発表のポイント
◆ 原子1層の厚さを持つ2次元半導体「単層二硫化モリブデン(MoS₂)」を用いて、室温で発光の強さを電気的に大きく制御できる光電子デバイスを実証しました。
◆ ハフニウムナイトライド(HfN)ゲート電極と金属ナノ構造を組み合わせることで、従来よりも高効率な発光制御と発光増強を同時に実現しました。
◆ 東京大学は、大面積・高品質な単層2次元半導体材料の成長技術を通じて本研究に貢献しました。本成果は、次世代のオンチップ光源、可変発光デバイス、集積フォトニクスへの応用が期待されます。

単層MoS₂を用いた電気的に制御可能な発光デバイスの概念図
出典:PENG TY.ら,『Giant Trion Modulation in Scalable Monolayer MoS₂ via Plasmonic HfN Gates』,Nat. Photon. (2026). https://doi.org/10.1038/s41566-026-01921-3 を基に作成。
概要
東京大学大学院工学系研究科のTUNG Vincent(タン ヴィンセント)教授が参画する国際共同研究グループは、台湾・中央研究院応用科学研究センターのYu-Jung Lu(ルー ユージョン)准研究員らと共同で、原子1層の厚さを持つ2次元半導体(注1)である単層二硫化モリブデン(MoS₂)(注2)を用いた発光制御技術を開発し、室温で発光強度を高効率に電気的制御できる光電子デバイスを実証しました。2次元半導体は次世代の光デバイス材料として期待されていますが、大面積材料を用いて室温で安定的かつ効率的に発光を制御することが課題でした。本研究では、ハフニウムナイトライド(HfN)(注3)をゲート電極として用いることで、MoS₂中のトリオン(注4)の生成を効率よく制御し、従来のシリコンゲート構造と比べて大幅に高い発光変調効率を実現しました。さらに、プラズモニック共振器(注5)を組み合わせることで発光を大きく増強できることも示しました(図1)。本成果の実現にあたり、東京大学は大面積・高品質な単層MoS₂材料の成長技術を提供し、本研究に貢献しました。本成果は、オンチップ光源や集積フォトニクス、光通信デバイスなど幅広い分野への応用が期待されます。

図1:NPoMプラズモンナノキャビティによる単層MoS₂の発光変調
a. AuNDアレイで部分被覆した単層MoS₂のPLマッピング。NPoMプラズモンナノキャビティとの光–物質相互作用により、AuND領域で発光増強が観測された。下段はマッピング領域の光学顕微鏡像およびAuNDアレイのSEM像。b. Al₂O₃/HfN上のMoS₂およびNPoMナノキャビティと結合したMoS₂のゲート依存PLスペクトルと、異なるAuND構造に対する反射スペクトルのシミュレーション。AuND径の増加に伴うPLおよび反射ディップの赤方偏移は、励起子–プラズモン結合とキャリア制御トリオン形成を示す。c. 660 nmにおける非共鳴および共鳴NPoMナノキャビティの電場分布計算。共鳴構造では強い電場閉じ込めが生じ、励起子・トリオンとの結合が促進される。d. 異なるAuND径を有するNPoMナノキャビティと結合した単層MoS₂のゲート依存PLスペクトル。NPoMモードと励起子準位の共鳴結合により発光変調深さが増大し、プラズモン–トリオン結合の重要性が示された。
発表内容
スマートフォン、光通信、センサー、量子技術といった分野において、チップ上で光を発生させ、光の強さや波長を制御する技術の重要性が一層高まっています。特に、半導体チップの上に直接組み込むことができる小型の光源や可変発光デバイスは、次世代の情報処理や通信技術の基盤として期待されています。
その候補材料の一つが、原子1層の厚さを持つ2次元半導体です。代表的な材料である単層二硫化モリブデン(MoS₂)は、極めて薄いにもかかわらず光を強く吸収・発光する性質を持っています。また、電圧をかけることで材料中の電子の状態を変え、発光特性を制御できる可能性があります。
一方で、これまでの研究では、発光制御の効率不足や大面積での均一動作の困難さ、そして室温における安定した強い発光制御の実現が課題でした。特に、実験室レベルの微小な試料で得られた成果を、実用的なデバイス面積へ拡張することは困難とされてきました。
本研究グループは、単層MoS₂とハフニウムナイトライド(HfN)ゲート電極を組み合わせることで、MoS₂中の電荷状態を効率よく制御することに成功しました。その結果、発光強度において約24%の変調を実現しました。この値は、従来の高濃度ドープシリコンゲートを用いた場合と比較して約5倍高い変調効率に相当します。また、5,000平方マイクロメートルを超える大面積領域で発光制御が可能であることも示されました(図2)。
さらに、研究グループは、金属ナノ粒子と金属鏡構造からなるプラズモニック共振器を導入しました。この構造は、光を極めて小さな空間に閉じ込め、MoS₂との相互作用を強める役割を果たし、発光強度を46倍に増強しながら、電気的な発光制御を維持できることが確認されました。
東京大学の研究グループは、大面積・高品質な単層2次元半導体材料の成長技術を通じて本研究の根幹を担いました。2次元半導体デバイスの性能は、材料の均一性や結晶性、面積拡張性によって左右されます。東京大学が蓄積してきたウエハースケール単層2次元材料の成長技術は、本研究で実証されたスケーラブルな光電子デバイスの材料基盤となりました。
本成果は、2次元半導体を用いた室温動作の可変発光デバイス、オンチップ光源、可視光通信、集積フォトニクス、および光と物質の相互作用を能動的に制御する新しいデバイス技術への展開につながることが期待されます。

図2:単層TMDCデバイスの変調可能領域に関するベンチマーク
各種単層TMDC系における静電的発光制御性を、FOMおよび変調可能領域に基づいて比較したベンチマーク。ピンクの領域は剥離単層膜を示し、一般に高いFOMを示す一方で、変調可能面積は限定的である。もう一方の領域はCVD成長単層膜を示し、大面積化に適する一方で、FOMは低い傾向にある。星印は本研究の結果を示しており、HfNゲート電極とNPoMキャビティを組み合わせることで、高い変調性能と大きな変調可能領域の両立を実現した。
〇関連情報:
中央研究院 Research Center for Applied Sciences Research Highlight
“Giant Trion Modulation in Scalable Monolayer MoS₂ via Plasmonic HfN Gates”
https://www.rcas.sinica.edu.tw/web/highlight/reshl_20260526_en.html
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院工学系研究科
TUNG Vincent(タン ヴィンセント) 教授
FU Jui-Han(フー レーハン) 助教
QI Kai(チー カイ) 博士課程
中央研究院(台湾) 応用科学研究センター
Yu-Jung Lu (ルー ユージョン)准研究員
※本件は、中央研究院(台湾)を中心とする国際共同研究成果であり、東京大学は大面積単層2次元半導体材料の成長技術を通じて本研究に貢献しました。
論文情報
雑誌名:Nature Photonics
題 名:Giant Trion Modulation in Scalable Monolayer MoS₂ via Plasmonic HfN Gates
著者名:Tzu-Yu Peng†, Cheng-Han Lin†, Kai Qi, Jui-Han Fu, Chen-Yu Wang, Jyun-Wei Huang, Jia-Wern Chen, Zheng-Zhe Chen, Hung Wei Shiu, Yao-Wen Chang, Liang-Yan Hsu, Min-Hsiung Shih, Vincent Tung*, and Yu-Jung Lu*(†Contributed Equally *Corresponding Author)
DOI:10.1038/s41566-026-01921-3
URL:https://doi.org/10.1038/s41566-026-01921-3
研究助成
本研究は、JSPS 科研費(課題番号:JP23H00253、JP24K21233、JP25KF0196)、JST ASPIRE(課題番号:JPMJAP2531)、JST CREST(課題番号:JPMJCR24A3)の支援により実施されました。
用語解説
(注1)2次元半導体
原子数個分、または原子1層程度の厚さを持つ半導体材料です。非常に薄いため、通常の半導体とは異なる電気的・光学的性質を示します。
(注2)単層二硫化モリブデン(MoS₂)
モリブデンと硫黄からなる2次元半導体材料の一種です。原子1層の厚さでも光を強く吸収・発光するため、次世代の電子デバイスや光デバイスへの応用が期待されています。
(注3)ハフニウムナイトライド(HfN)
ハフニウムと窒素からなる導電性材料です。本研究では、MoS₂に電圧をかけて発光特性を制御するためのゲート電極として用いられました。
(注4)トリオン
半導体中で、電子や正孔が結びついてできる、電荷を持った発光に関わる状態です。電圧によってその量を変えることができるため、発光制御に重要な役割を果たします。
(注5)プラズモニック共振器
金属ナノ構造を用いて、光を非常に小さな空間に閉じ込める構造です。光と物質の相互作用を強めることができ、発光の増強などに利用されます。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Photonics:https://doi.org/10.1038/s41566-026-01921-3
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