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若手研究者紹介:長門石 曉 特任准教授

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バイオエンジニアリング専攻・医科学研究所(兼任)津本研究室 長門石 曉 特任准教授

 

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【経歴】

(学歴)

20043月 九州大学工学部物質科学工学科 卒業

20063月 九州大学大学院工学府化学システム工学専攻 修士課程 修了

20093月 東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 博士課程修了、博士(生命科学)

(職歴)

2007年4月 日本学術振興会 特別研究員DC2

2009年4月 甲南大学先端生命工学研究所 助教

2012年4月 東京大学医科学研究所疾患プロテオミクスラボラトリー 助教

2013年4月 東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 助教、工学系研究科兼担、東京大学創薬機構兼務

2017年4月 東京大学医科学研究所 特任准教授(先進的バイオ医薬品分野), 工学系研究科兼担、現在に至る

2021年12月 医薬基盤・健康・栄養研究所 招へいプロジェクトリーダー兼務

 

【研究について】

私たち生命は生体分子の精巧な働きによって成り立っています。さらにその機能は複雑です。これまで様々な機能性生体高分子(蛋白質、核酸等)が発見され、発生から分化、生命維持、老化、そして疾患との関わりが明らかになってきました。それに伴い、その生体高分子の機能制御が治療や健康寿命の促進にもつながっています。この機能制御に研究の多くは、生体分子の『明確な構造』に着目し、『高い活性(結合親和性、特異性)』を有した機能性リガンドを設計することで進められています。しかし、私たちの生命システムは、多くの『低い結合親和性、不明瞭な分子認識および構造』も重要な機能を果たしており、生体内の分子間の秩序を担っているとも言えます。このような生体分子を制御するための技術や制御分子の設計はまだまだ手つかずな状態です。私はこのような生体分子の秩序をコントロールする新しい機能性リガンド創出や技術開発を行っています。

 

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 (1)物理化学に基づく特異的低分子リガンドの創出

低分子リガンドを用いて生命活動を制御することは、細胞システムの理解が深まることはさることながら、医療・診断などへの応用展開も期待されます。この生体内の蛋白質を特異的に制御する低分子リガンドの開発は、一般的に高親和性を指標に探索されており、その結合様式に関する物理化学的性質は、探索のステップにおいて未だあまり着目されずにいます。熱力学的および速度論的性質を捉えることは、リガンド結合における特異性創出において重要な指標となり得えます。そこで、高親和性にこだわらず物理化学的指標をもとに探索(スクリーニング)を行うと、どのような低分子リガンドを創出できるのでしょうか。低親和性化合物の中にも魅力的な活性を示す原石が眠っているのではないか。そこで本研究では、重篤疾患に関連する蛋白質や、病原性微生物の蛋白質を標的に、低分子化合物ライブラリーを用いて、物理化学的手法を駆使して阻害活性を示す低分子化合物を選抜し、モデル細胞やモデルマウスにも活性を示す、新しい機能制御メカニズムを有する低分子リガンドの発見および設計を試みています。

 

(2)医療応用のための生体高分子に関する新たな分子認識の理解

生体高分子は、人工分子では未だに達成することができない高度な機能が数多く存在しています。中でも、比較的低い結合親和性で相互作用をしていたり、多重な特異を示す分子認識、および不明瞭な構造状態で機能を果たしている生体分子が重要な機能を果たしており、生体内の分子間の秩序を担っていると考えられます。この機能を物理化学的に理解することは、新しい分子設計につながります。一方で近年の計算科学の顕著な発展は、物理化学的な解析と組み合わせることにより、さらに合理的かつ高精度な機能性分子の設計が可能になると考えられます。したがって、未解明な生体高分子におけるユニークな分子認識について、計算科学を取り入れて物理化学的に解明することで、医療応用可能な新しい機能性分子の設計指針(モダリティの拡張)を提案したいと考えています。

 

【今後の抱負】

これまでは医薬品開発に関する生体高分子の機能解明とその制御リガンドの探索および設計について、物理化学的な観点を中心に取り組んできました。これからは、より健康寿命延伸のため、より安心な生活空間を提供するため、そして地域社会での互助を促進するための、日常生活で利用される新たな機能性リガンドを創出したいと考えています。

 

【URL】

津本研究室: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/phys-biochem/

Researchmap: https://researchmap.jp/ngtoishi