プレスリリース

近藤状態によって散乱される電子波の位相のずれを初めて観測 ー 40年前の予言を初めて実証 ー : 物理工学専攻 山本倫久講師、樽茶清悟教授

 

東京大学の研究グループは、独自に開発した2経路干渉計を用いて近藤状態によって散乱される電子の波動関数の位相が90度ずれる様子を初めて捉えました。

1964年に近藤淳によって初めて理論提唱された近藤効果は、電子スピンが関与する多電子の相互作用効果の中で最も代表的なものとして知られています。近藤効果は、局在スピンとそれを取り囲む多数の伝導電子との間の相互作用によって生じ、局在スピンの磁気が伝導電子との結合によって打ち消される現象(遮蔽)です。近藤状態の電気的な性質は、近藤状態に入射する電子がどう散乱されるかで説明されます。局在スピンの遮蔽過程では散乱される電子のスピンは保たれますが、散乱される電子の波動関数の位相が90度ずれることが約40年前に予言されました。しかし、その検証実験は技術的に難しく、現在に至るまで世界中の研究者の挑戦を跳ね返してきました。

東京大学大学院工学系研究科博士課程の高田真太郎大学院生(当時)、山本倫久講師、樽茶清悟教授らの研究グループは、独自に開発した2経路干渉計に量子ドットを埋め込んで、この位相の90度のずれを初めて実験的に確認しました。その結果の明瞭さと重要さから、本成果は固体の電子物性分野の歴史的業績のひとつに位置づけられます。

本研究の成功の鍵となった2経路干渉計は、電子の散乱位相を高精度で検出できるものです。今回、この干渉計の有用さが改めて実証されました。また、同干渉計は、波動関数の位相を情報のリソースとする電子デバイスとなり得ることから、干渉を原理とする量子情報デバイスへの応用も期待されます。

本成果は、理化学研究所、Neel研究所(仏)、Ludwig-Maximilians大、Bochum Ruhr大(独)のグループとの共同研究によるものです。

 

 

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