プレスリリース

次世代X-nics半導体創生拠点形成事業に採択されました-「Agile-X~革新的半導体技術の民主化拠点」が始動-

 

1.発表者
黒田 忠広(東京大学 大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター(d.lab)教授/センター長・Agile-X拠点長)

池田     誠(東京大学 大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター 教授/d.lab基盤設計研究部門長・Agile-X副拠点長)

三田 吉郎(東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 准教授/d.lab基盤デバイス研究部門長)

 

2.発表のポイント
◆文部科学省の委託事業として今年度より令和13年度までの足かけ10年間実施される次世代X-nics半導体創生拠点形成事業に3拠点が採択されました。
◆東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター(d.lab)の提案「Agile(あじゃいる)-X ~革新的半導体技術の民主化拠点」が採択されました。
◆半導体集積回路が「特別な」ものから「誰にでも容易に実現できる」ようにすることを半導体技術の民主化と呼び、世界にLSIの民主化をもたらすことを目標とします。

 

3.発表概要

文部科学省は、「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」を開始しました。カーボンニュートラル2050やデジタル社会の実現、経済安全保障の確保に向けて重要な役割を果たす革新的半導体集積回路の創生を目的とし、我が国の強みを活かした研究開発及び人材育成の中核的なアカデミア拠点形成を行う事業です。その1つの拠点として、東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター (d.lab)の提案「Agile-X ~革新的半導体技術の民主化拠点(以下、本拠点)」が採択されました。
本拠点は、2022年度から31年度までの足かけ10年間で、世界にLSI(注1)の民主化をもたらすことを目標とします。多様なアプリケーションに最適な半導体チップを迅速に活用しイノベーションを興すことが、新しく強い産業の創成と発展につながります。そのためには、半導体集積回路が「特別な」ものから「誰にでも容易に実現できる」ようにすることが必要です。これを半導体技術の民主化と呼びます。民主化を実現する基幹技術(Agile技術)を整備し、プラットフォームとして研究に展開し、研究成果・産業への波及効果・高度人材の育成を狙います。

 

4.発表内容

本拠点の目指すべき未来社会は、DX(注2)を活用する中で、個の自由と多様性が尊重され、カーボンニュートラルでインクルーシブな世界です。その実現の鍵は、低電力でグリーンな最先端の半導体(LSI)が様々な用途に最適化され、どこでも誰でも素早く導入できることです。図1に示されるような、以下の目標を掲げます。

 

1.LSI開発におけるアイデアから試作に至る時間を現状の1/10に短縮し、
2.試作に要するコストを1/10に削減します。ソフトウェアや人工知能開発と同様に、Updatableな開発環境を実現し、微細化を前提としたLSI開発と比較して格段に短時間でLSIの性能を飛躍的に向上させる革新的LSI開発を実現します。
3.これにより、LSI設計活用のハードルを下げ、世界中の研究者や関連企業を呼び込み、LSIの設計ができるデジタル半導体人口を10倍に増加します。
4.LSIレポジトリ(注3)により、設計の共有、再利用を加速します。

 

構想実現のために、目白台キャンパスの設計自動化拠点、東京大学武田先端知ビル(注4)の大型テスタ・設計試作評価環境、武田先端知ビルスーパークリーンルーム、ならびに、大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)(注5)を通じ過去四半世紀に培ったLSI設計試作の全国ネットワークならびにおよび国内外メーカーとの協力体制を強化し、新たな切り口で最大限に活用します。

拠点では、東京大学大学院工学系研究科附属システムデザイン研究センター (d.lab)および関連専攻・研究所の研究者を結集し、TSMC(注6)との戦略的提携、RaaS(注7)による産学連携等の枠組み、さらにVDEC活動でのアカデミック全国ネットワークおよび国内外メーカーとの協力体制を活かして、革新的設計・試作効率化技術(Agile技術)に関する研究開発を行います。Agile技術を共通プラットフォームとして、IoTAI、通信等の各分野に関する革新的技術とAgile技術との掛け合わせによる各分野の新展開に資する研究開発を推進します。研究成果を通じて半導体の需要を喚起し、国内に建設される新工場を日本のデジタル産業の強化に資することを目指します。同時に、我が国の半導体産業基盤強化のために、「ハードとソフトを高度に融合してイノベーションを創出できる人材」「システムから回路・デバイスまでを一気通貫で見通せる人材」の育成を目指します。九州地区の大学等との連携を通じ、拠点における人材育成の取り組みの横展開を積極的に推進します。

 

5.発表資料
文部科学省発表資料:
https://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/mext_00208.html
末松文部科学大臣記者会見:
https://www.youtube.com/watch?v=xzro-MDAaN4 (3:36あたりから)

 

6.用語解説

1: LSI (Large Scale Integration)

大規模集積回路。Jack KilbyRobert Noyceらの先駆者によって成立した半導体材料を用いた集積回路。「産業のコメ」とも呼ばれた。ありとあらゆる分野の制御・センサ・情報処理システムの中核を構成する基幹部品。

2: DX (Digital Transformation)

情報科学とデータによる新しい価値の創造活動一般をさす。人工知能による大規模データからの情報抽出やその活用を含む。

3: LSIレポジトリ

ソフトウェア分野における共同開発のための仕組み(共有サーバ)に着想を得て、集積回路設計にも同様の機能を実現する、本Agile-X拠点の出口の一つとしての試み。

4: 東京大学武田先端知ビル

「経済活動で得た富を生活者のための研究へ還元し、より豊かな社会を創りたい」という主旨により、東大工学部およびVDECに対し、武田郁夫氏(現株式会社アドバンテスト創業者)個人による寄付で200312月に竣工した寄付建物。350名収容の5F武田ホール、関連研究室、大型テスタ、大型LSIエミュレータ、全国公開サーバ等のLSI設計試作評価環境ならびに、地下3階部分に連邦規格クラス1を含む600平米のスーパークリーンルームを備える。

5: VDEC (東京大学大規模集積システム設計教育研究センター)

日本における集積回路の設計試作評価機能実現のために1996年に全国共同利用施設として東京大学に設置された部局。米国におけるMOSIS、フランス共和国におけるCMPと同等の機能を持ち、全国の研究者によりネットワークを形成して活動した。201910d.labに発展的に合流し、基盤2部門(基盤設計研究部門、基盤デバイス研究部門)を構成している。

6: TSMC

Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limitedの略称。最先端世代の集積回路を試作でき、かつ世界最大の半導体集積回路請負試作メーカー(ファウンドリ)。東京大学とは2019年に先進半導体アライアンスを結成した。

アライアンスのURL: https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0801_00004.html

7: RaaS (URL: https://raas-cip.org/)

先端システム技術研究組合。最先端の半導体技術を会員が誰でも活用できるようにサービスとして提供する仕組み。


7.添付資料
fig1
図1:拠点の目指す10年後の半導体研究の姿


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