耐圧kV級GaN光伝導型スイッチの動作実証に成功 ―再生可能エネルギーにおける電力変換用途に期待―

2026/05/25

発表のポイント

Mn添加された半絶縁性GaN基板に対してSiイオン注入を用いてコンタクト層を形成することで、GaN光伝導型スイッチ(PCSS)の動作実証に成功しました。

光照射時(オン時)には、光電流が得られ、その伝導機構が光キャリアのドリフト輸送であることを明らかにしました。光遮断時(オフ時)には、リーク電流が低い良好な絶縁性を示し、最大で2.4 kVの耐圧が確認されました。
本質的に電磁干渉フリーであり、高耐圧・高速なスイッチング動作が可能であることから、風力発電やメガソーラーなどの再生可能エネルギーにおける電力変換などへの応用が期待されます。

 

fig1

試作したGaN光伝導型スイッチ(PCSS)の光電流測定の様子

 

概要

東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の前田 拓也 講師らの研究グループ、三菱ケミカル株式会社は、耐圧kV級のGaNの光伝導型スイッチ(PCSS)(注1)の動作実証に成功しました。本研究では、Mn添加された半絶縁性GaNバルク基板(注2)に対し、Siイオン注入により局所的にn型領域を形成し、その上にオーミック電極を形成した構造を用いました。紫外光を照射することで大きな光電流が得られ、その光電流の輸送メカニズムを明らかにしました。同時に作製したFe/C共添加された半絶縁性GaN基板上のPCSSと比較して約40倍大きい光電流が得られており、Mnを用いる有用性を示した点に新規性があります。また、オフ時にはリーク電流が低く、最大耐圧2.4 kVが得られました。本研究成果は、今後、電磁干渉(EMI)(注3)のない高耐圧・高速な光駆動パワー半導体の研究開発の発展につながり、再生可能エネルギー(注4)の電力変換の高効率化に貢献すると考えられます。

 

発表内容

<背景と課題>    
高電圧・大電流を高速にスイッチングする際に本質的に電磁ノイズが発生することが避けられず、通信障害や機器誤動作を防ぐために駆動回路が複雑化してしまうことが問題となっています。光伝導型スイッチ(PCSS)は、ゲートが電気的に絶縁されており電磁干渉(EMI)の影響がなく、ナノ秒オーダーの高速スイッチングが可能です。窒化ガリウム(GaN)は、直接遷移型のワイドギャップ半導体であり、光吸収効率が良く、高い絶縁破壊電界と高い電子移動度を有しています。そのため、GaN PCSSは、高電圧・高速・EMIフリーなスイッチングが可能であり、風力発電やメガソーラーなどの再生可能エネルギーの電力変換用途などへの応用が期待されています。しかし、これまでGaN PCSSの試作報告は少なく、適切なデバイス構造の検討やその動作原理などについて未開拓な状況でした。

<成果の内容>
この度、東京大学は、三菱ケミカル株式会社が提供したMn添加された半絶縁性GaNバルク基板に対し、Siイオン注入および高温熱処理による活性化、電極形成を行うことで、GaN PCSSの試作を行いました。図1 (a)に作製したGaN PCSSの素子構造の断面図を示します。Hall効果測定および伝送長(TLM)法測定によって、Mn添加GaN結晶に対して良好なn型領域およびオーミック接触を形成できていることを確認しました。

 

fig2図1:(a) 本研究で作製したGaN PCSSの断面図(左図)。
(b) GaN PCSSの光電流の電圧依存性及び光強度依存性(右図)。

 

東京大学は、作製したGaN PCSSに対して、水銀ランプを用いて素子表面に光照射し、光電流の測定を行いました。バンドパスフィルターを用いてGaNの基礎吸収端よりわずかに短波長なi線(波長365 nm)近傍を単色化し、レンズによって電極付近に集光して照射しました。図 1 (b)にGaN PCSSの光電流の電圧依存性および光強度依存性を示します。光照射によって明瞭な光電流が得られ、光強度に比例して光電流が増加していることが確認されました。これは、多光子吸収やオージェ再結合などの非線形な過程が生じていないことを示唆しています。電圧増加につれて光電流はおおむね線形に増加していますが、高電圧(高電界)になるにつれて、やや飽和する傾向が見られます。これは、光キャリアのドリフト速度飽和を反映していると考えられます。また、得られた光電流について、同時に作製したFe/C共添加された半絶縁性GaNバルク基板を用いたPCSSの特性と比較すると、同構造・同測定条件で約40倍大きいことが分かりました。これは、Mnが補償欠陥として絶縁性に寄与する一方で、Feと比較して再結合中心として働きにくいことを示唆しており、PCSS応用においてMn添加された半絶縁性GaN基板の優位性を示しています。

図2 (a)に作製したGaN PCSSのオフ時(暗時)の電流-電圧特性を示します。リーク電流は低く良好な絶縁性が得られており、電極間距離が増加するにつれて絶縁破壊電圧が増加していることが分かります。また、最大で2.4 kVの耐圧が得られています。図2 (b)に絶縁破壊電圧の電極間距離依存性を示します。絶縁破壊電圧は電極間距離におおむね比例し、実効的な破壊電界は0.35 MV/cm程度であることが分かりました。これは、Siの破壊電界よりは優位に大きいものの、GaNの本来の絶縁破壊電界(~3 MV/cm)より低く、今後、表面電界を抑制することで、同寸法でさらなる高耐圧化が可能になると考えられます。

fig3図2:(a) 作製したGaN PCSSのオフ時(暗時)の電流-電圧特性および電極間距離依存性(左図)。
(b) GaN PCSSの絶縁破壊電圧の電極間距離依存性(右図)。

 

これらの研究成果は、パワー半導体デバイス分野で最大規模の国際会議であるThe 38th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD 2026)に採択され、5月27日にLas Vegas(USA)で発表予定です。

 

<今後の展望>
本研究の成果をもとに、今後はGaN PCSSのオン電流のさらなる増大や表面構造の工夫による耐圧(破壊電界)の増大、スイッチング特性評価に取り組みます。これらの研究は、高耐圧・高速・EMIフリーなGaN PCSSの研究開発を加速させ、再生可能エネルギーの電力変換への応用によって持続可能な省エネルギー社会の実現に貢献することが期待されます。

〇関連情報:
「プレスリリース①窒化アルミニウム系ショットキーバリアダイオードの電流輸送機構を解明 ―低炭素社会に寄与する新しいパワー半導体デバイスの実現に向け大きく前進―」(2024/12/10)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-12-10-001 

「プレスリリース②新規窒化物半導体ヘテロ接合における電子散乱機構を解明 ―高周波GaNトランジスタの性能向上に道筋―」(2025/07/07)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-07-07-001  

 

発表者・研究者等情報

東京大学 
 大学院工学系研究科電気系工学専攻
  前田 拓也 講師

 

 大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター(d.lab)

  中根 了昌 特任准教授

   兼:同研究科電気系工学専攻

 

 工学部電気電子工学科
  李 晉維 研究当時:学部学生

三菱ケミカル株式会社 
 報電子技術開発本部 情電技術部 半導体前工程グループ  
  磯 憲司 マネジャー

学会情報

学会名:The 38th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD 2026)

題 名:kV-Class GaN Photoconductive Semiconductor Switches Using Mn-Doped Semi-Insulating GaN Bulk Crystals

著者名:Takuya Maeda*, Chinwei Li, Ryosho Nakane, Kenji Iso

URLhttps://ispsd2026.com

※8月にIEEE Xplore digital libraryよりProceedingsが出版予定

 

研究助成

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)エネルギー・環境分野における革新的技術の国際共同研究開発「PCSS用半絶縁性GaN基板の国際共同研究開発(課題番号: JPNP14004)」の支援により実施されました。また、デバイス作製の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号: JPMXP1225UT1184)の支援を受けて、東京大学武田先端知ビルクリーンルーム微細加工拠点で実施されました。

 

用語解説

(注1)光伝導型スイッチ(Photoconductive Semiconductor Switch, PCSS)
光伝導型スイッチ(PCSS)は、半導体に光を照射することで瞬間的に導通状態に切り替えるスイッチング素子です。電気的なゲート構造・配線を必要としないため、高電圧環境でも優れた絶縁性と低電磁干渉(EMI)特性を有します。特に、GaNを用いたPCSSは、高耐圧・高速動作・高温体制に優れ、再生可能エネルギーやパルスパワー応用への展開が期待されています。

(注2)Mn添加された半絶縁性GaNバルク基板
マンガン(Mn)はGaN中で禁制帯中心付近(ミッドギャップ)にエネルギー準位を形成し、キャリア補償源として働きます。そのため、Mnを残留ドナー密度よりも多く添加することで、GaNを絶縁化することができます。鉄(Fe)や炭素(C)などの他の深い準位・キャリア補償源と比較して、エネルギー準位が深い特徴があります。

(注3)電磁干渉(Electromagnetic Interference, EMI)
電磁干渉とは、電子機器から発生した不要な電磁ノイズが、周囲の機器や通信に悪影響を与える現象です。特に、パワー半導体の高速スイッチングでは、大きな電圧・電流変化によって強い電磁ノイズが発生します。これにより、誤動作や通信障害、信号品質の低下などが問題となります。パワーエレクトロニクスにおいてEMIの抑制が重要な課題となっています。

(注4)再生可能エネルギー
再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、水力、地熱など、自然界で継続的に得られるエネルギーを利用した発電方式です。二酸化炭素排出量が少なく、資源枯渇の心配がない持続可能なエネルギー源として注目されています。一方で、天候や自然条件によって発電量が大きく変動するため、大規模な電力網の高度な制御が必要となります。その実現には、蓄電技術や制御システムに加え、高耐圧・大電流・高速動作・EMIフリー特性を備えたパワー半導体スイッチが求められています。


 

プレスリリース本文:PDFファイル