プレスリリース
- 研究
- 2016
新たなリチウムイオン伝導性液体の発見 -水を用いた安全・安価・高性能な超3 V動作リチウムイオン電池へ-:化学システム工学専攻 山田裕貴助教、山田淳夫教授ら
現在、リチウムイオン電池を上回る高エネルギー密度化を指向して、空気電池、硫黄電池、多価イオン電池、全固体電池などの次世代蓄電池の研究が活発に行われている。これらの蓄電池概念は40年以上もの長い研究開発の歴史があるものの、本質的な問題解決に向けての糸口は得られておらず、実用化されていない。一方で、自動車や家電などさまざまなモノがクラウド上に置かれインターネットを介したスマートな社会制御が行われる「モノのインターネット(IoT)」時代の蓄電池においては、高エネルギー密度化よりもむしろ価格破壊や超生産性に加え、資源・環境・毒性・火災の4大リスクの絶対回避が現実的に必要とされており、それに資する新材料の開発が望まれている。
東京大学大学院工学系研究科の山田裕貴助教と山田淳夫教授らの研究グループは、国立研究開発法人科学技術振興機構の袖山慶太郎さきがけ研究員、国立研究開発法人物質・材料研究機構の館山佳尚グループリーダーらとの共同研究により、“水”をベースとした新たなカテゴリーのリチウムイオン伝導性液体「常温溶融水和物(ハイドレートメルト、hydrate melt)」を発見した。水と特定のリチウム塩2種を一定の割合で混合することで、一般的には固体となるリチウム塩二水和物が常温で安定な液体、つまりハイドレートメルトとして存在することを見出した。発見したハイドレートメルトは、通常1.2 Vの電圧で水素と酸素に分解する水を使っているにも関わらず、3 V以上の高い電圧をかけても分解しないことが分かった。ハイドレートメルトを電解液として応用することで、これまで特殊な有機溶媒を用いた電解液でしか成し得なかった超3 V級リチウムイオン電池の可逆作動に、“水”を用いた電解液で初めて成功した。リチウムイオン電池の電解液が、可燃・有毒な有機溶媒から、不燃・無毒な水に置き換わることで、火災・爆発事故等のリスクを極限まで低下させることができる。更に、自然界に存在する水が電解液原料になることに加え、電池生産工程における厳密な禁水環境(ドライルーム)を撤廃することができるため、リチウムイオン電池の圧倒的な低価格化をもたらす。水を使った安全かつ安価な高性能蓄電池デバイス設計と生産プロセス設計の双方が可能になることで、高度な安全性と低価格の両立が要求される電気自動車や家庭用の大型蓄電池開発の加速が期待される。
本研究成果は、2016年8月26日付のNature Energy電子版に掲載される。なお、本研究は日本学術振興会科学研究費補助金特別推進研究(No. 15H05701)による支援を受けて行われた。
プレスリリース本文:PDFリンク
Nature Energy URL: http://www.nature.com/articles/nenergy2016129