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若手研究者紹介:高橋佑弥講師 

 

 

 


【経歴】
2008.3: 東京大学工学部社会基盤学科卒業
2010.3: 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了
2013.3: 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻博士課程修了
2012.4-2013.3: 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2013.4-2014.1: 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2014.2-2017.10: 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 助教
2017.11- : 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 講師

 

【研究について】

道路、橋、トンネル、ダム等のインフラ構造物を支える主要な材料の一つである「コンクリート」を対象とした研究を行っています。私たちの身近な材料であるコンクリート、世界では一年間に数百億m3のコンクリートが生産されています。コンクリート材料・構造に関する技術革新は、たとえ小さなものであっても、世界全体に大きなインパクトを与える可能性があり、欧米諸国でもコンクリート、特にセメント硬化体を対象とした大きな研究プロジェクトが多く進んでいます。
 私は、現在主にコンクリート構造物の劣化に関する研究を行っています。コンクリートの中では絶えず化学反応が進んでいて、そのおかげで数年から数十年にわたって強度が増進し続けるのですが、一方で場合によっては膨張性物質が内部で生成され、コンクリートにひび割れが生じることもあります。海沿いなどで塩化物イオンが侵入することによって生じる鉄筋腐食や、セメント硬化体中のアルカリ(Na、K)と砂利に含まれる一部のケイ素(Si)が反応して膨張性ゲルを生成するアルカリシリカ反応(Alkali Silica Reaction, ASR)(写真1)などがこれにあたります。実際、世界中多くの構造物がこれらの現象に悩まされています。既にある構造物がどれだけ設計時の性能を残しているのか、構造物をいつまで使うことができるのかという疑問に答えるために、劣化の未来予測を行うことが求められます。このような問題に対して、数値解析(図1)と実験・現地調査を用いて取り組んでいます。活発な化学反応とそれに伴う体積変化、さらには構造物に生じるひび割れと物質移動との相互作用などを統合的に扱わなければいけないところに本分野の難しさがあり、世界的で多くのグループが精力的に研究を行っています。私たちの研究グループでは、数ナノ~マイクロメートルスケールの分子や結晶/非結晶挙動をモデル化し、数メートルレベルまでスケールアップすることで、上記の膨張性のコンクリート劣化を含む様々な条件・環境の構造物挙動を取り扱うことの可能な数値解析システムを開発してきました。様々な実験を行って得られた最新の知見を随時モデル化して取り込むなどしながら、インフラ構造物の長寿命化・適切な維持管理のためのコンクリート構造物の挙動予測に取り組んでいます。

アルカリシリカ反応が生じたコンクリート構造物 

 

コンクリート中のアルカリシリカ反応に関する統合解析モデル

 

【今後の抱負】
コンクリート工学と他の分野との境界領域の研究を推し進めたいと考えています。これまでに、コンクリート材料と構造の統合問題の他にも、コンクリートと地盤材料の境界領域などについても検討を進めてきました。その検討の中で、工学の難しさは境界領域にこそある再認識しています。境界領域で研究を行うことで、工学を俯瞰する力を養うと共に、個々の既存の研究領域の飛躍的発展につなげられればと考えています。


研究室: http://concrete.t.u-tokyo.ac.jp/ja_2017/