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工学部/工学系研究科 プレスリリース

カーボンニュートラルの達成に不可欠! CO2地中貯留の連続モニタリングに向け超小型震源装置の開発


1.発表者

辻   健(東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 教授)

辻  修平(研究当時:九州大学 大学院工学研究院 地球資源システム工学 学術研究員)

木下 順二(九州大学 大学院工学研究院 技術専門員)

池田 達紀(九州大学 大学院工学研究院 地球資源システム工学 助教)

Ahmad Ahmad(九州大学 大学院工学研究院 地球資源システム工学 博士課程)


2.発表のポイント

◆4cmのモータを用いた超小型震源装置を開発し、装置からの振動(モニタリング信号)を約1km伝達させることに成功しました。
◆震源装置の小型化実現により、多数の装置の定常的設置が可能となり、連続的に地中貯留したCO2をモニタリングできるようになり、安全な操業につながります。
◆今回開発した超小型震源装置を用いることで、モニタリングコストを大幅に低減できる可能性があります。


3.発表概要

東京大学大学院工学系研究科の辻健教授らの研究グループは、cmスケールの超小型震源装置を開発し、連続的にCO2貯留層をモニタリングするシステムを構築しました。超小型震源装置は、その振動エネルギーは微弱でも、連続的に信号(振動)を発振し、それらを足し合わせることで信号のエネルギーを増大させ、信号を遠地まで伝達させることができます。震源部に4cmのモータを用いた場合には、1km程度離れた地点にもモニタリング信号が伝達することがわかりました。つまり、CO2を貯留する地層(深度1km程度)をモニタリングできると考えられます。これまでのモニタリングでは大きさ数mの大型震源装置が利用されていましたが、連続的に貯留CO2をモニタリングすることはコストの面で現実的ではありませんでした。

今回開発した超小型震源装置を定常的に設置すれば、連続的かつ安価にCO2貯留層をモニタリングでき、CO2の漏洩につながるような急なCO2の移動も検出できると考えられます。

本研究成果は、2022年9月14日(米国東部夏時間)に米国地震学会の「Seismological Research Letters」に掲載されました。

 

4.発表内容

CO2地中貯留は、地層にCO2を貯留し、大気中へのCO2の排出を削減するプロジェクトです(図1)。国際エネルギー機関(IEA)は、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるために、CO2回収・貯留(CCS)で約15%のCO2を削減する必要があるとしています。しかしこのIEAのシナリオを実現するためには、世界中の約6000箇所で大規模なCO2の地中貯留を行う必要があります。日本もこのCO2地中貯留により、2050年までに1.2〜2.4億トンものCO2を減らそうとしています。これを実現するためには、240本〜480本の井戸を掘削して、CO2を地層に圧入する必要があります。つまり日本にもCO2貯留サイトが分布するようになるかもしれません。その際、複数のCO2貯留サイトをモニタリングしてCO2の漏洩や地震を防止し、安全を担保する必要があります。これまで一般的に用いられてきたモニタリング手法では大型の震源装置を利用し(図2a)、1回のモニタリング調査に1億円単位のコストが必要でした。そのため、モニタリング調査を繰り返し実施し、貯留CO2の挙動を連続的に捉えることは困難で、急なCO2の漏洩などに対応できない恐れがありました。そこで既存のモニタリングシステムに加えて、連続的にCO2の挙動をモニタリングする手法の開発が求められていました。

本研究グループが開発した小型震源装置では、振動エネルギーは小さいものの、周波数変調させた波を連続的に発振し、それを重合することで信号(振動)を遠地まで伝達させることができます。当初は約10kgの偏心オモリを用いた震源装置を開発しました(図2b)。その震源装置の信号の伝達距離を測定したところ、震源装置から水平距離80kmの地点にも信号が伝達していることが明らかとなりました。つまり約10kgの偏心オモリを用いた震源装置では、貯留したCO2をモニタリングするにはエネルギーが強すぎることになります。

そこで本研究では、直径4cmのモータで約10gの偏心オモリを回転させる超小型震源装置を開発しました(図2c、3)。この装置を、Portable Active Seismic SourcePASS)と呼んでいます。PASSで発信した波形を地震計や光ファイバー型の地震計(Distributed Acoustic Sensing : DAS)で記録したところ、4cmの小型モータを搭載したPASSでも水平方向に約1kmも信号が伝播することが明らかとなりました(図4)。また3ヶ月間の連続運転を実施したところ、地盤の時間変化をモニタリングすることにも成功しました。

PASSは超小型で低コストであるため、CO2貯留サイトに多数のPASSを定常的に設置することができます。またPASSは低電圧(12Vバッテリー)でも駆動することができ、アクセスの悪い場所にも設置できます。それにより、空間解像度の高いモニタリングを連続的に実施することができ、急なCO2の動き(漏洩など)を捉えることができるようになると考えられます。さらに震源装置を地中に埋めることもできるため、風雨などの地表の影響(ノイズ)を低減させることが可能です。なお4cmのモータでは振動エネルギーが十分でない場合には、モータと偏心オモリのサイズを大きくして、エネルギーを強くすることもできます。また、さまざまな発振機構を有するPASSを開発しており、CO2を貯留する地層の状態に応じて使い分けることもできます。

現在は、超小型震源装置PASSを汎用化させる取り組みを行なっています。複数の民間会社(JX石油開発株式会社、石油資源開発株式会社など)とも、PASSCO2地中貯留での利用に向けた共同研究を実施しています。今後、本格的に実施される予定のCCSプロジェクトで、PASSを利用した連続モニタリングシステムを構築することを目指しています。

さらに超小型震源装置PASSはCO2地中貯留だけでなく、地熱開発、石油・天然ガスなどのエネルギー資源でのモニタリングや、堤防やトンネルなどの土木建造物のモニタリングにも利用することができます(図5)。近年、課題となっているトンネル工事の崩落の危険モニタリングにも利用できると考えられます。震源装置が小型化したことで、ドローンにPASSを搭載した探査やモニタリングも可能になりました。またPASSがあれば、月や火星などの宇宙環境でも比較的容易に地震探査を実施でき、地下の構造や物性を調べることができるため、PASSの宇宙化に向けた共同研究も実施しています。

 

謝辞

本研究は、科研費「人工構造物の振動を利用した超高密度震源による地震探査とモニタリング手法の開発(課題番号:20H01997)」の支援により実施されました。

5.発表雑誌

雑誌名:Seismological Research Letters」(オンライン版:914日)

論文タイトル:4 cm portable active 1 seismic source (PASS) for meter- to kilometer-scale imaging and monitoring of subsurface structures

著者:Takeshi Tsuji*, Suhei Tsuji, Junji Kinoshita, Tatsunori Ikeda, Ahmad B. Ahmad

DOI番号:10.1785/0220220049

アブストラクトURLhttps://doi.org/10.1785/0220220049

6.添付資料

fig1図1.CO2地中貯留の概略図。

fig2図2.(a)これまで一般的に利用されているmスケールの震源装置(バイブロサイス; 地球科学総合研究所)と、(b)過去の研究で開発したmスケールの震源装置、(c今回開発したcmスケールの超小型震源装置(PASS)。

fig3図3. 超小型震源装置PASSの写真。(a)外部の写真、(b)内部の写真。

fig4
図4.超小型震源装置PASSで発振した信号を記録した結果。
横軸は発振してからの時間、縦軸はPASSと地震計の距離。

fig5
図5. 超小型震源装置PASSを利用したモニタリングの概要図。
CO2地中貯留だけでなく、さまざまな対象に利用できる。


プレスリリース本文:PDFファイル
Seismological Research Letters:https://doi.org/10.1785/0220220049