プレスリリース

塗布で作ったトランジスタがスイッチング特性の理論限界に迫る~半導体界面構築にシャボン膜メカニズムを活用し実現~:物理工学専攻 北原 暁 (D3)、井上 悟特任研究員、松岡 悟志助教、荒井 俊人講師、長谷川 達生教授ら

 

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の北原 暁(D3)、井上 悟 特任研究員、松岡 悟志 助教、荒井 俊人 講師、長谷川 達生 教授らの研究グループは、液滴を強くはじく基材表面に有機半導体結晶薄膜を塗布形成する新技術を開発し、これにより理論限界に迫る高急峻なスイッチング性能を示す塗布型薄膜トランジスタ(TFT)の開発と動作確認に成功しました。
塗布型有機半導体は、溶剤に溶かして作ったインクを塗って乾かすことで半導体デバイスを簡易に構築できることから、プリンテッドエレクトロニクスを実現するための有力材料として期待されています。そのデバイス高性能化には、撥液性がきわめて高いフッ素樹脂などのゲート絶縁層の上に、均質な半導体薄膜を積層して形成したデバイス構造が有利とされています。しかし、高撥液な表面上では、塗布したインクが強くはじかれ丸くなる傾向が強く、従来の塗布法を用いる限り、均質な塗布製膜に不可欠とされる薄い液膜の形成が困難であり、低分子系有機半導体の均質製膜は不可能でした。そこで本研究では、シャボン膜メカニズムをヒントに、撥液性の高い表面上でも、薄い液膜がはじかれることなく濡れ広がった状態を維持できる新たな仕掛けを考案し、半導体結晶膜の高均質な塗布形成に初めて成功しました。これを用いて作製した塗布型TFTは、2ボルト以下の低電圧で駆動し、オンオフによる履歴がなく、かつ室温動作での理論的限界値に迫るきわめて高急峻なスイッチング特性を示す、著しい高性能化を達成できました。
本研究成果は、米国科学誌Science Advancesに2020年10月7日(米国東部夏時間)掲載されました。また本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「実験・計算・データ科学融合による塗布型電子材料の開発」(研究代表者:長谷川 達生、JPMJCR18J2)、JST研究成果最適展開支援プログラムA-STEP(JPMJTR1923)、JSPS科研費基盤研究A(JP18H03875)、および東京大学大学院工学系研究科リーダー博士人材育成基金特別助成プログラムLDPPによる支援を受けて行いました。また本研究で用いた半導体材料の一部は、日本化薬(株)による提供を受けました。



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