発表のポイント
◆ 光の波長よりも小さな微細構造からなるメタサーフェスを電圧駆動することで、反射光の強度を高速に変化させることに成功。
◆ 厚み1 µm以下、10 µm角の薄くて小型なメタサーフェスを用いて、わずか1 Vの電圧で毎秒1.6ギガビットのデータ変調を実証。
◆ CMOS回路による直接駆動や2次元並列化も可能であり、将来の自由空間光通信用の送信器や高速ビーム走査デバイスへの応用が期待される。

アクティブメタサーフェスの模式図
概要
東京大学大学院工学系研究科の相馬 豪 大学院生、種村 拓夫 教授らは、反射特性を高速に変化させられる光学メタサーフェス(注1)の実証に成功しました。光の波長よりも小さな微細構造からなるメタサーフェス共振器と有機電気光学材料(注2)を組み合わせることで、1 V以下の低い駆動電圧で、表面からの反射光の強度を高速かつ高効率に変調できることを初めて示しました。
高速なアクティブメタサーフェスは、イメージングや光通信などさまざまな光応用分野において注目を集めています。しかし従来は、反射率や透過率を十分に変化させるために数十V以上の大きな電圧が必要であり、実用化に向けた障壁となっていました。これに対して本研究では、対称性の破れを利用したメタサーフェス構造を導入し、厚みが1 µm以下の薄い共振器内に入射光を効率良く閉じ込めることで、低電圧での動作を可能にしました。その結果、わずか1 Vの電圧で毎秒1.6ギガビットの高速データ変調に成功しました。実証したアクティブメタサーフェスは、CMOS(注3)回路による直接駆動や2次元並列化も可能であり、将来の自由空間光通信(注4)や高速ビーム制御など幅広い応用が期待されます。
発表内容
光学メタサーフェスは、光の波長よりも小さな構造体を薄い基板の上に配列させた光学素子であり、透過光や反射光の波面を自在に制御することができます。従来の光学部品に比べて薄くて軽いため、イメージングやセンシング用途への実用化が急速に進んでおり、平面型のレンズ(メタレンズ)、顔認証センサ用のドットプロジェクタ、イメージセンサ用のカラールーターなど、さまざまな用途に使用され始めています。
その一方で、現在実用化されているメタサーフェスは、作製後にその機能を変えることができません。そこで近年、電気的に反射率や透過率を制御できる再構成可能なメタサーフェスの研究が活発に行われています。このようなデバイスは、アクティブメタサーフェスと呼ばれています。特に、ニオブ酸リチウム(注5)や有機電気光学材料を用いたものは、GHz以上の高速な動作が可能であるため、液晶や機械式ミラーを用いた既存の空間光変調器では達成不可能な高速ビーム制御や自由空間光通信への応用が期待されています。しかし先行研究では、反射率や透過率を十分に変化させるために数十V以上の大きな電圧が必要であり、実用化を阻む要因の一つになっていました。
これに対して本研究では、シリコンの微細構造と有機電気光学材料を用いた新たなアクティブメタサーフェスを作製し、わずか1 Vの電圧で反射光を高速に変調することに実験的に成功しました。
本研究において実証したアクティブメタサーフェスの構成と作製した素子の写真を図1に示します。厚み400 nm のn型シリコンからなる格子構造が周期的に配置されており、格子の長手方向(y方向)に対して微細な凹凸形状が施されています。この突起部の幅を一つおきに変化させる(w+>w_)ことで構造の対称性を破り、シリコン格子間の微小なスロット領域内に入射光を閉じ込めて共振させることができます。さらにこのスロット内に有機電気光学材料を埋め込み、シリコン格子を電極としても用いることで外部電圧を印加できます。有機電気光学材料に電界がかかると屈折率が変化するため、反射光及び透過光の強度が変調されます。つまり、シリコン格子に施された凹凸形状によって有機電気光学材料内に光が局在化し、相互作用が増強される結果、小さな電圧でも反射率を大きく変化させることができます(相馬、種村、特願2025-041949)。

図1:アクティブメタサーフェスの顕微鏡像と模式図
電圧を変えながら測定した反射率スペクトルを図2に示します。外部電圧をかけることで、反射率スペクトルが大きく変化することが確認できます。過去に報告された高速なアクティブメタサーフェスと比較すると、今回の素子は大きな反射率変調量と一桁近く小さな変調電圧を達成しています。さらに、高速動作と高密度集積を目指して小型化したアクティブメタサーフェスの結果を図3に示します。分布ブラッグ反射器(注6)を共振器の両側に集積することで、特性を維持したまま共振器のサイズを10 µm角にまで小型化することができ、わずか1 Vの駆動電圧で毎秒1.6ギガビットの高速なデータ変調に成功しました。

図2:印加電圧に対する反射率スペクトルの変化(左)と先行研究との比較(右)
変調電圧は共振波長を半値全幅分シフトさせるのに必要な電圧として定義。

図3:小型化したアクティブメタサーフェスの電子顕微鏡像(左)と
1 V の電気信号を印加したときの反射光のアイパターン(右)
今回実証したアクティブメタサーフェスは低電圧で動作できるため、従来は不可能だったCMOS回路での直接駆動が可能になります。また将来的には、2次元アレイ状に並べることで、並列化した大容量光送信器や高速なビーム制御デバイスへ機能を拡張でき、次世代の光通信をはじめ、イメージングや光コンピューティングなど、幅広い分野への応用が期待されます。
〇関連情報:
「プレスリリース①光学メタサーフェスを用いた空間・偏波ビーム多重器を実証 ―任意の直交ベクトルモード基底の変換を実現―」(2025/8/26)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-08-26-001
「プレスリリース②光学メタサーフェスを用いた小型高速光受信器を開発 ―波長以下の微細構造で光の偏波成分を分離して受信―」(2023/5/17)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2023-05-17-003
「プレスリリース③垂直入射型コヒーレント光受信器を開発 ―Beyond 5G用の超高速・超小型光トランシーバ実現に期待―」(2022/8/24)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-08-24-001
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
相馬 豪 博士課程
蟻生 高人 博士課程
唐木田 晴大 修士課程
鍔井 雄介 修士課程
種村 拓夫 教授
論文情報
雑誌名:Nature Nanotechnology
題 名:Subvolt high-speed free-space modulator with electro-optic metasurface
著者名:Go Soma*, Koto Ariu, Seidai Karakida, Yusuke Tsubai, and Takuo Tanemura*
DOI:10.1038/s41565-025-02000-4
URL:https://www.nature.com/articles/s41565-025-02000-4
研究助成
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP23H05444、JP24KJ0557)の支援を受けて実施されました。
用語解説
(注1)光学メタサーフェス
波長よりも細かい構造体を平面上に高密度に配置することで、垂直に入射された光を変換する素子。周期的な構造を用いることで、共振器としての動作も実現できる。
(注2)有機電気光学材料
電気光学効果(ポッケルス効果)を有する有機材料。他の電気光学材料と比べて、大きな電気光学効果を有する。本研究では、米国NLM Photonics社製のJRD1を用いた。
(注3)CMOS
相補型金属酸化膜半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の略。パソコンやスマートフォン、カメラなどさまざまな電子機器に利用される。
(注4)自由空間光通信
光(通常はレーザー光)を用いて自由空間を媒体として通信する技術。宇宙光通信も含まれる。
(注5)ニオブ酸リチウム
化学式はLiNbO3。電気光学効果を有する結晶材料。高速な導波路型変調器用の材料として広く用いられる。
(注6)分布ブラッグ反射器
屈折率の異なる二つの領域を交互に並べた構造を有し、特定の波長の光を反射することができる。レーザーや波長フィルター、センサなどによく用いられる。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Nanotechnology:https://www.nature.com/articles/s41565-025-02000-4
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