プレスリリース

環境の変化によって自在に色を変える水 -99%以上が水からなる動的フォトニック構造体-:化学生命工学専攻 相田卓三教授ら

 

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発ソフトマター研究グループの相田卓三グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、創発生体関連ソフトマター研究チームの石田康博チームリーダー、東京大学大学院工学系研究科の佐野航季大学院生、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の佐々木高義フェローらの共同研究グループは、水に分散した微量の酸化チタンナノシートを数百ナノメートル(nm1nm10億分の1メートル)の周期で規則配列させることにより、99%以上が水からなるにも関わらず鮮やかな色を呈し、環境の変化に応じて瞬時に色を変える新材料を開発しました。

可視光波長と同程度(数百nm)の周期構造を持つ材料は、周期長に対応した波長の光を選択的に反射し、色素を持たずとも鮮やかな色を呈します。このような構造体を「フォトニック構造体」と呼び、こうした色を「構造色」といいます。フォトニック構造体は、光の取り出し・閉じ込め・伝搬制御など、光を自在に操るための究極のツールとして期待されています。フォトニック構造体に必要な長周期の高秩序構造を作る上で、通常は無機結晶や有機ポリマーなどの固体材料が使われます。もし流動的な物質を使ってフォトニック構造体を構築できれば、環境や刺激に応じた動的な光の制御が可能となり、フォトニック構造体の用途は飛躍的に拡がります。しかし、秩序性と流動性とは相反するものであり、流動的な物質を使ったフォトニック構造体の構築は極めて困難でした。

共同研究グループは、水に対して1%未満の微量な酸化チタンナノシートを水中に分散した後、ナノシート間に働く静電反発力を極限まで高めることで、分散液中のナノシートが長周期で規則正しく配列され鮮やかな構造色を示すことを見出しました。この分散液は秩序性と流動性を兼ね備えた「動的フォトニック構造体」であり、温度・pH・磁場などの環境の変化に応答し、ナノシートの距離や角度を変えることができます。これに伴い、分散液の構造色は、全可視光領域にわたり瞬時に変化します。

本研究は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「超薄膜化・強靭化「しなやかなタフポリマー」の実現」の支援を受けて実施しました。

成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(830日付:日本時間830日)に掲載されました。

 

 

余剰イオン除去による酸化チタンナノシート間の静電反発力増大ならびに構造色の発現

a:酸化チタンナノシートの構造ならびに特徴。通常のナノシートは磁場に対して平行に配向するのに対し酸化チタンナノシートは磁場に対して垂直に配向する。
b:余剰イオンを除去する前(左)と除去した後(右)の酸化チタンナノシートの分散液。もともとは余剰イオンによりナノシート間の静電反発力が遮蔽されており、本来の静電反発力が働かず、シートの間隔は50nm程度である。余剰イオンを除去することで、静電反発力が本来の強度まで増強され、シートの間隔も可視光波長と同程度(最大で675nm)にまで拡大し、分散液は構造色を呈するようになる。

 

プレスリリース本文: PDFリンク

Nature Communications URL : http://www.nature.com/ncomms/2016/160830/ncomms12559/full/ncomms12559.html