金属二次電池の超高効率化を実現する新しい電解液設計指針 ―イオン特性の組み合わせによる副反応の抑制―

2026/05/26

発表のポイント

電池電解液中に存在するイオンの「硬さ・柔らかさ」が、電池反応の起こりやすさを大きく変化させることを発見。
この原理を利用することで、電池の副反応を大幅に抑える新しい電解液設計指針を確立。
水系亜鉛二次電池を用いた実証実験において99.9%を超える世界最高水準の効率を達成。

 

fig1

イオンの「硬さ・柔らかさ」の組み合わせで変わる電池反応の起こりやすさ

 

発表概要

東京大学大学院工学系研究科の山田 淳夫 教授、ZHANG Qiu 東京大学特別研究員(研究当時)KO Seongjae 講師、坂田 大成 大学院生(研究当時)、西村 真一 特任研究員、竹中 規雄 特任講師、北田 准教授、米メリーランド大学のWANG Chunsheng 教授らの研究グループは、電解液(注1)中に存在するイオンの「硬さ・柔らかさ」が、電池反応の起こりやすさを大きく変化させる機構を発見しました。金属二次電池の電解液は、エネルギーの貯蔵・放出を担う金属イオンに加え、正に帯電した陽イオンおよび負に帯電した陰イオンから構成されます。これらのイオンは相互作用し、電池性能に大きく影響するものの、その仕組みは十分に理解されていませんでした。本研究では、金属イオンの周囲に、電荷が一カ所に集まりやすい陽イオン(硬い陽イオン)と電荷が広く分散している陰イオン(柔らかい陰イオン)が同時に存在する環境を設計することで、副反応を高度に抑制しつつ電池効率を飛躍的に向上できることを明らかにしました。

 

発表内容

研究の背景

電気自動車の普及や再生可能エネルギーの拡大に伴い、高性能で安全な次世代電池の開発が強く求められています。その中でも金属二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池を上回るエネルギー密度を実現し得ることから注目されています。この電池では、金属イオンが電子を受け取り金属として析出し、再び電子を放出して金属イオンとして溶解する電気化学反応を利用してエネルギーの貯蔵・放出を行います。しかし多くの場合、エネルギー貯蔵過程(金属析出反応)において電解液の分解を伴う副反応が生じ、電池寿命および効率の大幅な低下につながります。これまで、金属と電解液の直接接触を抑制するための保護被膜を形成するなどの研究が進められてきましたが、十分な効果は得られていませんでした。

 

研究の内容

本研究グループは、金属イオンがより容易に金属として析出する条件の設計に着目しました。通常、金属析出反応は自発的には起こりにくく、これを進めるためには駆動力が必要です。しかし、強い駆動力をかけると、電解液が分解する副反応も同時に起こりやすくなり、電池性能や安全性の低下につながる問題がありました。そこで本研究では、電解液中のイオン間相互作用に注目しました。金属イオンは、陽イオンとの反発および陰イオンとの引力のバランスによって、その熱力学的な安定性(居心地の良さ)が変わります(図1)。

 

fig1

1:イオンの「硬さ・柔らかさ」の組み合わせで変わる電池反応の起こりやすさ

電池電解液中に存在するイオンの「硬さ・柔らかさ」が、電池反応の起こりやすさに直結していることを見いだしました。柔らかい陽イオンと硬い陰イオンが存在する場合(左側)、金属イオンは深い井戸に落ち込んだ状態となり、熱力学的に安定な(居心地の良い)状態になります。このとき、金属析出過程には大きな駆動力(深い井戸から金属イオンを引き上げる力)が必要です。しかし、過大な駆動力は電解液分解を含む副反応を誘発し、その結果、電池効率の低下を招きます。一方、硬い陽イオンと柔らかい陰イオン(右側)を組み合わせると、金属イオンの居心地が悪くなる(浅い井戸に位置する)ため、小さな駆動力でも電池反応が円滑に進行し、高い効率が実現します。

 


このバランスを制御する上での重要な指標が、イオンの「硬さ・柔らかさ」であることを発見しました。電荷が一カ所に集まりやすい陽イオン(硬い陽イオン)による強い反発と、電荷が広く分散した陰イオン(柔らかい陰イオン)による弱い引力を組み合わせることで、金属イオンの安定性を大きく低下させる(居心地を極端に悪くする)電解液を設計しました(図2)。その結果、小さな駆動力でも金属析出反応が進行し、副反応が効果的に抑制されました。水系亜鉛電池を用いた実証実験では、99.9%を超える世界最高水準の電池効率を達成しました(図3)。

 

fig2

2:さまざまな電解液における亜鉛の析出・溶解電位

1 m ZnCl2/H2O(塩化亜鉛/水)電解液に添加される陽イオンおよび陰イオンの「硬さ・柔らかさ」とその濃度により、亜鉛イオンの熱力学的安定性(居心地の良さ)は大きく変化します。この居心地の良さは、析出・溶解電位(井戸の深さ)を測定することで定量的に評価できます。性質の類似した塩(硬いイオン〔濃い色〕同士、または柔らかいイオン〔薄い色〕同士)では、その影響は限定的で、電極電位はほとんど変化しません。一方、性質の異なる塩(硬いイオン〔濃い色〕と柔らかいイオン〔薄い色〕の組み合わせ)では、0.6 V以上の大きな電位差が生じます。特に、硬い陽イオンと柔らかい陰イオンを高濃度に添加すると、亜鉛イオンは浅い井戸に位置し、析出・溶解電位が高くなります。

 

fig33:亜鉛金属二次電池の超高効率化を実現

硬い陽イオン(Li(リチウム)やMg(マグネシウム))と柔らかい陰イオン(TFSIやBETI)を高濃度に加えた水系亜鉛電解液では、亜鉛の析出・溶解電位が大きく上昇し、必要な駆動力が小さくなります。その結果、電解液の分解などの副反応が高度に抑制され、99.9%を超える世界最高水準の効率が実現します。

 

今後の展望

本研究により、電解液中のイオンを単なる輸送担体や構成要素ではなく反応制御因子として再定義し、その性質を精密に設計することで、電池反応(電気化学反応)の起こりやすさや可逆性を自在に制御できることが示されました。本概念は金属電池に限らず、レドックスフロー電池や燃料電池、水電解、有機電気化学デバイスなどにおいても普遍的な反応設計指針となり得るものであり、持続可能なカーボンニュートラル社会の実現に貢献すると期待されます。

 

発表者

東京大学 大学院工学系研究科 化学システム工学専攻

 山田 淳夫 教授

 ZHANG Qiu(ジャン シュウ) 研究当時:東京大学特別研究員(日本学術振興会外国人特別研究員)

 KO Seongjae(コ ソンジェ) 講師

 坂田 大成 修士課程:研究当時

 西村 真一 特任研究員

 竹中 規雄 特任講師

 北田 敦 准教授

 

米メリーランド大学 化学・生体分子工学専攻

 WANG Chunsheng(ワン チュンシェン) 教授

 

論文情報

雑誌名:Nature Chemistry

題 名:Metal electrode potential diverges with ion additions

著者名:Qiu Zhang, Seongjae Ko, Taisei Sakata, Shin-ichi Nishimura, Norio Takenaka, Atsushi Kitada, Chunsheng Wang, Atsuo Yamada

DOI10.1038/s41557-026-02150-5

URLhttps://www.nature.com/articles/s41557-026-02150-5

 

研究助成

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「水を基軸とする未踏蓄電機能材料の開拓」(課題番号:JPMJCR21O6)、JST 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「分散型国際ネットワークが実現する基盤蓄電技術革新とネットゼロ社会」(課題番号:JPMJAP2313)、およびJST 創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR223L支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)電解液

電池の働きを支える中心的な材料の一つ。正極と負極の間でイオンの移動を媒介することで、充電や放電を可能にする。金属二次電池においては、充電時に、正極から金属イオンが電解液を通して負極に移動し、金属として析出する。放電時には、その逆の過程が起こる。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Chemistryhttps://www.nature.com/articles/s41557-026-02150-5