重量100分の1の超小型海域震源装置を開発 ―海底下貯留CO₂を低コスト・高頻度・低環境負荷でモニタリング可能に―

2026/04/10

発表のポイント

地下の可視化やモニタリングに利用する海域震源装置を、従来の装置と比べて重量を約100分の1に小型化し、海洋生物など周辺環境への負荷も大幅に低減することに成功。
小型震源であっても、繰り返し発振した信号を重ね合わせる新しい探査手法により、海底下2.5 kmまでの地層構造をイメージング・モニタリングできることを実証。
無人探査船や海底光ファイバーケーブルを利用した地震観測システム(DAS)と組み合わせることで、地下に貯留したCOを低コストかつ連続的に監視する新しい海域モニタリングシステムの実現可能性を示した。

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小型震源装置Marine-PASSを用いたモニタリング模式図

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の辻 教授らの研究グループは、海域におけるCO地中貯留のモニタリングを主な目的として、小型・低環境負荷型の海域震源装置「Marine Portable Active Seismic SourceMarine-PASS)」を開発しました。

地球温暖化対策として注目されているCO回収・地中貯留(CCS)(注1)では、地下に貯留したCOが安全に貯留されているかを長期間にわたり監視する必要があります。特に日本のような海に囲まれた国では、CO貯留地点の多くが沿岸域になると考えられており、浅海域での低コストなモニタリング技術の確立が重要な課題となっています。従来、海域での地震探査にはエアガンと呼ばれる大型震源装置が使用されてきました。しかし、この装置は大型であるため運用には大型探査船が必要となり、調査コストが非常に高く、頻繁なモニタリングが困難でした(図1左)。また、高い音圧による海洋生物への影響も懸念されていました。さらに、沿岸域では水深が浅いため大型震源の運用が難しいという問題もありました。

そこで本研究では、スピーカー型の小型震源装置Marine-PASSを用い、弱い振動を繰り返し発振し、その信号を重ね合わせることで、地下深部まで探査を可能にする新しい海域モニタリング手法を開発しました(図1右)。台湾沖のCO貯留候補地点における海域実験では、小型震源であっても海底下2.5 kmまでの地層構造を明瞭にイメージングできることを実証しました。つまり、このMarine-PASSを繰り返し利用することで、大型船に搭載したエアガンを用いなくても、貯留したCOの挙動を継続的にモニタリングできる可能性が示されました。

 

fig1

1:(左)大型の震源装置(エアガン)と受振器を搭載したケーブルによる探査・モニタリングと、(右)新たに開発した小型震源装置(Marine-PASS)とそれを運用する小型船舶。

 

本震源装置は小型船舶や無人探査船から運用可能であり、さらに海底光ファイバーケーブルを利用した地震観測システム(DAS)と組み合わせることで、高い空間分解能と時間分解能を両立した連続モニタリングが可能になります。つまり、本研究成果は、従来の「大型探査船による高コスト・低頻度の探査」から、「小型震源と自律型観測システムによる低コスト・高頻度・自動化モニタリング」への転換を実現する技術であり、今後のCO地中貯留の安全管理の在り方を大きく変える可能性があります。

本研究成果は、202642日付で、Carbon Capture, Utilization and StorageCCUS)の専門誌「International Journal of Greenhouse Gas Control」に掲載されました。

 

発表内容

〈研究の背景〉

CO回収・地中貯留(CCS)は、大量のCO削減を実現する現実的な技術の一つとされており、海外だけでなく日本国内でも先進的CCS事業として複数のプロジェクトが進みつつあります。COを地下に貯留する際には、COが安全に貯留層内に留まっていることを長期間にわたり監視する必要があります。そのため、地下構造や貯留したCOを可視化できる地震探査を同じ場所で繰り返し実施し、地下構造の時間変化を観測する「繰り返し地震探査(4次元地震探査)」が一般的に用いられています。

しかし、従来の海域地震探査では、エアガンと呼ばれる大型震源装置や、数kmにも及ぶ長大な受振ケーブルを搭載した大型探査船が必要であり、調査コストが非常に高く、頻繁なモニタリングを実施することが困難という問題がありました(図1左)。調査費用は一度で数億円規模となることもあり、通常は数年に一度程度の実施にとどまります。そのため、COの挙動を高い時間分解能で把握することが難しく、急なCOの挙動変化を即座に捉えられない可能性がありました。

さらに、現在進行中の先進的CCS事業では9つのCCSプロジェクトが進められており、日本周辺のCO貯留サイトの多くは沿岸域に位置すると考えられています。しかし、沿岸域は水深が浅く、航行する船舶も多いため、大型探査船や長いケーブルを曳航する従来型の地震探査の適用が難しいという問題がありました。また、大型震源装置(エアガン)を用いた探査では、高い音圧による海洋生物への影響も懸念されていました。

このような背景から、「低コスト」「高頻度」「環境負荷が小さい」海域モニタリング技術の開発が強く求められていました。

 

〈研究の内容〉

本研究では、これらの問題を解決するため、小型・軽量の海域震源装置Marine-PASSを開発しました。本装置は直径約40 cm、重量約40 kgと非常に小型であり、小型船舶や無人探査船から運用することが可能です。従来の震源装置(エアガン)は全体で数トン規模であることを考えると、本装置は約100分の1の重量となり、海域地震探査に用いる震源装置を大幅に小型化することに成功しました(図1右)。

開発した震源は、従来のエアガンのように強いインパルス波を一度に発生させる方式ではなく、制御された弱い振動信号を繰り返し発振し、それらの信号を重ね合わせることで、結果として強い信号を得る方式を採用しています。この手法は陸上用の震源装置「Portable Active Seismic SourcePASS)」としてすでに開発されており(関連情報①)、実用化に向けた検討が進められてきました。本研究では、この技術を海域用震源として応用し、Marine-PASSを開発しました。この方法を用いることで、小型の震源装置であっても地下深部までの探査が可能となります。さらに、従来のエアガン震源装置よりも音圧がく、海洋生物への影響を抑えられるほか、海洋生物への影響が大きいとされる周波数帯を避けた震源波形を用いることも可能です。加えて、本震源は消費電力が小さく、市販のバッテリーで長時間の運用が可能であるため、小型船舶や無人探査船への搭載にも適しています。

フィールド試験では、数十回程度のMarine-PASSの発振信号を重ね合わせることで、既存の大型震源装置(エアガン)と同等の信号強度を得られることを確認しました。さらに、台湾沖のCO貯留候補地点において実施した海域実証試験では、Marine-PASSを用いた場合でも、海底下2.5 kmの深度まで地層構造を明瞭にイメージングできることを確認しました(図2左)。つまり、この探査を繰り返し実施することで、貯留したCOの挙動をモニタリングできると期待されます。さらに、地下構造の可視化だけでなく、弾性波速度を推定できることも確認され(図2右)、COの分布や圧力変化をモニタリングできる可能性が示されました。

 

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2Marine-PASSにより得られた反射断面図(海底下の地質構造)(左)と弾性波速度(右)。

左の断面図は、医療用の人体のエコーを海底下に向けて利用したようなものである。右の図の縦軸は波が発振されて戻ってくるまでの時間(深度に対応)、横軸は弾性波速度である。

 

 

さらに日本沖合において、リアルタイムに陸上観測局にデータを転送できる海底光ファイバー型地震計(DAS)と組み合わせた実証試験を実施しました。その結果、Marine-PASSDASを組み合わせることで、海域における連続的な地下モニタリングが可能であることを実証しました。

Marine-PASSは非常に小型であり、台湾での実証試験のように小型船舶からでも運用可能であることから、CO貯留サイト周辺において地元の漁船などと連携したモニタリングの実施が期待されます。これは、大型探査船を用いた従来の調査とは異なり、地域の船舶や既存インフラを活用したモニタリングを可能にするものであり、低コスト化だけでなく、地域と共存したCO貯留モニタリングの実現につながると考えられます。地域の資源や人材を活用しながら安全管理を行うという点でも、本技術は新しい海域モニタリングの形を提案するものです。

 

〈今後の展望〉

本研究で開発したMarine-PASSは非常に小型・軽量であり、小型船舶や無人探査船への搭載・運用が可能ですが、実際の海域で活用するためには運用方法の検討が必要です。Marine-PASS1地点において約20分程度連続して発振する必要があるため、その間、船舶の位置を一定に保つ定点保持技術が重要となります。具体的には、定点保持が可能な船舶を利用する方法や、アンカーを用いて船体を固定する方法などが考えられます(図3)。現在、辻研究室では、実際に無人探査船を用いた探査・モニタリングの実証試験を進めています(図4)。

 

fig3

3Marine-PASSを無人探査船で運用する複数の方法

 

fig4

4:無人探査船でのMarine-PASSの運用テスト

 

本装置は消費電力が小さいという特徴があり、無人探査船にソーラーパネルなどを搭載し、発振頻度を制御することで、長期間にわたる自律的なモニタリングを海上で継続的に実施できる可能性があります。これにより、CO貯留層の状態をこれまでよりも高い時間分解能で把握できるようになります。将来的には、無人探査船と海底観測システムを組み合わせた自律型海域モニタリングシステムの実現を目指しています。

さらに、超小型の無人探査船にハイドロフォン(受振器)を搭載することで、震源装置を搭載した無人探査船1台と、受振器を搭載した少数の無人探査船のみでモニタリングを行うことも可能と考えられます。これにより、海底に多数の地震計を設置する必要がなくなり、従来の海底設置型受振器アレイを用いた探査と比較して、モニタリング費用を大幅に削減できる可能性があります。このような限られた震源装置と受振器で探査・モニタリングを行う手法は、月面探査(アルテミス計画)に向けて開発している地震探査システム(関連情報②)の考え方を海域探査へ応用したものになります。

本研究成果は、従来の大型探査船による大規模海域探査から、小型震源と無人探査船を用いた「低コスト・高頻度・自動化モニタリング」への転換を可能にする技術であり、CO地中貯留のモニタリングだけでなく、海底資源探査、洋上風力発電の海底地盤調査、海底パイプラインや通信ケーブルなどの海底インフラのモニタリングなど、さまざまな海洋分野への応用が期待されます。

 

〇関連情報:

①プレスリリース「カーボンニュートラルの達成に不可欠!CO2地中貯留の連続モニタリングに向け超小型震源装置の開発」(2022/9/15

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-09-15-001

 

②プレスリリース「NASAアルテミス4で、宇宙飛行士が実施する月面探査装置として小型震源装置PASSが採用」(2025/12/9

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-12-09-001

 

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科

 辻 健 教授

 イマン タレク サミア アブデルアス 特任研究員

 アフマド アフマド バハア オマル 特任研究員

 坂本 和敏 学術専門職員 

 喜岡 新 特任准教授

 鶴 哲郎 特任研究員

 

バンドン工科大学

 フェルナンド ラウレンス フタペア 講師

 

ウエタックス株式会社

 植木 正春

 

国立台湾大学

 郭 陳澔 教授

 管 卓康 ポストドクトラル研究員

 

国立中山大学

 林 俊宏 助理教授

 

論文情報  

雑誌名:International Journal of Greenhouse Gas Control

題 名:A compact, low-impact seismic source reshapes monitoring of offshore CO2 storage

著者名:Takeshi Tsuji*, Tarek Imam, Ahmad Ahmad, Kazutoshi Sakamoto, Arata Kioka, Tetsuro Tsuru, Fernando Hutapea, Masaharu Ueki, Hao Kuo-Chen, Zhuo-Kang Guan, Chun-Hung Lin

DOI10.1016/j.ijggc.2026.104644

URLhttps://doi.org/10.1016/j.ijggc.2026.104644

 

研究助成

本成果は、環境省事業「環境配慮型CCUS実証拠点・サプライチェーン構築事業委託業務(輸送・貯留等技術実証)」において得られたものです。また本成果の一部は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:JP24H00440)の支援を受けました。

 

用語解説

(注1CO回収・地中貯留(CCS

CCSCarbon dioxide Capture and Storage の略。排出される COを回収し、地下に圧入・貯留することでCOの排出を削減する技術。日本では2030年の本格運用開始を目指して法整備が進められており、すでに9つのプロジェクトが始動している。このCCS技術により、日本国内では年間1.2億トンから2.4億トン(日本の総CO排出量の約1020%に相当)のCOが削減される予定である。なお、COの貯留サイトの多くは沿岸域に位置しており、大型の船舶を用いた既存のモニタリング手法の適用が困難であった。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

International Journal of Greenhouse Gas Control:https://doi.org/10.1016/j.ijggc.2026.104644