりました。本研究では、これらの効果を考慮することで、CO₂濃度に応じたカンラン石の見かけの溶解速度定数kの推定を可能にしました(図2A)。

図2:「溶解―沈殿反応」と「表面反応」の組み合わせで決まるカンラン石のCO₂反応速度
(A)CO₂濃度とカンラン石の見かけの溶解速度定数kとの関係。CO₂濃度が高くなるほど表面反応が促進され、見かけの溶解速度が増加します。(B)溶解速度定数kとカンラン石が反応を完了するまでの時間との関係。従来モデルによる予測値と、CO₂表面反応を組み込んだ新しいモデルによる予測値を比較したところ、新しいモデルでは実験で観測された約2時間という反応時間を再現しました。
従来の地球化学反応モデルでは、CO₂表面反応の影響を考慮せず、カンラン石の溶解速度をほぼ一定として扱っていました。そのため、Caを多く含むカンラン石が1気圧のCO₂環境で鉱物化するまでに、数千時間を要すると予測されていました。一方、本研究で明らかにしたカンラン石のCO₂表面反応をモデルに組み込むと、予測される鉱物化時間は約2時間となり、実験で観測された反応時間とよく一致しました(図2B)。この結果は、CO₂と鉱物表面との直接反応が、カンラン石のCO₂鉱物化速度を大きく左右していることを示しています。
これまで、CO₂鉱物化に適した岩石や地下貯留層を評価する際には、主としてMgやCaなどの金属元素をどの程度含んでいるかが重視されてきました。しかし本研究の結果から、鉱物表面に存在する非架橋酸素の密度や反応性も、CO₂との反応性を評価する上で重要な指標となることが示されました。
〈今後の展望〉
CO₂鉱物化を実際の地下で評価するためには、鉱物スケールの反応速度だけでなく、地下にどのような岩石が、どこに、どの程度分布しているのかを把握することが重要です。そこで研究グループでは、地震探査などの地球物理学的手法を用いて、地下におけるカンラン岩や蛇紋岩の三次元的な分布や構造を調べる研究も進めています。今後は、本研究で得られたCO₂鉱物化の反応速度モデルを反応輸送モデルや多相流モデルに組み込み、貯留層スケールでCO₂がどこで、どの程度の速さで鉱物化するのかを予測するシミュレーションへ発展させる予定です。さらに、こうしたシミュレーションに、地震探査から得られる岩石分布や地下構造の情報を統合することで、実際のフィールドにおけるCO₂固定量や鉱物化の進行を、より現実的に予測することを目指します。
また、カンラン石はCO₂を安定な鉱物として固定する上で有望であるだけでなく、近年注目されている天然水素(注4)の生成にも深く関係しています。カンラン石を多く含む岩石であるカンラン岩が地下で水と反応し、蛇紋岩へと変化する過程で、水素が生成されます。日本でもその存在が確認されており、北海道をはじめ国内各地に、カンラン岩や蛇紋岩が分布しています。研究グループでは現在、CO₂鉱物化に加えて、カンラン石を含む岩石から水素がどの程度の速さで生成されるのか、その反応速度を定量的に予測する研究にも取り組んでいます。鉱物の種類や組成、温度・圧力、流体条件などが水素生成速度に与える影響を明らかにすることで、地下における天然水素の生成量や生成速度を予測することを目指しています。CO₂を含む流体によって鉱物の溶解を促進し、新しい反応面を継続的に露出させることができれば、天然水素の生成を人工的に促進しながら、同時にCO₂を安定な鉱物として固定できる可能性があります。
さらに、カンラン石を含む岩石には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)などの重要金属が含まれる場合があります。CO₂を含む流体に適切な化学物質を加えることで、鉱物の溶解を促進し、CO₂を固定しながらこれらの重要金属を回収する「CO₂を利用した鉱物資源回収」への展開も期待されます。つまりカンラン石を多く含む岩石は、環境、エネルギーに関わる多くの問題を解決できる可能性を有する岩石といえます。
将来的には、カンラン石を含む岩石が広く分布する地域において、地下を単なるCO₂の貯留場所として利用するだけでなく、「CO₂の恒久固定」「水素の生産」「重要鉱物の回収」を組み合わせた新しい地下資源システムへ発展させることが期待されます。本研究で得られた原子・鉱物スケールの反応メカニズムを、貯留層スケールのシミュレーションや地震探査による地下構造情報と結び付けることで、ミクロな反応から実際のフィールドまでを一貫して予測する技術の構築を目指します。
〇参考情報:
① プレスリリース:「火成岩がCO₂を瞬時に固定:新しい鉱物化メカニズムの発見」(2025/7/14)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-07-14-001
② Reaction rates are based on Chen, Yuxuan, and Matthew W. Kanan. Thermal Ca2+/Mg2+ exchange reactions to synthesize CO2 removal materials. Nature 638, 972–979 (2025).
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
邵 子樺 博士課程(研究当時、現:特任研究員)
梁 云峰 特任研究員
辻 健 教授
ENEOS Xplora株式会社 e‐テクノロジー・イノベーションセンター
曺 奎煥 センター長
中村 圭助 技術創造2グループ グループマネジャー
論文情報
雑誌名:Nature Communications
題 名:Surface carbonation governs olivine reactivity for rapid CO2 mineralization
著者名:Zihua Shao, Yunfeng Liang*, Gyuhwan Jo, Keisuke Nakamura, Takeshi Tsuji*
DOI:10.1038/s41467-026-78548-z
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-026-78548-z
研究助成
本成果は、ENEOS Xplora株式会社との社会連携講座「革新的デジタル技術によるCCSモニタリング拠点の創成」において実施している研究の一環として得られたものです。また、日本学術振興会(JSPS)による科研費(主に課題番号:JP21H05202、JP22K03927、JP23K04647、JP24H00440)の助成を受け、これまで継続的に進めてきた研究の成果でもあります。
用語解説
(注1)第一原理分子動力学(ab initio molecular dynamics: AIMD)シミュレーション:
原子や分子の動きや化学反応を計算し、鉱物表面でCO₂がどのように反応するかを原子レベルで解析する手法。
(注2)地球化学反応モデル:
鉱物の溶解・沈殿や、鉱物表面と流体との化学反応を数値的に計算し、CO₂鉱物化の進行や反応速度を予測するモデル。
(注3)非架橋酸素(non-bridging oxygen:NBO):
鉱物中でケイ素(Si)同士をつないでいない酸素原子で、鉱物表面ではCO₂と反応しやすい部位として機能する。
(注4)天然水素:
地下で岩石と水が反応することなどによって生成する水素のこと。近年、新たな低炭素エネルギー資源として注目されている。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-026-78548-z
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