プレスリリース

データ連成イノベーションリテラシーを育成するための社会連携講座を開設

 

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(注1)大澤・早矢仕研究室(注2、以下 東京大学大澤・早矢仕研)、株式会社構造計画研究所(注3)、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社(注4)、アビームコンサルティング株式会社(注5)、株式会社トラストアーキテクチャ(注6)は、相互に連携・協力し、「データ連成イノベーションリテラシー」を育てる研究・開発とその実証としての人づくりを行うことを目指し、2022年4月から社会連携講座を開設します。「データ連成イノベーションリテラシー」とは、データを利活用するあらゆる事業にとって、新事業を生み出し持続的に利益をあげる上で必須となる基礎的な情報処理能力を指します。

経 緯
今までに社会全体に及ぶスケールでの科学技術のトレンドの変遷がありました。20世紀末におけるデータマイニングの勃興、2005年ごろからのAIブームに続き、2018年ごろからデータ流通・取引市場、そしてあらゆる事業者、生活者、施政者に対して、社会の持続性と発展性を問い直すSDGsの普及の一方で、個人情報をはじめとする機微情報の流出や不正利用といったビジネスリスクを抑止する法規制の変化が起きている現代は、まさに社会がデータエコシステムとなり、リスクとチャンスの源泉となったことを示しているといえます。
このようにチャンスとリスクに満ちた社会環境においては、ニーズとシーズを連結するための「道筋」を立てて目的と明確な指針を持ってデータを選んで様々な事業を実現してゆく必要があります。ここでのシーズとは、未知のデータを含む多様なデータを意味し、「道筋」とは、膨大な種類のAI技術や統計解析手法から目的に即して選んだ適切な手法のことです。ニーズの方は、まだ文字になったことのない人々の潜在的な要求なのかもしれません。シーズと道筋を定めるためには、AIは道具にすぎず、データは素材に過ぎないことを常に意識することも重要です(添付資料1)。
この社会連携講座では、ニーズの表出化とその実現のための多様なデータと形式知、暗黙知の連成を実現し、様々な事業における道筋を立てるプロセスを開発するためにデータワーカーが持つべき、かつ習得しやすい基本的な能力「データ連成イノベーションリテラシー」を開発してゆきます。データ連成イノベーションリテラシーは、多様なデータの設計と構築、収集と連結、創造的利活用を行う能力であり、工学知、洞察力、および倫理観を基盤とする知の連成力ともいえます。

本社会連携講座の内容
この社会連携講座では、まず、参加企業を中心とする事業者が様々な有用データを探索し、創造・設計し、そのデータの背景にある対象世界のモデルを作ってゆきます。そのモデルを表出化しデータと結び合わせることにより、対象世界の変化を説明し、望ましい挙動とその変化を示すシステムやビジネスを実現してゆきます。そして、そのプロセスを実施するために必要な人材のリテラシーを開発し、参加企業にフィードバックしてゆきます。
東京大学大澤幸生研究室はこれまでに、金融、サービス、製造、印刷、小売などに携わる多くの企業、公官庁や地方自治体とともに、さまざまなビジネス課題、そして政策実施における多様な課題に対して、未知なデータまで掘り起こしながら連結し、解決をめざすプロジェクトを進めてきました(添付資料2)。現在、大澤研究室は東京大学大澤・早矢仕研へと発展し、世界に先駆けて開発したチャンス発見方法、データ活用型ワークショップ(注7 IMDJ)に改良を重ねて活用し、様々な現場のニーズを反映する協働研究体制を持続しています。この社会連携講座では以下の「研究」と「人材育成」の連動により、業種の垣根を壊して繋がるデータ連成イノベーションリテラシーを育て実証してゆきます。

研究(民産学コラボレーション)
・多種データおよび高度計算技術の新しいニーズの発掘
・産業別・目的別のデータ利活用プロセスおよび対象システムにおける挙動モデルの構築
・データ洞察力(データからのチャンスの気づきと創造的コミュニケーション:添付資料3)の原理解明と、その活用のためのチャンス発見支援技術
・変化の説明、潜在チャンスへの気づきとその価値化手法の開発
・上記手法を活用するデータ連成イノベーションリテラシーの開発

人材育成(企業側のリテラシー開発および大学側の学生教育)
・データ洞察力、創造的コミュニケーションの原理に基づくトレーニング
・データ利活用(設計・収集・分析等・交換・再利用)プロセスの習得とその基礎的スキルの開発
・データ利活用に資する技術(データ可視化、説明力あるシグナルの発見など)の開発とその適用

本社会連携講座の進め方
Feature Concepts(注8)などの新しい手法を、講座の結節点となるIMDJに投入しつつデータ連成イノベーションリテラシーの原理とリテラシー育成技術を課題とする研究開発を推進しつつ、これを事業現場に生かす人たちの授業を開発し、人材育成を実験的に、また実践的に推進します(添付資料4)。4社合同での推進事業の他に合同発表会、異業種を連結するIMDJ方式のワークショップなどを行います。IMDJは大澤幸生教授の発明後、早矢仕晃章講師の開発したVariable Quest (注9)など新手法により発展しています。
また、自治体や他の企業における同様の取組と積極的に連携すると共に、協定の成果については、参加企業の同意に基づく範囲で広く社会全体に対して発信していきます。

注釈
(注1)国立大学法人東京大学大学院工学系研究科:研究科長 染谷隆夫
(注2)東京大学大学院工学系研究科大澤・早矢仕研究室:教授 大澤幸生、講師 早矢仕晃章
(注3)株式会社構造計画研究所:代表執行役社長 渡邊太門
(注4)ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社:代表取締役社長 藤田元宏
(注5)アビームコンサルティング株式会社:代表取締役社長 鴨居達哉
(注6)株式会社トラストアーキテクチャ:代表取締役社長 前川知英
(注7)IMDJ:Innovators Marketplace on Data Jacketsの略。大澤教授が開発したデータ市場におけるデータ利活用を
支援するワークショップ型手法です。世の中に存在する共有可能・不可能を問わず様々な形式のデータをデータジャケット(データの概要情報)化することにより、誰が・どこに・どんなデータを持っているのか知ることが可能となり、データ市場に関わる様々なステークホルダー(データ保有者、利用者、分析者など)が、データを用いた課題解決の検討を通じて、データの価値発見と交換・売買を促進します。商標としては大澤幸生と早矢仕晃章の共有としています。
(注8)データ利活用における要求を満たすために、データ分析や可視化の方法、その方法を採る理由、用いるデータセットにリンクした関連情報や知識を抽象化したもの。FCは様々な形で表現されますが、一般的には抽象的な図で表現されるイメージとして示され、データの具体的な利活用なその意味を話し合うコミュニケーションに用いられます(Ohsawa et al: [2111.04505] Feature Concepts for Data Federative Innovations (https://arxiv.org/abs/2111.04505)。
(注9)満たすべき要求に対し、用いるべきデータが有するべき変数(データ属性)のセットを教示するWebシステム。要求を持ちながらこれを実現するデータを知らない、あるいはまだ該当するデータが存在しない場合に、データを入手あるいは創造的に設計してゆくために利用できる。T. Hayashi and Y. Ohsawa, "VARIABLE QUEST: Network Visualization of Variable Labels Unifying Co-occurrence Graphs," 2017 IEEE International Conference on Data Mining Workshops (ICDMW), 2017, pp. 577-583, doi: 10.1109/ICDMW.2017.81.

添付資料

fig1資料1 私たちは、こんな人を作る技術を生み出す

 

fig2

資料2 東京大学大澤・早矢仕研とコラボ事業者とのこれまでの成果と、「データ連成イノベーションリテラシー」

 

fig3資料3 データ連成イノベーション社会では、人がニーズとシーズをコミュニケーションと技術で結ぶ

 

fig4資料4 研究は人づくりのために、人づくりは社会づくりのために

関連Webサイト
1.東京大学大澤・早矢仕研究室 http://www.panda.sys.t.u-tokyo.ac.jp/
データ駆動ビジネスの全体設計に取り組む研究室です。データ市場のデザインにより、中身を公開できないデータまで合意の上で予備的邂逅によってコンセプトを共有し、社会的要求にフォーカスを絞ってデータ分析する手法、その結果に基づくビジネスシナリオ策定ツールとして必要な潜在データの検索技術、さらに新しいデータ分析・可視化アルゴリズムの開発を進め、金融、POS、Webテキストや社内評価書、地震からスポーツデータまで、幅広くデータからのチャンス発見→イノベーションに繋げています。

2.株式会社構造計画研究所 https://www.kke.co.jp/
設立年月日 1959年5月6日。学問知と経験知による知の循環から生み出される、工学的手法に立脚したソリューションを提供することにより高付加価値の実現をめざしています。東大大澤・早矢仕研とは、企業課題のブレークスルーを促進する技術とその利用プロセスの研究を中心として様々なコラボを展開しています。

3.ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 https://www.usmh.co.jp/
設立年月日 2015年3月2日。㈱マルエツ、㈱カスミ及びマックスバリュ関東㈱を事業子会社にもつ共同持株会社で、首都圏に522のスーパーマーケットを展開しています。デジタルを基盤とした構造改革を推進し、「あらゆる人に食を届ける」をめざしています。東大大澤・早矢仕研とは、市場研究における文脈変化と価値の発生・喪失を理解する商品DNA技術などのコラボを展開してきました。

4.アビームコンサルティング株式会社 https://www.abeam.com/
設立年月日 1981年4月1日。アビームコンサルティングは、アジアを中心とした海外ネットワークを通じ、それぞれの国や地域に即したグローバル・サービスを提供している総合マネジメントコンサルティングファームです。戦略、BPR、IT、組織・人事、アウトソーシングなどの専門知識と、豊富な経験を持つ約6,500名のプロフェッショナルを有し、金融、製造、流通、エネルギー、情報通信、パブリックなどの分野を担う企業、組織に対し幅広いコンサルティングサービスを提供しています。
東大大澤・早矢仕研が有する多様な産業データを用いたIMDJなどの技術に、アビームコンサルティングの多岐にわたる業界・業種のDX推進知見やデジタルテクノロジーを掛け合わせ、データ起点でのビジネス創出・業務改革サービスを共同開発しています。

5.株式会社トラストアーキテクチャ https://trst-arc.com/
設立年月日 2018年7月。「ヒトと意思疎通するAI」をモットーに、全国の地方銀行、ネット証券、ガソリンスタンドに対しデータ分析・顧客との接点の見える化・業務効率化支援を行うほか、大澤・早矢仕研とは内閣官房におけるコロナ感染拡大シミュレーション事業を含め、データ分析とモデル活用の両面でコラボしています。


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