異なる高分子の鎖が平行に並んだ「束状共重合体」―約70年ぶり、共重合体の新カテゴリーを創出―

2026/06/10

発表のポイント

金属有機構造体(MOF)が有するナノ細孔を反応場とすることで、異なる種類の高分子鎖2本が平行に並んでつながった「束状共重合体」の合成に世界で初めて成功しました。
2種類以上のモノマーから合成される共重合体は、モノマーの並び方によって、これまで4つのカテゴリーに分類されてきました。しかし、今回の束状共重合体はどのカテゴリーにも属さず、約70年ぶりに新しい共重合体の基本骨格が創出されました。
高分子鎖同士を束ねたこの新構造は、ソフトマテリアル設計に新たな指針を提供するものであり、高機能プラスチックや電子材料など幅広い分野での材料革新につながります。

 

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今回開発された束状共重合体の概略図

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の植村 卓史 教授と亀谷 優樹 特任助教(研究当時、現 慶應義塾大学助教)らの研究グループは、2種類の異なる高分子(注1)の鎖を平行に並べて結合させた新しい共重合体(注2)「束状共重合体」を合成しました。

異なる種類のモノマー(注3)をつなげて得られる共重合体は、複数の分子特性を1つの高分子素材に集約できるため、さまざまな材料の基盤素材となっています。100年以上にわたる高分子化学の歴史の中で、これまで無数の共重合体が合成されてきましたが、その分子構造はモノマーの並び方に基づいて、「ランダム共重合体」「配列制御共重合体」「ブロック共重合体」「グラフト共重合体」の4種類のみに限られていました。本研究では、金属有機構造体(Metal-Organic Framework: MOF)(注4)が持つナノサイズの一次元細孔を利用することで、異なる鎖が平行に並んでつながった「束状共重合体」の合成に成功しました。これまでの4つのカテゴリーに属さない新たな分類の共重合体が約70年ぶりに創出されたことで、従来の共重合体にはない物性が期待され、既存の設計限界を超えた次世代の機能性高分子材料の開発に新たな道を切り拓くものとなります。

本研究成果は、2026610日(英国夏時間)に国際科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

 

発表内容

私たちの身の回りにあるプラスチックやゴムなどの材料の多くは、モノマー分子が多数つながった高分子でできています。中でも、異なる2種類以上のモノマーから合成される共重合体(コポリマー)は、単一のモノマーからなる高分子(ホモポリマー)とは異なり、それぞれの成分が持つ特性を分子レベルで組み合わせることができるため、強度、柔軟性、接着性などの性質の制御が可能です。1920年代に幕を開けた高分子化学の長い歴史の中で、これまで数多くの共重合体が合成されてきました。そのため、国際純正・応用化学連合(IUPAC(注5は共重合体の結合様式に基づいた分類を定め、モノマーがバラバラにつながった「ランダム共重合体」、特定の順番に並んだ「配列制御共重合体」、異なる高分子鎖同士が末端でつながった「ブロック共重合体」、幹となる高分子鎖から違う鎖が枝分かれした「グラフト共重合体」という4つの基本カテゴリーを設定しました(図1)。これまでに作られた共重合体はそのいずれかの分類に属するものであり、その区分に特徴づけられる物性や機能の探求がなされてきました。

 

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1:共重合体の分類

 

一方で、異なる高分子鎖を平行に並べて「束ねる」ことができれば、それぞれの鎖が持つ特性を維持したまま、鎖同士の密接な接触による分子運動の変化や、相乗的な機能の発現が期待できます。しかし、これまでの高分子合成法では、モノマーや高分子の位置を精密に制御できず、複数の鎖が並んだ束状構造を作ることはできませんでした。そこで本研究グループでは、2025年のノーベル化学賞の対象になった金属有機構造体(MOF)を用いることで、その解決に挑みました。MOFが形成する1ナノメートルほどの一次元細孔を反応場とすることで、1種類目の高分子Aをその細孔内に流し込み、わずかな隙間に2種類目の高分子の原料となるモノマーBを染み込ませます。この状態で高分子Aと結合させながらモノマーBを連結することで、高分子Aと高分子B2本の鎖が平行に並んだ「束状共重合体」の合成に世界で初めて成功しました(図2)。

 

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2:束状共重合体の合成

 

本研究では、シリコーンゴムの主成分であるポリジメチルシロキサンを高分子Aとし、相方である高分子Bとして、アクリル樹脂の主成分であるポリメタクリル酸メチル、もしくはスチロール樹脂として広く利用されるポリスチレンを組み合わせた束状共重合体を合成しました。異種の高分子鎖同士が至近距離で影響しあっていることから、同じ組成の従来型共重合体(ブロック共重合体やグラフト共重合体)と比べて高い熱安定性や異なるガラス転移挙動などを示すことが明らかになりました。

本研究で創出された「束状共重合体」は、高分子化学の歴史に新たな1ページを加えるものです。今後は、光・電子機能を持つ高分子など、さまざまな組み合わせに適用することで、超高速なエネルギー移動材料や革新的な触媒、高機能光学フィルムなど、これまでの高分子設計の常識を覆す次世代材料への展開が期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科

 植村 卓史 教授

 亀谷 優樹 研究当時:特任助教

  現慶應義塾大 理工学部 助教

 

論文情報

雑誌名:Nature Communications

題 名:Synthesis of bundle copolymers as an emergent class of copolymer architecture

著者名:Yuki Kametani, Rintaro Yamaguchi, Yusuke Ando, Yuta Kawasaki, Takashi Uemura

DOI10.1038/s41467-026-73978-1

URLhttps://doi.org/10.1038/s41467-026-73978-1

 

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 若手研究(課題番号:JP23K13788)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(課題番号:JPMJCR20T3)の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)高分子

多数の小さな分子(モノマー)が鎖のように長くつながってできた巨大な分子。プラスチックやゴム、繊維などの身近な素材から医薬品や化粧品まで、さまざまなところで利用されている。

 

(注2)共重合体

2種類以上の異なるモノマーがつながってできた高分子。モノマーの組み合わせや組成、結合の形式を変えることで、単独のモノマーからは得られない性質を1つの高分子に持たせることができる。

 

(注3)モノマー

高分子を構成する基本単位となる小分子。これが化学反応によって次々とつながることで高分子が形成される。

 

(注4)金属有機構造体(Metal-Organic Framework: MOF

2025年のノーベル化学賞の対象にもなった金属イオンと有機配位子から形成される多孔性物質。細孔の大きさや形をナノメートルスケールで精密に設計できることから、吸着材や触媒などへの応用が幅広く検討されている。

 

(注5国際純正・応用化学連合(IUPAC

1919年に設立された、化学における命名法、専門用語、単位、原子量などの標準を定め、世界共通の言語で化学の発展を促進する国際学術組織。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Communicationshttps://doi.org/10.1038/s41467-026-73978-1