プレスリリース

大規模なGPSデータから歩行者行動を指標化し、都市の特徴との関係を解明

 

駅周辺の歩行者の行動を大規模なGPSデータを用いて分析し、人数、滞在時間、移動距離を指標化した「歩行者行動指標」を開発しました。また、この指標を用いて、歩行者行動と都市空間のさまざまな要素(密度、多様性、デザイン、アクセシビリティ、距離など)の関係を解明しました。

 

公共交通指向型開発(TOD,Transit Oriented Development)は、歩行や公共交通機関の利用を奨励することで持続可能な都市計画を実現する戦略として、広く採用されています。TODにおいては、歩行者の行動を評価する必要がありますが、例えば、鉄道駅周辺の歩行行動は、しばしば歩行者数で定量化されます。しかし、同じような歩行者数の地域でも、歩行距離や駅周辺で過ごす時間は異なる場合があり、適切な評価のためには、より包括的なアプローチが必要です。
本研究では、東京都区部の駅周辺を対象に、大規模GPSデータに基づいて歩行者の行動を分析し、歩行者数、歩行距離、滞在時間をそれぞれ指標化した「歩行者行動指数(PMI, Pedestrian Movement Index)」を開発しました。また、歩行者が多い駅の周辺において、密度、多様性、デザイン、目的地アクセシビリティ、交通手段への距離、といった都市空間の要素とPMIとの関係を調べました。その結果、歩行者数、距離、滞在時間は、土地利用の多様性や道路の連結性などの特徴によって異なることが分かりました。
本研究成果は、歩行者行動を理解するとともに、現在の都市環境の評価や、TODを考慮した都市計画の立案に寄与すると期待されます。

 

 

    研究代表者 

筑波大学システム情報系

嚴 先鏞 准教授

東京大学大学院工学系研究科

 金 洪稷 特任助教

 

 研究の背景 

公共交通指向型開発(TODTransit Oriented Development)は、交通と土地利用計画を統合する持続可能な都市計画戦略であり、その主な目的は、歩行や公共交通の利用を促進し、個人車両への依存を減らすことにあります。TODの促進において重要な指標の一つに、鉄道駅周辺での歩行者の活動があり、多くの研究が行われてきました。しかし、これらの研究では、歩行者の数などの量に着目していることが多く、より詳細な行動を把握するためのアンケート調査等でもサンプル数が少ないなど、歩行者の行動を十分に理解するには限界がありました。従って、TODの文脈で歩行者の行動を評価するためには、より包括的なアプローチが必要です。詳細な歩行者行動を把握することは、より歩きやすく、賑わいのある駅周辺環境を創出するために重要な要素の解明につながり、持続可能な都市計画の実現に貢献すると期待されます。

 

 研究内容と成果 

本研究では、スマホアプリから取得した大規模なGPS軌道記録1を活用して、東京都区部の歩行者の動きを分析しました。このデータを用いて、鉄道駅周辺の歩行者の動きを分析し、歩行者人数、歩行距離、滞在時間の3つの項目をそれぞれ指標化した、「歩行者行動指標(Pedestrian Movement IndexPMI)を開発しました(図1)。また、TOD計画要素として、密度、多様性、デザイン、アクセシビリティ、交通手段への距離の5項目を地理情報システムによって定量化し、各PMIとの関係を調べました。

その結果、主に2つの知見が得られました。まず、歩行者数、距離、滞在時間は、場所によって違いがあることが明らかになりました(図2)。このことは、歩行者の数だけでは都市環境や歩行者の体験の質を表せないことを示唆しており、PMIを用いることで、特定の地域内での歩行者の行動をより包括的に理解できると考えられます。次に、TOD計画要素が歩行者の移動に与える影響は、歩行者数、距離、滞在時間によって異なることが分かりました。具体的には、高密度で多様な土地利用が行われている地域では、歩行者数や移動距離が大きくなっていました。また、道路の連結性が高く、最短経路の選択ができるほど、移動距離は短くなること、交差点密度が非常に高い場合には、移動距離が長くなる傾向が見られ、道路の連結性が高いほど、徒歩での移動を促進する可能性が示唆されました。しかしながら、狭い道路が多く存在する場合、移動距離は増加するものの、歩行者の数は減っていることから、安全性の低い道路を回避していると考えられます。

 

 今後の展開 

持続可能な都市の実現に向けてさまざまな空間計画が実施されている中で、PMIは、現在の都市環境のモニタリングと評価における重要なベンチマークとなり得ます。また、駅周辺をより歩行者が歩きやすくにぎわいのある地域にするための具体的な政策提言における基礎資料としても活用可能です。今後は、PMIを用いて、都市間の比較や、地域内の歩行者行動と都市環境の変化の関係について、研究を進める予定です。

 

 参考図 

 

fig01

図1 GPS軌跡データに基づいたPMIの計算方法

収集されたGPSのポイントデータを個別の移動経路が分かるように結び、歩行者の数(PC)、平均移動距離(PD)、平均滞在時間(PT)を計算する。

 

fig2

図2 東京都区部の駅周辺におけるPMI

(a)~(c)は、東京区部の駅周辺について求めた3つのPMI(d)は、歩行者数が多い上位の駅に対して、移動距離と滞在時間によって分類したもの。同じ歩行者数であっても、移動距離と滞在時間の特徴が異なることが確認できる。

 

 用語解説 

注1) 本研究では、株式会社Agoopが保有するポイント型流動人口データ(情報収集と第三者提供を許諾したユーザの位置情報。複数のスマートフォンアプリによって収集され、個人特定できないように、秘匿化およびプライバシー保護対策が行われたもの)を使用した。

 

 研究資金 

本研究は、科研費による研究プロジェクト(JP19K15185, JP21K14314)、ヒロセ財団による研究助成の一環として実施されました。

 

 掲載論文 

【題 名】  Pedestrian movement with large-scale GPS records and transit-oriented development attributes.

(大規模GPSデータに基づいた歩行者移動と公共交通指向型開発要素

【著者名】  Sunyong Eom (University of Tsukuba), Hongjik Kim (The University of Tokyo), Daisuke Hasegawa (The University of Tokyo), Ikuho Yamada (The University of Tokyo)

【掲載誌】  Sustainable Cities and Society

【掲載日】  2024120

DOI      10.1016/j.scs.2024.105223

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Sustainable Cities and Society:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2210670724000520