ランダムに歩行していると、多くの人は反時計回りに曲がる ―その理由は未解明だが、反時計回りの偏りは個人レベルでも観察される―

2026/06/10

発表のポイント

スペインと日本で実施された実験により、人々はランダムに歩行している時に反時計回りに回転する傾向があることが示されました。この傾向は、単独で歩行している場合でも、集団で歩行している場合でも観察されます。利き手、片眼遮蔽、性別による違いは見られません。
反時計回りの動きを優先した歩行者動線の設計は、時計回りの動線と比べて、より移動しやすい可能性があることを示唆しています。
この研究は、認知的あるいは生体力学的なバイアスの存在を示唆しています。さらに、このバイアスの起源を理解するための追跡研究は、私たちの身体がどのように機能し、どのように環境からの情報を処理しているのかを、より深く理解する助けとなる可能性があります。

 

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ランダムに歩行する人々の集団では、反時計回りの回転が観察される傾向がある。

 

概要

ナバラ大学のEcheverria-Huarte Inaki 助教、および東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻のフェリシャーニ クラウディオ特任准教授(研究当時、現:早稲田大学高等研究所 准教授)を中心とする研究チームは、人々がランダムに歩行する際、時計回りに動く人と反時計回りに動く人の割合が均等ではないことを発見しました。実際には、反時計回りに動く人が全体の約65%を占めており、反時計回りに曲がる方向への偏りが存在することが示されました。

実験はスペインと日本で、さまざまな条件下で実施され、いずれの場合でも同様の結果が得られました。これにより、反時計回りの偏りは強く、幾何学的な配置(正方形、円形、オープンスペース)や文化的背景に関係なく見られることが示されました。

研究の結果、全体として反時計回りに動く傾向は、その方向に強い選好を示す少数の個人に由来していることが明らかになりました。この選好の理由はいまだ不明ですが、利き手、視線の優位性、性別といった単純な仮説は否定されています。

本研究成果は、2026610日(英国夏時間)に科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

 

発表内容

COVID-19の流行中、ソーシャルディスタンスは急速に私たちの日常生活の一部となりました。専門家は、ウイルスの拡散を防ぐには人と人の間に2mの距離を保つことが有効であると判断しました。スーパーマーケットのレジに人々が並ぶような場面ではこの対策を比較的容易に実施できますが、ターミナル駅や公共広場のように、人々がさまざまな方向に移動する場所では、ソーシャルディスタンスをどのように確保すべきでしょうか。

ナバラ大学の研究者らは、1つの空間に何人まで収容すると人々がソーシャルディスタンスを保てなくなるのかを明らかにするために実験を行いました。実験では、参加者に部屋の中を歩いてもらい、移動しながら平均して2mの距離を保つことができる最大の人数密度を測定したところ、その解析から予想外の結果が得られました。部屋の中にいる人々の動きを平均すると、中心の周りを回転する傾向が見られ、その回転方向は常に反時計回りだったのです。

これは完全に予想外の結果でした。なぜなら、自然界における集団運動では、時計回りと反時計回りの動きが同程度に見られ、特定の方向への偏りは生じないと考えられているからです。このナバラ大学の研究者らによる発見をきっかけに、東京大学の研究者らも新たに実験を行いました。反時計回りの選好が生じる理由を明らかにするための一連の実験が行われ、東京大学の研究者らも重要な貢献を果たしました(図1)。

 

fig1

1:本研究で考慮した実験では、M(回転数)が0より大きい場合に反時計回りの回転が観察された。

a=A, b=B, c=C

 

追試実験により、反時計回りの偏りは壁との相互作用とは関係がなく、オープンスペースにおいても人々は反時計回りに回転する傾向があることが明らかになりました。また、右側通行のスペインと左側通行の日本の両方で反時計回りの選好が観察され、歩行や運転の習慣とは無関係であることが示されました。さらに、日本で過去に行われた子どもを対象とした実験データから、5歳程度の子どもであっても反時計回りを好むことが示され、これは経験から学習されたものではなく、生得的な偏りである可能性を示唆しています。加えて、アンケート調査では、多くの人が時計回りの偏りがあると予想していることが示され、反時計回りの偏りは意識的なものでも、社会的規範に基づくものでもない可能性が高いことが分かりました。

 

最後に、個人を個別に対象としたナバラ大学の実験では、この偏りは、反時計回りの回転に強い選好を示す少数の個人によって生み出されており、その人々が全体平均を、両方向が均衡していると期待される状態から反時計回りへとずらしていることが示されました。

これらの知見は、歩行に関わる認知過程に新たな光を当てるものです。時計回りと反時計回りの運動の不均衡は、身体運動の制御過程や感覚刺激からのフィードバックにおける偏りを示唆している可能性があります。さらに、本研究は、集団運動で観察される多くの現象(例えば、廊下におけるレーン形成)が相互作用によって駆動される一方で、個人レベルの偏りが、相互作用が主な要因でなくとも、同様の結果を生み出し得ることを示しています。最後に、より実用的な観点からは、反時計回りの動きを優先した歩行者動線の設計は、時計回りの動線と比べて、より移動しやすい可能性があることを示唆しています。

 

発表者・研究者等情報

早稲田大学高等研究所

 フェリシャーニ クラウディオ 准教授

  研究当時:東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻 特任准教授

 

東京大学大学院工学系研究科

 西成 活裕 教授

 

ナバラ大学(スペイン)

 Garcimartin Angel 教授

 Zuriguel Iker 教授

 Echeverria-Huarte Inaki 助教

 

上海理工大学中国

 Shi Zhigang 講師

 

マドリード・カルロス3世大学/サラゴサ大学(スペイン)

 Sanchez Angel 教授

 

論文情報

雑誌名:Nature Communications

題 名:Individual locomotor bias drives counterclockwise motion in pedestrian crowds

著者名:Inaki Echeverria-Huarte, Claudio Feliciani*, Zhigang Shi, Katsuhiro Nishinari, Angel Sanchez, Angel Garcimartin, Iker Zuriguel

DOI10.1038/s41467-026-73713-w

URLhttps://www.doi.org/10.1038/s41467-026-73713-w

 

研究助成

本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業「世界一の安全・安心社会の実現」領域の「個人及びグループの属性に適応する群集制御(課題番号:JPMJMI20D1)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:JP23K13521JP26K07940)の支援により実施されました。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Communicationshttps://www.doi.org/10.1038/s41467-026-73713-w