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数学から生まれる「最適」なものの形
――丈夫さ、作りやすさ、使いやすさのすべてを満たす設計とは?――

自動車の部品から飛行機の翼まで、身の回りには「設計」というプロセスを経て、人が生み出したものの形がたくさんあります。設計の目標は、第一に「丈夫さ」「軽さ」などの要求を満たすこと。ですが「工場で製造しやすい」「使いやすい」などものの形に求められる要素はたくさんあります。強度や重量といった測ることができる要素は設計に組み込めますが、使いやすさはどう定義したらよいのでしょうか? 染谷隆夫工学系研究科長が研究の成果と未来、発展のために必要なことについて語り合う対談の第5回では、新しい設計手法を通して、人がものに求める要素を実現する方法論を研究する山田崇恭准教授に登場していただきました。



最適設計とはなんだろうか?

染谷:先生は最適設計という研究をされています。ごく基本的なところからですが、「設計」とは何でしょうか?

山田:設計というと、たとえば飛行機、自動車などが対象になりますね。その中で僕の扱う設計というのは、物の形をどうやって決めるか、に注目しています。わかりやすい例でいうと、飛行機は丈夫でありながらも、少ない燃料でより遠くまで飛べる性能を持つ必要があります。「軽さ」と「丈夫さ」というのは通常は相反する関係になるのですが、そうした相反する条件を満たしつつ、その中で物理的に最も良い形を創成設計する方法を研究しています。

染谷:「ものの物理的に最も良い形」とは、どのように求めていくのでしょうか? 最小二乗法のようなものでしょうか? 

山田:僕が対象としているのはトポロジー最適化という分野です。ものがどんな形であるべきか、どこに孔があって、単純にアウトラインがどうあるべきかだけでなく、孔の有無や位置まで自由度をもたせた上で、より目的関数が下がるように最適な形状を自動的に創成設計するというアプローチです。2次関数でいえば、傾きを頼りに極小値を探すというのが基本的な考え方です。

染谷:物理的というのは、重さや、強度などの物理的なパラメータなのでしょうか? 

山田:クラシックな最適設計では、偏微分方程式で表現することが可能な、剛性や強度などの対象とする物理の状態変数で表せるものを扱います。ただ、それだけでは面白くないので、形そのものを設計の対象にしたいと考えています。ものというのは単純に物理的な特性だけで決まっているわけではなくて、「加工しやすい」「組み立てしやすい」「人間にとって使いやすい」といった条件もありますね。そこで、「つくりやすい」とは何かをちゃんと表現できる問題に落とし込んで、幾何学的な制約条件として最適設計の枠組みに入れてあげる、最適設計の守備範囲をもっと広げようということをしています。

染谷:それは大変に野心的な方法論ですね。自動車や飛行機は、それぞれ求められる性能が異なりますが、その「物理的に最も良い形」というと初期値や条件で決まってくるわけですね。これは用途によると思いますが、用途を決めると物理的に最も良い形を作れるわけですか?

山田:そうですね、目的が「軽くしたい」であれば、対象物の質量で「軽さ」を表現できます。他にも「燃費をよくしたい」が目的ならば、効率が評価基準になりえます。目的をどのように決めるかがいちばん重要で、まず設計者が「こうしたい」という目的を与えて、その目的に対して最も良いものを求めるという順番になります。

測ることができれば「カッコよさ」は作れる

染谷
:最近では、工学の主軸がだんだんとものづくりからコトづくりに広がってきているのではないかと思います。もちろん、ものづくりは依然として大事だとしても、山田先生の目標である「設計」は、ものを中心とされているのか、それとももっと広い対象に向いているのでしょうか? たとえば自動車の場合、従来は「燃費向上」「デザインのカッコよさ」などが目標になりますが、自動車の会社がモビリティの会社になるにつれて、暮らしや街づくりの会社になろうとしている。「目的を決めると設計が決まる」というのは、どの部分を対象にされているのでしょうか?

山田:「カッコよさ」というものを「測る」ことができれば、僕が考えている最適設計という分野は数学の理論を元にもっとも良いものを求める枠組みを作ることができます。クラシックな考え方でいえば、基本的には物理的な性能だけを取り扱うのですが、定量的に評価できるようになれば、「カッコよさ」も設計できると思います。核心の部分は、「カッコよさとは何か」ということですが、これを定量的に評価するのは一般的には難しいとは思います。ですが、それを評価できる枠組みを作ることができれば、可能になります。

染谷:モノを持ったときの感動やコトづくり、たとえば「幸せ」や「体験」は定量化しにくいので、今のところは先生の最適設計の範囲外だけれども、人の幸せや感動を定量化することができればこれも先生の守備範囲に入ってくるということなのですね。

染谷:モノの最適性を決める場合、従来では偏微分方程式の極小値を求め手法をとっていたわけですね。では、従来の方法では扱えなかったけれども、あるいは最適解とは言えなかったけれども、先生が新たに開拓された幾何学的なアプローチならばうまく行った、という例はありますか?

山田:3Dプリンタに利用できる例があります。今注目されている金属の3Dプリンタの場合、金属の粉を焼結させ、順番に積層していくようなプロセスでものを作ります。すると、固まる前に自重で一部が落ちてしまうことがあって、張り出したような形は造形しにくいんですね。そこで張り出したような形を避けつつも、自由度の高い造形法である利点を最大限に利用して、最適な形状を創成設計製造する方法を開発しました。 

染谷:実際に実験して、なにか3Dプリンタで作ってみたということでしょうか? 

山田:3Dプリンタの制約における条件を幾何学で表現して、より剛性が高くて軽い構造物を設計してみせました。従来の手法では、計算上こういう形がよいとなっても結局は作ることができない場合がよくあるのですが、僕の新たな手法では、計算上も良い形であってなおかつ実際に作れるということを実証しました。具体的な自動車の部品などではないですが、仮想的な条件で計算したものと従来の手法の違いを見せて、「従来の方法だと作れませんね、僕の手法だと3Dプリンタで実際に作れます」という例を視覚的に見せることができました。

染谷:従来の手法だと、計算できても作れないということが発生するのですか。すると、幾何学的アプローチのメリットは、計算上はできるけれども実際には作れない設計をなくせるということになりますか?

山田:実現性を上げるというメリットに加えて、より広範囲から最適な形状を探せるというメリットもあります。従来の方法でも、「こういう形は作れない」という制約を避けつつ最適な形を探すというアプローチはあるのですが、非常に狭い空間の中で答えを探すことになります。非常に限られた狭い範囲の中で形を探すと、ほとんど性能も上がらず、それほどよいものはできません。一方で、新しい手法ではその壁を取っ払ってしまうことができます。制約を満たしながら答えを探すのと、最終的にその制約を満たしていれば良い、というのはかなり意味が違います。たとえば山の尾根を進むとき、ずっとその頂点にいなくてはならないのと、左右にはみ出したとしても、最終的に頂点のどこかにいればよい、というのでは身動きのとりやすさが違いますね。良い答えを探す過程では、自由に動き回れて、最終的に制約の中に収まっていればよいというイメージです。

疑っていた人も一瞬で腑に落ちる、デモンストレーションの力

染谷
:今のたとえでだいぶ理解が進みました。従来の方法は、この方程式と方程式をつないでいけばゴールにたどり着ける、というひとつの方法にすぎない。最後のゴールが最適でありさえすれば、異なる方法もあるということなんですね。ところでこれを理論で見せた場合、研究に対する受け止め方はどうでしょうか? 従来のアプローチは今まで多くののエンジニアや研究者の知見に基づいてできたものなので、まったく違うアプローチで越えようとするのはかなり勇気がいることですよね。普通は、「そんなの無理だからやめろ」ということも言われてしまいそうです。

山田: 10年ほど前にトポロジー最適化の中でも新しい手法を始めたこともあって、自分の中ではよいと思っても、研究室の先生や国内の学会で発表すると「間違っているんじゃないか?」、「本当にそれでよい根拠はあるのか?」と批判されることも多くありました。根気よく丁寧に説明を続けていくうちに、受け入れてもらえるようになりました。最初はなかなか理解されないのが当然かな、と思いますし、自分が良いと思ったことを続けていればいずれは、少し時間はかかっても受け入れられると思います。

染谷:先生が、新たに考えた手法を提案したところ、なかなか理解されなかったわけですね。ただ、結果として、重さと強度という相反する条件を満たしつつ実際に作ることができて、従来の手法よりよいものを実物で見せることができれば、先生の手法の有用性は比較的簡単に説得できるのではないかと思うのですが、デモンストレーションはどうでしょうか?

山田:確かに、受け入れてもらえるためには実際に多くの設計課題をやってみせることが一番の説得力だと思います。ただ、現在は実験装置がないために、あくまでも理論の段階なのですね。今後は実際のものに適用して、今あるデバイスを新しい手法で置き換えることができれば、ひとつの成功例になると思って、それを始めようとしているところです。

染谷:それができたら、信じるも信じないもなく、一瞬で説得できますね。もので見せることができれば、信じずに批判していた人たちもぐうの音も出ないわけですから。先生が目指している目標は、そのように実際のものを作って実証することでしょうか。さらに、研究のプロフェッショナルとして将来達成したい夢もありますか?



パーツ、デバイスからシステムへ

山田:さらなる目標が2つあります。ひとつは、ロボットを対象とした機械システムの最適設計です。二足歩行ロボットや昆虫ロボットのように生物や人間を模擬して、ロボットを設計していくのが主流かと思いますが、最適設計の枠組でロボットの創成設計も守備範囲に入れたいと思っています。つまり、パーツやデバイス単位の最適設計でなく機械システム全体がどうあるべきか、ということを考えていきたいと考えています。トポロジー最適化の枠の中だけでは収まらないので、機械システム設計の枠組を,新たにどのように考えるべきか、という点も含めてやりたいと思います。
もうひとつは、「最適なかたち」をどのように理解するか考えたいですね。人工知能や最適設計のしくみから「これが良いですよ」という答えが出てきたときに、それをどう解釈するか、定量的に人間に提示できる仕組みをつくりたいのです。

染谷:人工知能が「これが最適ですよ」という結果を返しても、なぜそれが良いのかということがわかっていないと、使う側からすれば大変不安だというのはありますね。先生の設計について「なぜこれがよいのですか」ということが説明されたほうが、より安心だろうというのはおっしゃるとおりですね。それは簡単なことではないですが、どのようなアプローチで実現されるのでしょうか?

山田:物理現象と幾何学のマルチフィジックスという考え方を導入したいと思っています。例えば、構造と流体のマルチフィジクス問題を考えると、流れにより構造に圧力が作用し、構造物が変形します。また、構造物の変形により流れが変化するという相互に影響を及ぼすマルチフィジクス現象があります。このような現象は、偏微分方程式を用いて記述することができて、相互関係を定量的に評価できます。同じように、幾何学の世界を表現する偏微分方程式を一般化することができれば、通常の物理と幾何学の連成問題として、幾何学的な特徴と物理的特性の関係性を定量的に取り扱うことができます。幾何学の世界を、普通の物理現象のように扱うことができる学問体系を構築するためには、幾何学をより一般的な偏微分方程式で表現していくことが実現の第一歩だと思います。

染谷:幾何学の問題との関係を明らかにすることで、皆が共通の常識だと思っている偏微分方程式のやり方に翻訳することができ、納得感が増すというわけですね。先生のオリジナルな目標を実現するには、どんなサポートが必要でしょうか?

山田:すでに研究科には十分なサポートはしてもらっていると思っています。ただあえていえば、まだ完全に目が出ていない段階で研究目標をアピールできると良いですね。他の人から研究を知ってもらえると、継続のモチベーションになったり、外部や民間からの資金を得やすくなったりという効果につながると思います。「この道を走ればよいんだ」という応援があることは大きいです。僕は自分を信じて走っていける方ではありますが、周りからも「がんばれ」といってもらえるともっと走りやすくなりますね。

染谷:私が応援している若手の先生方は精神的にもタフで、無理解の壁でも余裕で乗り越えていく方が多いとは思います。ただ、少しでも「面白いからぜひがんばって」という応援団であり続けたいと思います。