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工学部/工学系研究科 プレスリリース

世界最軽量・最薄の皮膚貼り付け電極で、1週間の心電計測に成功~高耐久性のナノシートで皮膚への負担を低減~

 

1.発表者
横田 知之(東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 准教授)
李  成薫(東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 講師)

2.発表のポイント
◆世界最軽量・最薄の皮膚貼り付け電極を開発し、皮膚に1週間電極を貼り付けて高精度に心電図を計測することに成功した。
◆皮膚貼り付け電極は、極薄性(100ナノメートル以下)、高耐久性、高粘着性、通気性をすべて兼ね備えた伸縮性ナノシート上に作製された。皮膚炎症の原因となりやすい粘着剤を用いずに皮膚に貼りつけるため、皮膚への負担を格段に低減できた。
◆日常生活の自然な活動における健康状態の長期間計測が可能であり、今後、医療・ヘルスケア分野において、病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスへの応用が期待される。

3.発表概要
東京大学大学院工学系研究科の王燕特任研究員、李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授らを中心とした研究チームは、世界最薄・最軽量の皮膚貼り付け電極によって、高精度に心電図を1週間計測することに成功しました。この皮膚貼り付け電極は、超薄型でありながら、高耐久性と高粘着性、通気性を兼ね備える伸縮性ナノシートの上に作製されます。ナノシートは、糊や粘着性ゲルなどの粘着剤を用いずに皮膚に貼り付けることができるため、装着した際の皮膚への負荷を格段に低減できます。非常に薄いジメチルポリシロキサン(注1)を数層のポリウレタンナノファイバー(注2)で強化することで、優れた機械的な耐久性を実現しており、皮膚の伸縮や日常生活におけるこすりなどに対して高い耐摩耗性を有します。実際、日常生活の自然な活動における健康状態を長期間計測することができるようになり、今後、医療・ヘルスケア分野において、病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスとして応用が期待されます。
本研究成果は、2021年9月13日(米国時間)に米国科学誌「アメリカ科学アカデミー紀要」のオンライン版で公開されました。

 

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。
JST 未来社会創造事業 探索加速型(本格研究ACCEL型)
研究開発課題: 「スーパーバイオイメージャーの開発(JPMJMI17F1)」
研究代表者 : 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
プログラムマネージャー : 松葉 頼重(科学技術振興機構)
研究期間  : 2017年7月~2022年3月

 

4.発表内容
近年、ウェアラブルデバイスのような新技術による生体情報の取得とその活用への期待が高まっています。特に、皮膚に密着することでより高精度な生体信号を計測できるため、軽量で伸縮性の高い薄膜フィルムやゴムシートを用いた電子機器が盛んに開発されてきました。さらに、デバイスを薄膜化すると、装着時の負荷を減らすことができると同時に、ガス透過性が増加するため、長期間の使用において、汗が溜まることなどによる皮膚の炎症やかぶれを防止できるようになります。しかし、超薄型でありながら伸縮性と機械的耐久性を両立することは困難であるため、皮膚に長期間貼り付けて心電を計測できるナノ寸法厚みの電極はこれまでにありませんでした。
本研究グループは、世界最薄・最軽量の皮膚貼り付け電極を開発し、高精度で心電図を1週間計測することに成功しました。この皮膚貼り付け電極は、極薄性、高耐久性、高粘着性、通気性をすべて兼ね備えた伸縮性ナノシートの上に作製されます。非常に薄く(100ナノメートル以下)、高い水蒸気透過性を有します(1日当たり、14.6kg/m2)。そのために皮膚に貼り付けても本来の皮膚呼吸が可能であり、汗による炎症反応やむれを起こしません。また、糊や粘着性ゲルなどの粘着剤を用いずにシートのファンデルワールス力(注3)だけで皮膚に貼り付けることができるため、装着した際の皮膚への負荷を格段に低減できます。さらに、ナノシートは、非常に薄いジメチルポリシロキサンを電界紡糸法(注4)にて形成した数層のポリウレタンナノファイバーで強化することで、優れた機械特性を実現しております。ナノシート自身の重さの7万9千倍以上の重さの液体を支えることができることや繰り返し伸縮(40%、千回)における機械特性の変化を3%以下にまで低減されていることを確かめました(初期のヤング率(注5):13.7MPa、伸縮後:14.1MPa)。
さらに、ナノシートの上に薄膜金を形成することで、装着時の負担を低減しつつ、長期にわたって生体情報を取得できる皮膚貼り付け電極を実現できます。従来のゲル電極は、1日以上貼り続けると乾燥してしまい、貼り付けた直後と同等の信号を計測することができませんでした。一方で、今回開発した電極はドライ電極であり、皮膚の伸縮や日常生活におけるこすりなどに対して高い機械耐久性を有するため、長期間皮膚に貼りつけて生体情報を取得することが可能です。実際、貼り付けた直後と1週間後共にゲル電極と同等の信号を計測できることが確認できました(貼り付け直後と1週間後の雑音レベル共に10マイクロボルト以下)。本研究成果により、日常生活の自然な活動における健康状態を長期間計測することが可能となり、今後、医療・ヘルスケア分野において、病気や体調不良を早期発見するためのウェアラブルデバイスとしての応用が期待されます。

 

5.発表雑誌:
雑誌名:「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(9月13日、オンライン版に掲載されました)
論文タイトル: Robust, self-adhesive, reinforced polymeric nanofilms enabling gas permeable dry electrodes for long-term application. PNAS (2021).
著者:Yan Wang, Sunghoon Lee, Haoyang Wang, Zhi Jiang, Yasutoshi Jimbo, Chunya Wang, Binghao Wang, Jae Joon Kim, Mari Koizumi, Tomoyuki Yokota, and Takao Someya*

 

6.用語解説:
(注1)ポリウレタンナノファイバー
ゴムのような弾力を持つポリウレタンをナノメートル(10億分の1メートル)寸法の繊維にしたもの。後述する電界紡糸法にて形成される。
(注2)ジメチルポリシロキサン
シリコーンゴムの一種。ポリウレタンより柔らかく、伸縮時における応力を緩和することができる。
(注3)ファンデルワールス力
電気的に中性の分子間に作用する力。ナノシートと皮膚は、化学的な結合を形成せず、物理的な引力のみで密着する。
(注4)電界紡糸法(エレクトロスピニング法)
溶解した材料から紡糸する手法。細く尖ったノズルに高電圧をかけて液状の材料を噴出させることによって、直径がナノ寸法のファイバーを作ることができる。
(注5)ヤング率
弾性体に応力を印加した際の応力とひずみの関係であり、材料の柔らかさ(変形しやすさ)を示す。

7.添付資料:
図1 皮膚に貼り付けた伸縮性ナノシート(左)と拡大図(右)。ポリウレタンナノファイバーによってジメチルポリシロキサン(シリコーンゴム)を補強している。

図2 皮膚に貼り付けた伸縮性ナノシート(左)と拡大図(右)。


プレスリリース本文:PDFファイル

PNAS:https://www.pnas.org/content/118/38/e2111904118

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP617186_S1A900C2000000/

ニュースイッチ:https://newswitch.jp/p/28708