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社会連携・産学協創推進室ワークショップ:デジタルものづくり (東京大学大学院工学系研究科 社会連携・産学協創推進室)

 

2018年10月26日(金)13:30~17:30、東京大学本郷キャンパス山上会館大会議室において「ワークショップ:デジタルものづくり」を開催致しました。

主催者を代表した大久保達也工学系研究科長の挨拶では、産学連携を積極的に推進すべく社会連携・産学協創推進室を設立したこと、東京大学のどこに誰が居るのかが見えるように横櫛をさしていくこと、デジタル化に向けた工学系研究科の活動、日本企業のものづくりの強みに大学のビジョンを加えて新しいチャレンジを行う等の構想が述べられました。

 

その後、国枝正典精密工学専攻長の司会により、講演が行われました。以下に概要を示します。

青山和浩教授(システム創成学専攻)からは、「労働集約型生産システム(船舶建造システム)のデジタルツインの実現に向けて」と題して、造船の製造プロセスを例にアナログの世界からデジタルの世界への変遷について述べられ、大学と造船所で作業分析(モニタリング)を行い、稼働率を35%も高めることに成功した、デジタルツインの事例について紹介されました。ビデオカメラ情報、データへの分解(デジタルデータ)、抽出、可視化と進めるモニタリングプロセスの事例、また長期間にわたるPDCAに展開して工場全体のシミュレーションも可能であることをご説明いただきました。

 

梅田靖教授(精密工学専攻)は「日本型デジタルものづくり デジタルトリプレット」と題して、Industrie 4.0で始まったデジタル化は新興国の台頭もあり日本は劣勢にあること、日本企業のデジタル化は日本の強みである細かいところまで気配りをしたシステム思考のものづくりで盛り直すこと、そのためにはデジタルツインに人間の関与する部分を付加したデジタルトリプレットを展開すること、さらに次世代ものづくりの教育・研究の拠点を作りたいとまとめられました。

 

太田順教授(人工物工学研究センター)は「ロボットの動作生成に基づくモノづくり」と題して、全体設計を行うことで、配送センターの自動化で大きな効率向上が得られたこと、空港における走行ルールの改善で渋滞率が60%から1.8%に低減されたこと、多関節ロボットを例にして、モジュール化した設計の有用性が示され、設計のモジュール化により全体の最適化を実現する方法論が示されました。

 

鈴木克幸教授(システム創成学専攻)は「複合領域最適設計の展望」と題して、実際に使用される環境を含めずに対象となる人工物のみを切り出して設計することの問題点について指摘がなされました。ゴルフクラブを事例にシャフトが変わると人間のスウィングも変わるのでクラブと人間をセットにしたシミュレーションで全体設計を行う必要があること、パラリンピック選手の義足を事例に紹介され、人工物と人間を解析領域に含めた研究を紹介していただきました。

 

鈴木宏正教授(精密工学専攻)は「産業用X線CT装置によるリバースエンジニアリング」と題して、単に設計情報ではなく、現物の情報を用いたシミュレーションの必要性について示されました。高性能CTを用いることで、実際の製造工程のさまざまな制約を反映した製品の3D画像を得ることができます。これから得たデータを用いることで、単なる形状の情報を得るだけでなく、物理シミュレーションと連動させて、事故時・衝突時の安全性の評価などにつなげることができ、車をまるごとシミュレーションする例が示されました。また、現場で形状修正してデータ化して活用できること、企業との共同研究や公的資金を活用してソフトウェアー開発の成果を残したいと締めくくられました。

 

杉田直彦教授(機械工学専攻)は「生産加工・工作機械分野におけるデジタルモノづくり」と題して、生産加工や工作加工の世界において2030年に生き残るための生産システムは短期間での開発と短期間での生産であること、この分野ではドイツが政府資金を活用して進んでいること、物理現象を扱うPhysicalな世界と物理モデルや現象の理解を行うCyberの世界に新しいアイデアを加えたIdeaの世界を紹介していただきました。

 

その後、休憩をはさみ企業3社の代表者よりご講演をいただきました。

 

富士通アドバンスドテクノロジ(株)社長の宮澤秋彦様には「ものづくりデジタルプレイスに向けた富士通の取り組み」と題して、日本ではSociety5.0(超スマート社会)がスタートし製造業のサービス化(デジタルトランスフォーメーション)が始まっていること、FujitsuものづくりにICTをプラスしてCOLMINAを開発したこと、仮想大部屋に現場ノウハウを蓄積しクラウド化してデータを高速処理すること、これによりデジタルものづくりは可視化された仮想工場となること、更に、IOTによるデータ収集と多品種少量生産の検査技術にAI/GAを活用することなどをご紹介いただきました。

 

㈱リコー・製造コンサルタントの坂木泰三様には「3Dプリンターを活用したものづくり改革」と題して、日本国内では高性能な大型3Dプリンターの少量生産に注力していること、3Dプリンターの普及には直ぐに出来ることを示して現場の意識改革を図ること、従来のような仕様書を書くよりモデリングに注力した方がよいこと、樹脂型の製造においてはウェルドラインが残らない利点があること、産学連携の課題として3Dプリンター活用製品の品質保証技術開発が重要であることなどをご紹介いただきました。

 

日立金属(株)技監の後藤良様には「日立金属におけるデジタルものづくりと材料開発」と題して、研究開発の範囲の広がりとスピードに対応すべくGRIT(グローバル技術革新センター)を立ち上げたこと、航空宇宙分野でプロセスと材料開発の時間短縮を達成できたこと、合金設計シミュレーションにより金属組織の予測ができるようになったこと、3D造形は樹脂が先行し金属での成果はこれからであること、日本では冷めかけてきたが欧米では賑やかなこと、粉や材料だけでなく造形品まで手掛けていること、材料開発とレシピ開発が重要であると考え高エントロピー合金を開発したことなどをご紹介いただきました。

 

総合討論ではモデル化出来ないものを如何に取り扱うべきかとの議論がなされ、100%を目指す必要はなく、この方法ではここまで理解できるということは有用であるとの結論に至りました。
最後に社会連携・産学協創推進室の高橋浩之室長から、当室の活動状況が紹介されました。

懇談会ではさらに熱気あふれる活発な意見交換が行われ、成功裡にデジタルものづくりのワークショップを終了することができました。

 

来場者は86名、うち企業から68名と多数の方々に参加していただきましたこと、当日いただいたアンケート集計結果も良好でほぼ満足していただけたことをご報告させていただきます。


皆様方からのご意見を反映させ、工学系研究科 社会連携・産学協創推進室では、今後も産業界からの要望に応えるべくシンポジウム、ワークショップなどを企画していく所存です。

 

左から 大久保達也研究科長、国枝正典精密工学専攻長 

左から 青山和浩教授(システム創成学専攻)、梅田靖教授(精密工学専攻)

左から 太田順教授(人工物工学研究センター)、鈴木克幸教授(システム創成学専攻)

左から 鈴木宏正教授(精密工学専攻)、杉田直彦教授(機械工学専攻)

左から 富士通アドバンスドテクノロジ() 社長 宮澤秋彦様、㈱リコー・製造コンサルタント 坂木泰三様

左から 日立金属(株)技監 後藤良様、社会連携・産学協創推進室 高橋浩之室長