発表のポイント
◆ 光の波長よりも小さな微細構造からなる光学メタサーフェスと化合物半導体薄膜からなる超高速光検出器アレイをワンチップに集積した小型受信器を初めて実証。
◆ 光学メタサーフェスにより入力光信号の偏波や複素振幅の各成分を分離して所望の光検出器に集光することで、多様な変調方式の高速光信号を受信。
◆ 高密度2次元並列化が容易であり、次世代のチップ間光配線、自由空間光通信、大容量空間分割多重光通信、光コンピューティング等への適用が可能。

光学メタサーフェスと薄膜光検出器アレイを集積したワンチップ高速光受信器の模式図
概要
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の相馬 豪 大学院生(研究当時)、種村 拓夫 教授、中野 義昭 教授(研究当時)、竹中 充 教授らのグループは、光学メタサーフェス(注1)と超高速光検出器を一つのチップに集積した多機能光受信器の実証に成功しました。約0.5 mm厚の石英ガラス基板の両面にシリコン(Si)微細構造からなる光学メタサーフェスと化合物半導体(InGaAs)薄膜からなる光検出器アレイを集積することで、高速な光信号を偏波(注2)や複素振幅(注3)の成分毎に分離して受信できることを初めて実証しました。従来の光通信用受信器と異なり、高密度2次元並列化が可能であるため、チップ間光配線(注4)、自由空間光通信(注5)、大容量空間分割多重光通信(注6)、光コンピューティング(注7)などさまざまな応用が期待されます。
発表内容
光学メタサーフェスは、光の波長よりも小さな構造体(メタアトム)を高密度に平面上に配置した光学素子であり、透過光の波面を自在に制御することができます。従来の光学部品に比べて薄くて軽いため、平面型のレンズ(メタレンズ)や顔認証センサ用ドットプロジェクタなど、イメージング・センシング分野を中心に近年急速に実用化が進んでいます。一方、メタサーフェスに高速な光検出器を組み合わせた光通信用受信器への応用も検討されてきましたが、これまではメタサーフェスと光検出器が一体化しておらず、受信器全体として見ると大型になってしまっていました。これに対して本研究では、メタサーフェスと超高速光検出器を一つのチップに集積した新しい光デバイスプラットフォームを開発し、多様な光信号方式に対応した超小型かつ高速な光受信器の実証に成功しました。
作製したデバイスの写真と受信器の機能を図1に示します。約0.5 mm厚の石英ガラス基板に厚み1 µm以下のInGaAs薄膜受光層を貼り合わせることで、70 GHz以上の帯域を持つ超高速な光検出器を実装しました。その上で、入力光信号の各偏波・複素振幅成分が所望の光検出器に集光されるように最適設計したメタサーフェスを反対側の面に形成しました。これにより、単一の光検出器にメタレンズを集積した受信器(ML+PD)やこれをアレイ化した多チャンネル受信器(ML+PDA)に加えて、偏波成分を分離して受信するストークスベクトル受信器(SVR)、複素振幅の実部と虚部の成分を分離して受信するコヒーレント受信器(CR)など、合計94個の受信器を1.2 cm角のチップに搭載しました。

図1:作製したワンチップ高速光受信器のチップ写真(左図)と各受信器の機能(右図)
4チャンネル受信器(ML+PDA)とストークスベクトル受信器(SVR)部の顕微鏡写真と実験結果の一例を図2に示します。それぞれの構成により、320 Gbps 4値パルス振幅変調(PAM4)信号(注8)、および240 Gbps 64値直交振幅変調(64QAM)信号(注9)の受信に成功しました。

図2:4チャンネル受信器(上段)とストークスベクトル受信器(下段)の顕微鏡写真と高速信号受信結果
今回実証した素子は、従来の導波路型の光受信器と異なり面入射型であるため、2次元並列化が容易であり、多チャンネル受信器への展開が可能です。次世代の高密度チップ間光配線や大容量光通信をはじめ、高速イメージングや光コンピューティングなど、幅広い分野への応用が期待されます。
〇関連のプレスリリース:
①「光学メタサーフェスを用いた小型高速光受信器を開発 ―波長以下の微細構造で光の偏波成分を分離して受信―」(2023/5/17)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2023-05-17-003
②「垂直入射型コヒーレント光受信器を開発 ―Beyond 5G用の超高速・超小型光トランシーバ実現に期待―」(2022/8/24)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-08-24-001
③「光学メタサーフェスを用いた空間・偏波ビーム多重器を実証 ―任意の直交ベクトルモード基底の変換を実現―」(2025/8/26)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-08-26-001
④「低電圧駆動アクティブメタサーフェスを実証 ―わずか1 Vで反射光を高速に変調するメタ表面を実現―」(2025/9/11)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-09-11-001
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
相馬 豪 研究当時:博士課程
赤澤 智熙 博士課程
加藤 豪作 学術支援職員
小松 憲人 研究当時:博士課程
竹中 充 教授
中野 義昭 研究当時:教授
現:豊田工業大学 副学長・教授、東京大学名誉教授
種村 拓夫 教授
論文情報
雑誌名:Nature Communications
題 名:Ultrafast one-chip optical receiver with functional metasurface
著者名:Go Soma*, Tomohiro Akazawa, Eisaku Kato, Kento Komatsu, Mitsuru Takenaka, Yoshiaki Nakano, and Takuo Tanemura*
DOI:10.1038/s41467-025-65984-6
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-025-65984-6
研究助成
本研究は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業 要素技術・シーズ創出型プログラム(JPJ012368C08801、JPJ012368C03601)」、および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23H05444、JP23H00172、JP23H00272、JP24KJ0557)により実施されました。
用語解説
(注1)光学メタサーフェス
波長よりも細かい構造体(メタアトム)を平面上に高密度に配置することで、垂直に入射された光の波面を変換する素子。例えば、石英基板上にシリコンの微細構造を形成することにより実現される。
(注2)偏波
光の電界成分の向きを表したもの。偏光とも呼ばれる。一般に、直線偏波成分や円偏波成分毎に分離することができる。
(注3)複素振幅
光電界の強度と位相の情報を複素数形式で表したもの。複素振幅の実部と虚部の情報から、強度と位相の情報に換算できる。
(注4)チップ間光配線
プロセッサやメモリ間のデータ転送に光信号を用いる技術。AI用プロセッサの高性能化に向けて、近年急速に開発が進められている。
(注5)自由空間光通信
自由空間を光(通常はレーザー光)を用いて通信する技術。宇宙光通信も含まれる。
(注6)空間分割多重光通信
複数の空間モードが存在する多モード光ファイバや多芯光ファイバを用いて、複数の空間モードの光に異なる情報をのせて伝送することで大容量の通信を行う技術。
(注7)光コンピューティング
光を用いて演算を行う技術。特に、光の空間自由度や回折効果を利用することで、高速な積和演算を省電力に行うことができる。
(注8)4値パルス振幅変調(PAM4)信号
4段階の光強度を用いて信号を伝送する方式。一度の変調で4値(2ビット)の情報を送ることができる。
(注9)64値直交振幅変調(64QAM)信号
光の複素振幅において、複素平面上で等間隔に離れた64個の状態を用いて信号を伝送する方式。一度の変調で64値(6ビット)の情報を送ることができる。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-025-65984-6
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