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発表のポイント
◆ 東京大学辻研究室が開発してきた小型震源装置「PASS(Portable Active Seismic Source)」が、NASAアルテミス4における月面の弾性波探査機器として採用されました。

月面での地震探査のコンセプト図(Credit: NASA-JPL/Caltech)。
概要
東京大学大学院工学系研究科の辻 健 教授、坂本 和敏 学術専門職員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)の田中 智 教授、パリ地球物理研究所IPGPの川村 太一 准教授が、月面探査用に開発してきた小型震源装置「PASS(Portable Active Seismic Source)」(注1)が、NASAのアルテミス4(注2)における弾性波探査機器(注3)として採用されました。月面に地震計を設置し、その周辺で宇宙飛行士がPASSを用いて探査信号を発信することで、着陸地点周辺の地下構造を高精度に可視化します(図1)。この探査から得られる地下構造データは、月の形成史の解明に寄与するだけでなく、将来的な月面資源の開発や、基地建設を含む土木インフラの設計においても重要な情報を提供すると期待されます。
図1:(左)月面での探査の模式図と、(右)宇宙飛行士用に設計したPASS。
発表内容
小型震源装置PASSと地震計をパッケージ化した地震観測・地下探査装置であるSPSS(South Pole Seismic Station)が、アルテミス4で利用されることになりました。このSPSSでは、NASAジェット推進研究所(JPL)のリードのもと、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、パリ地球物理研究所(IPGP)が地震計を開発・提供します。一方、日本からは、PASSが提供され、弾性波探査の実施を可能とします。
PASSを用いて月面で人工的に微振動を発生させ、その波動場を地震計で観測することで、着陸地点周辺の地下構造を高精度に可視化します。具体的には、表面波探査を中心に実施し、地下約5 m程度までのS波速度構造(断面図)の構築を目指します。これにより、
・月面における水資源・鉱物資源の探査
・将来の月面基地建設に向けた地盤評価
・月内部構造の科学的理解の深化
といった分野に重要な基盤データを提供できると期待されます。
PASSは、従来の地震探査機器では実現が難しかった小型・軽量・高い操作性を備えており、これまでに国内外のCO₂貯留モニタリングや地球上の土木構造物調査、地下の空洞探査などで実績を積んできました(図2)。今回のアルテミス4への採用にあたり、宇宙飛行士が月面で容易に取り扱えるよう最適化した宇宙仕様モデルを新たに開発し、真空環境、月面の極端な温度変化、レゴリスへの耐性を備えた設計を実現しています。

図2:(左)月の模擬試験フィールドでの探査装置の最適化風景と、(右)地球上の空洞探査での利用。
アルテミス4に続き、今後は月面探査や火星探査がさらに加速すると見込まれます。本研究グループは、これらの探査に適した地震探査システムの開発を進め、地球で実施されているような地下構造の可視化や物性推定を、宇宙環境でも簡便に実施できる手法・機器の構築を目指しています。
さらに、宇宙飛行士が手で扱えるPASS装置の開発により、地球上での利用も容易になりました。実際、地表近くの空洞探査など浅部地下構造の簡易探査への応用も確認されています。今後、この装置が「誰でも簡単に地下を調べられるツール」として普及していくことが期待されます。
〇関連情報:
・プレスリリース「カーボンニュートラルの達成に不可欠!CO₂地中貯留の連続モニタリングに向け超小型震源装置の開発」(2022/9/15)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-09-15-001
発表者・研究者等情報
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻
辻 健 教授
坂本 和敏 学術専門職員
JAXA宇宙科学研究所
田中 智 教授
パリ地球物理研究所IPGP
川村 太一 准教授
研究助成
本件は、JAXA宇宙探査イノベーションハブとの共同研究「超小型震源装置1台と地震計1台で地下探査を可能とする自律型地震探査装置の開発」(2023.5~2025.5)の成果です。
用語解説
(注1)PASS(Portable Active Seismic Source)
PASSは小型の震源装置ですが、繰り返し信号を発信することで、弾性波探査に必要な信号を遠方まで伝達させることができます。なお、NASAのプレス発表では、この震源装置を“Thumper” と表現していますが、これはアポロ計画の際に月面探査で使用された震源装置の名称です。
(注2)アルテミス4
NASAが進めるアルテミス4は、月面探査と有人活動の本格的拡大を目指すミッションです。またアルテミス4ミッションでは、宇宙飛行士が月面に降り立ち、地質調査を実施します。探査機器を展開し、サンプル採取も行うことが計画されています。
(注3)弾性波探査
弾性波探査とは、地面に人工的な振動を与え、その伝わり方を観測することで地下の構造や物性を調べる技術です。弾性波にはさまざまな種類があり、アルテミス4では主に表面波探査を用いて浅部構造を可視化することを目指します。また、より深部の情報を得るため、反射波や屈折波を利用した探査にも同時に挑戦し、月面地下のより包括的な理解を試みます。
プレスリリース本文:PDFファイル
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