プレスリリース

コンクリートに特化したCO2固定量測定装置の開発

 

発表のポイント

◆ コンクリート中に無機炭酸塩の形で固定化したCO2の量を簡易に測定することが可能な装置を開発しました。
◆ 従来の測定手法は、数日かけて数kgのコンクリートを均一な粉末にして数十mgの量で複数回測定する必要がありましたが、本装置では数kgのコンクリートの試験体をそのまま測定することができます。
◆ 今後、コンクリート関連分野でのCO2固定量評価を通じて、カーボンニュートラル社会への貢献が期待されます。

 

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従来手法と新手法の工程の違い

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の丸山一平教授、リガク・ホールディングス株式会社の100%子会社である株式会社リガクの則武弘一郎、細井宜伸、株式会社太平洋コンサルタントの高橋晴香らの研究チームは、コンクリートなどのセメント系材料を用いた素材中のCO2固定量を簡易に評価できる装置を開発しました。コンクリート関連分野では、CO2を無機炭酸塩の形で固定化し、カーボンニュートラルに貢献していくことが求められていますが、CO2がどの程度コンクリートに固定化されているかを簡易に測定する手法はこれまで存在していませんでした。今後、炭素税や排出権取引を想定するとコンクリート中のCO2の固定量が重要な評価対象と想定されることから、今回の成果により固定量が簡易に測定され、取引が適切に行われるようになると期待されます。

 

発表内容

現在、世界では年間45t2015年時点)のセメントが生産され、1tのセメントをつくるのに約800kgCO2が排出されています。このうち50%がカルシウムを得るための炭酸カルシウムの分解によるもので、その他が輸送や焼成に関わる燃料によるものとなっています。現在までの人類の活動由来のCO2排出量のうち58%がセメント生産によるものと言われています。このような背景と建設分野におけるCO2排出量抑制の観点から、世界的規模でさまざまな技術開発が行われています。

現在、この対応策の一つとして、コンクリート中に炭酸カルシウムを混合させ、反応により析出させて長く用いることが、Carbon dioxide Capture, Utilization and StorageCCUS)(注1)の一手法としてとらえられ、CO2排出の相殺手段として評価・検討されつつあります。一方、コンクリートは、粗骨材、細骨材、セメント、水、混和材料から構成されており、異なる寸法のさまざまな材料が用いられている複合材料です。建設分野では、構成材料の粗骨材が20mm程度と大きいことを踏まえ、建物に用いるコンクリートの代表的な試験体は、直径100mm、高さ200mmの大きさを有しています。この中に固定化したCO2量を測定する場合、この大きな試験体を空気と反応させないように全量粉砕し、かつ、均一なものにするためには複雑で時間のかかる工程を踏む必要がありました。すなわち、こういった粉末化の作業の簡略化や測定したデータのばらつきの低減が、コンクリートに固定化したCO2量測定上の大きな課題となっていました。

そこで、この課題に対して抜本的な解決を図ることが可能な装置開発を目的とし、装置の構想や装置に要求される項目を東京大学が、実際の装置開発をリガクが、装置の検証を東京大学と太平洋コンサルタントが担当して研究開発を行いました。

今回開発した装置は、コンクリートの代表的な寸法の試験体を粉砕せずにそのまま設置・加熱し、加熱によって発生したガス中のCO2濃度を計測することで試験体に含まれるCO2量を測定できます(図1)。

 

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図1:コンクリート試験体の測定事例

オレンジで囲まれた面積がコンクリート中のCO2量を表す。

 

本装置による測定結果は、コンクリートを練り混ぜた時の材料構成比率と構成材料中のそれぞれのCO2量から算出した理論値とよく整合しました。図2には、コンクリートの試験体を16個のサンプル集団にわけて、従来の方法で微粉化して測定した結果(図中の青丸)、構成材料から計算して求めた理論値(図中の黒点線)、および、今回の測定装置で測定した結果(図中の赤線)を示しています。青丸はばらつきが大きく、赤線は理論値に近いことを示しています。

 

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2:従来の方法で実施した場合の実験のばらつきの例

青丸が従来の方法で試験体を粉末にし、微量で測定したデータ、黒線が材料製造時の構成材料から計算した理論値、赤線が今回の装置で測定した値、いずれの測定値も3回の測定の平均値を示している。

 

このことは、試験体の中に均一に分散した場合のCO2のみならず、試験体の中に固定量のばらつきがある場合においても、効率良く、かつ、高い精度で代表サンプル中のCO2固定量を測定できることを示しています。

本成果は、今後、コンクリートサンプルの適用性や測定可能範囲の同定などを確認した上で、装置を市場化することで、コンクリート分野の健全な排出量取引などに貢献できるものと期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科

丸山 一平 教授

 

株式会社リガク

則武 弘一郎 エンジニア

細井 宜伸 グループマネージャー

 

株式会社太平洋コンサルタント

高橋 晴香 サブリーダー

 

論文情報

雑誌名:Journal of Advanced Concrete Technology

題 名:Development of a large-scale thermogravimetry and gas analyzer for determining carbon in concrete

著者名:Ippei Maruyama*, Koichiro Noritake, Yoshinobu Hosoi, and Haruka Takahashi

DOI10.3151/jact.22.383

URLhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/22/6/22_383/_article/-char/en

 

研究助成

本研究はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務 グリーンイノベーション基金事業/コンクリートにおけるCO2固定量評価の標準化に関する研究開発(課題番号:JPNP21023)として実施されました。

 

用語解説

(注1)Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(CCUS):

二酸化炭素回収・有効利用・貯留、という意味で、分離・回収したCO2を利用する技術のことを意味します。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Journal of Advanced Concrete Technology:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jact/22/6/22_383/_article/-char/en