【工学部/工学系研究科】 プレスリリース

建設分野のDX推進へ 3Dコンクリートプリンティングで造形した駅舎ベンチの供用開始 ―産学連携のデザインコンペの開催と社会実装―

 
1.発表のポイント:
◆産学連携型デザイン演習の枠組みで、国内初の3DCPデザイン実施コンペを開催した。
◆3DCPデザインコンペにて選ばれたベンチ2基がJR東日本太海駅に設置された。
◆3DCPの普及展開を促し、建設分野のDX推進に大きく貢献すると考えられる。

2.発表概要: 
「太海駅に設置される3DCP(注1)製ベンチのデザイン」を課題として、建築学科と社会基盤学科がスタジオ型講義(4年生向け設計製図第七、および社会基盤学科3年生向け少人数セミナー)を合同開講し、この授業が日本初の建設用3DCPによる実施デザインコンペとなりました。成果物である2基のベンチは、2022年12月14日に建替工事を終えたJR東日本太海駅にて、実際に座ることができます。
本コンペは、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)、および3DCP事業者4社(會澤高圧コンクリート株式会社、株式会社Polyuse、クラボウ(倉敷紡績株式会社)、日揮グローバル株式会社)との産学連携により実現しました。5月に行われた一次選考段階では14のデザイン原案が学生から提案され、3DCP事業者4社がその中から3案を選びました。その後、4社も加わった学生との協働3チームが技術的検討を加え、7月に行われた二次選考段階で出された最終案(7.参考リンク–①)の中から、「後ろ髪を引くベンチ」がJR東日本千葉支社によって最優秀案に選定されました。9月に製造と性能試験が行われ、10月には太海駅に搬入設置されました(図1、2)。
企業と学生が協働する産学連携のスタジオ型講義は、これまでにない新しい実践的教育の在り方を提示するとともに、3DCPの普及展開を促し、建設分野のDX推進に大きく貢献すると考えられます。

3.発表内容:
建設分野におけるコンクリートの3Dプリンティングに関する研究開発は、生産性向上や省資源化、造形自由度の向上に繋がるとして、世界中で進められています。一部の国では、ベンチャー企業等を中心として橋梁や住宅などへの社会実装が進められています。一方、日本国内では要素技術に関する研究に一定の成果が達成されていますが、社会実装という観点では諸外国に遅れを取っています。建築・土木構造物の耐震性に関する要求性能が高いため、これまでの適用例は、ファニチャーやコンクリート工事の型枠としての試験施工などに留まっています。
構造体などのより大規模な適用へ繋げるためには、要素技術の研究開発をさらに加速させるとともに、社会実装の場を積極的に作り出していく必要があります。そのためには、組織を超えて技術、ノウハウ、データなどを共有しながら技術開発と普及展開を進めていくオープンイノベーションが重要となります。しかし、現在の3DCPの研究開発では、数社程度による連携は見られますが、開発された材料やプリンタに関する技術は囲い込まれている状況です。また、そうした技術の不透明性の結果、3DCPに関心のある発注者、デザイナー、設計者が技術の詳細を把握できず、具体的な適用に踏み切れていません。
こうした背景を受け、東京大学大学院工学系研究科の友寄 篤助教(建築学専攻)と大野 元寛助教(社会基盤学専攻)が、土木学会の「3Dプリンティング技術の土木構造物への適用に関する研究小委員会」(委員長:社会基盤学専攻 石田哲也 教授)に参加しており、同じく委員であった発注者、3DCP事業者4社と協力し、産学連携のデザイン実施コンペを授業として企画・開催しました。発注者であるJR東日本千葉支社が具体的な設計要件を提示し、学生が自由な発想でデザイン原案を考え、それを実現するための技術的検討を、3DCP事業者を加えたチームで行いました。
講義の初回に、JR東日本東京建設PMOの井口氏から、建替えによりリニューアルされる内房線(JR東日本千葉支社管内)太海駅に新たに設置するベンチが設計対象であり、無人駅であるためメンテナンスフリーであること、海の近くであるために塩害(注2)に対する高い耐久性が求められること、利用者の衣服が破けないような表面仕上げであることなどの設計要件が説明されました。その後、會澤高圧コンクリートの東氏、Polyuseの岩本氏、クラボウの西松氏、日揮グローバルの高野氏から各社の技術紹介がなされ、デザインするにあたっての注意点などが解説されました。翌週からは実際の3Dプリンタの見学、実験、さまざまな分野の専門家によるレクチャーと各学生のデザイン案へのアドバイスという形で授業は進みました。中間発表では各学生から14のベンチデザイン案が提示されました。この14案から、4事業者が一緒にJR東日本へ提案したいと思う案をそれぞれ選びました。2社が同一の案を選んだため、最終的に3案がさらなる技術的検討を加える段階に進みました。デザイン案が選ばれなかった学生も、各自が良いと思う案に加わり、学生5名+事業者という3つのグループに分かれました。週に一回、各チームが詳細な技術的検討に関する打合せを行い、元のデザイン案をさらに改良し、JR東日本千葉支社への最終プレゼンに臨みました。會澤高圧+学生チームによる「後ろ髪を引くベンチ」、Polyuse+学生チームによる「太海を彩る波型ベンチ」、クラボウ+日揮グローバル+学生チームによる「新しい定位置」の3案は実際にテストプリントなども行なわれました(図3、4、5、6)。最終的にはJR東日本千葉支社によって、新しくなる太海駅のデザインにどれがマッチするかという観点から、「後ろ髪を引くベンチ」が選ばれました。授業の概要、提案内容については7.参考リンク–②よりご確認いただけます。
その後、JR東日本千葉支社の坂本氏と杉田氏、JR東日本東京建設PMO、會澤高圧コンクリート、駅舎施工者の東鉄工業株式会社を中心に大学からも加わったメンバーで、実際の造形・設置を見据えた検討を加え、形状の微修正などを進めました。9月には會澤高圧コンクリート鵡川工場におけるテストプリントと性能試験を行い、10月には搬入・設置が完了しました。駅舎の工事はその後も続き、2022年12月14日の新駅舎への切り替えに伴い、ベンチも供用開始されました。
このような3Dプリンティングによる実施コンペが実現するのは世界でも初めてだと思われます。本コンペを通して、各社の保有する技術の特長や課題が共有されるとともに、発注者の要望を満たすために必要な具体的な技術開発も明らかとなりました。また、学生にとっては、デザイン案を考えることに留まらず、事業者との技術的検討、発注者への技術提案、契約・性能試験・施工・検査などの経験を通し、より実践的な教育を受けることができました。今回は授業の枠組みを用いた産学連携によるベンチのデザインコンペでしたが、今後の建築・土木構造物への適用に向けた研究および社会実装へとつながることが期待されます。

4.発表者:
友寄  篤(東京大学 大学院工学系研究科建築学専攻 助教)
大野 元寛(東京大学 大学院工学系研究科社会基盤学専攻 助教)
井口 重信(JR東日本東京建設PMO マネージャー)
杉田 淳志(JR東日本千葉支社 千葉建築設備技術センター 副長)
坂本 泰行(JR東日本千葉支社 千葉建築設備技術センター)
東  大智(會澤高圧コンクリート株式会社 生産科学本部 品質システム統括)
岩本 卓也(株式会社Polyuse 代表取締役CEO)
西松 英明(クラボウ 化成品事業部技術統括部 3DP開発リーダー)
高野 芳行(日揮グローバル株式会社 ETD部 シニアエンジニア)
野口 貴文(東京大学 大学院工学系研究科建築学専攻 教授)
丸山 一平(東京大学 大学院工学系研究科建築学専攻 教授)

5.用語解説: 
(注1)3DCP:
3Dコンクリートプリンティングの略。一般的に普及している樹脂を材料とした3Dプリンタの吐出材料をセメント系の材料とした技術。
(注2)塩害:
海水に含まれる塩分によって、鉄はサビが生じやすくなり、鉄筋コンクリートの場合でも、内部の鉄筋まで塩分が到達すると錆びが生じ、コンクリートにひび割れが生じる。

6.参考リンク:
① 学生の発表動画
・「太海を彩る波型ベンチ」:株式会社Polyuse+学生チーム
https://www.youtube.com/watch?v=y-Tr_G-kvLs

・「後ろ髪を引くベンチ」:會澤高圧コンクリート株式会社+学生チーム
https://www.youtube.com/watch?v=fUbT_t3HvTw&t=358s

・「新しい定位置」:倉敷紡績株式会社&日揮グローバル株式会社+学生チーム
https://www.youtube.com/watch?v=fg5ULGi64Ho

② 授業の概要、提案内容
・BMEスタジオ(設計製図第七、設計製図1B・2B)

fig1 図1:太海駅の外ベンチ

 fig2図2:太海駅の内ベンチ

 
fig3図3:會澤高圧コンクリートによる内ベンチのテストプリント


fig4図4:Polyuseによるベンチのテストプリント
 

fig5図5:クラボウによるベンチのテストプリント

 
fig6図6:日揮グローバルによるベンチのテストプリント
 
 
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