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社会連携講座「革新的デジタル技術によるCCSモニタリング拠点の創成」の開設について
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤泰浩)と、JX石油開発株式会社(社長:中原俊也)は、2024年4月1日に社会連携講座「革新的デジタル技術によるCCSモニタリング拠点の創成」を開設することをお知らせいたします。本講座では、カーボンニュートラルの達成に不可欠とされるCO₂の回収・地中貯留(CCS、注1)に向けて、貯留CO2の新規モニタリング技術やモデリング技術を開発し、実際のプロジェクトに適用することを目指します。また、今後のCCS技術を担う人材の育成を行います。
本講座の概略図
CCSは、近未来的なCO2削減技術やカーボンニュートラル、さらにはネガティブエミッションを実現する技術として位置づけられています。経済産業省は、2050年までにCCSによる1.2億トン〜2.4億トンのCO2削減を目標としています。この目標達成に向けて、日本周辺にも多数の井戸が掘削される予定です。このような背景の下、貯留したCO2の挙動を予測するモデリング技術や、貯留したCO2の時空間変化をモニタリングする技術が、CCSの安全を担保し、操業を効率化する上で不可欠となります。
本講座では、デジタル化した岩石内部におけるCO2の挙動を大型計算機で予測する「デジタル岩石物理化学」(注2)を用いて、岩石内のCO₂が安定的に貯留できるメカニズムの解明や、CO2を鉱物化するためのメカニズム解明に取り組みます。また、連続モニタリング信号発生装置(注3)や、光ファイバを受信器として利用する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing; DAS)を用いた長期かつ連続したモニタリング技術の開発・実装を行います。さらに、デジタルトランスフォーメーション技術を活用したモニタリングデータ処理・解析の自動化・効率化に関する研究を通じて、CCS実装時における統合的モニタリングシステムの構築を目指します。
CCSの実装に際しては、探査工学、水理学、地球化学、地震学といった多様な専門知識が必要となるため、専門人材の育成が強く求められています。将来のCCSを担う人材が本講座で研究を行い、さらに実践的なデータを取り扱うことで、専門人材の養成と、CCSの実装に向けた知見の蓄積を進めてまいります。
〈社会連携講座の概要〉
講座名:革新的デジタル技術によるCCSモニタリング拠点の創成
代表教員:辻 健(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 教授;当講座兼務)
設置期間:2024年度~2028年度(5年間)
〈東京大学大学院工学系研究科 辻研究室について〉
辻研究室は、貯留したCO2を連続的にモニタリングするシステムの開発や、デジタル化した岩石内のCO2挙動を大型計算機を用いて数値計算でモデリングする「デジタル岩石物理化学」の創成に向けて研究を行ってきました。またCCSだけでなく、地震断層や火山のモニタリング技術、宇宙での探査技術等を開発しており、それら多様なプロジェクトで得られた先進的な技術や知見を、安全なCCS実装に役立てていきます。本講座では、これまで辻研究室で得られた基礎研究の成果を実際のCCSに実装することを目指します。
〈JX石油開発株式会社について〉
ENEOSグループの主要な事業会社であるJX石油開発は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、石油・天然ガス開発事業を基盤としつつ、環境対応型事業を今後の成長分野と位置付ける二軸経営を標榜しております。この方針に基づき、現在、国内外におけるCCS事業の早期実装に注力しております。本講座では、東京大学と協力しながら、統合的なCCSモニタリングシステムの構築を目指すとともに、将来のCCS事業を主導できる人材育成を支援してまいります。
URL:https://www.nex.jx-group.co.jp/
関係者による記念写真
左からJX石油開発 吉良常務、中原社長、東京大学 辻教授、JX石油開発 友枝技術戦略部長
〈用語解説〉
(注1) CCS:Carbon dioxide Capture and Storage の略。排出される CO₂を回収し、地下に圧入・貯留することでCO₂の排出を削減する技術。
(注2) デジタル岩石物理化学:デジタル化された岩石モデルに対して数値シミュレーションを適用し、CO2の流れやすさ(浸透率)などを計算する手法をデジタル岩石物理と呼びます。さらに分子スケールの物理化学的な反応をデジタル岩石に取り込むことも可能になり、それを「デジタル岩石物理化学」と呼んでいます。
(注3) 連続モニタリング信号発生装置:Portable Active Seismic Source(PASS)という超小型の振動発生装置のことです。PASSの振動エネルギーは微弱でも、連続的に振動を発振し、それらを足し合わせることで振動のエネルギーを増大させ、モニタリング信号を遠地まで伝達させることができます。PASSを利用することで、連続的な貯留層のモニタリングが可能になると考えられます。(https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-09-15-001)
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