工学部広報室の学生TA Ttime! が工学部 航空宇宙工学科の卒業設計について、指導教員と学生にインタビュー。
航空宇宙工学科の「推進学計画及製図」(通称、卒業設計)は、エンジンの計画立案・設計・製図を通して、座学で学んだ様々な知識を統合し、一つのシステムを作り上げる″楽しさ″と″難しさ″を体験します。※引用:航空宇宙工学科 航空宇宙推進学コース
学生は「航空機」、「宇宙機」、「推進機」の中から設計対象を選択します。推進機を選んだ場合は、「レシプロエンジン(プロペラ機に用いられるエンジン)」、「ジェットエンジン」、「ロケットエンジン」のいずれかを選び、設計に取り組みます。※参考:航空宇宙工学科のカリキュラム概要(PDF)
今回は指導教員である非常勤講師の大山 亜希彦先生と、「ジェットエンジン」を選択された川口 聡介さん(姫野研究室)・浅野間 遼輔さん(津江研究室)にお話を伺いました。先生からは実習を通して生徒に学んでほしいこと、学生からは実習を通して学べたことを中心に、たっぷりお話を伺いました。
最後には航空宇宙工学科を目指す方へのメッセージもいただいております。ぜひご覧ください!
教員インタビュー
大山 亜希彦先生
――本日は、よろしくおねがいします。まずは自己紹介をお願いします!
日本航空機エンジン協会(株式会社IHIより出向)の大山と申します。普段はエアバスA320という飛行機に使われるエンジン(PW1100G-JMとV2500)のプログラムマネジメントを行っています。
今年から外部講師としてこの卒業設計を担当することになりました。
――卒業設計の概要をお聞かせください。
卒業設計は4年生の12月〜2月にかけて行います。まずはそのための布石として、3年生のAセメスターから4年生のSセメスターで座学※に取り組みます。一般的な性能設計、各エンジンの構成要素・機能などを学び、それを活かして、エンジン全体の図面を描いてみる実習がこの卒業設計です。
学生は宇宙機設計(ロケットエンジン)、航空機設計(ジェットエンジン・レシプロエンジン)から一つ選択します。私は航空機設計のジェットエンジンについて指導を担当しています。
※編集者注:座学の単位名は「航空機設計法第一・第二」

――この卒業制作で特に難しいポイントはどこでしょうか?
まず、設計をする前に、新規性があるか、実現性があるか、ということも念頭に置いてコンセプトを決めてもらっています。これまでのエンジンにはないメリットを示してもらうんですが、実現していないからには何かしら制約があるはずなので、それを解決するのに苦労しますね。
――民間エンジンの設計・開発の知見をお持ちの大山先生だからこそ教えられることですね!
そうですね(笑)。サイクルの計算など一般的なエンジンの知識は大学の先生に教えてもらっていると思うので、教科書に出てこないエンジンの面白さを伝えることは心掛けていました。例えば、民間機のエンジンの場合、新規のアイデアをなんでも盛り込んでいいわけではなくて、FAA※が要求する安全性に見合う設計をしなければ実現性がありません。講義ではそうした実践的なことも含めて、私の知識を出来るだけ伝えようとしています。
※編集者注:米国連邦航空局(Federal Aviation Administration)のこと。
FAAは米国運輸省の下部組織で、航空機製造などの承認を行っている。日本をはじめ多くの国では民間旅客機が安全に飛行可能かを認証する際、各国の航空局が定めた基準に従い認証を行っている。民間旅客機に関しては、海外主要メーカーの拠点である米国あるいは欧州で認証を得て、その後、各国の認証を得ることになる。なお、ジェットエンジンに関しては、米国連邦航空局(FAA)と欧州の認証機関である欧州航空安全機関(EASA)で規定される内容の多くは共通化されており、これら規定に基づいてエンジン型式承認が得られるかが重要となる。
――なるほど、そのような側面があるんですね。ほかに難しいポイントはありますか?
次に難しいのは、どのように自分のアイデアを二次元の図面に描くのか、だったり、どのようにすれば組み立てられるかを考えて全体図面として仕上げてもらうことです。ほとんどの学生さんは空港でしかジェットエンジンを見たことが無いと思います。実際の中身がどうなっているかを勉強し、理論計算だけでなく各部品の役割や組み立て方などを学ぶ必要があるんですね。
そこで、ジェットエンジンでは株式会社IHIの事業所を訪問して、実際のハードウェアを見学する機会を用意しています。「エンジンってこのように組み立てているんだ」ということが分かると、自分のアイデアを腹に落とした上で図面を描けるようになります。学生さんの成長を感じる瞬間ですね。

――とても勉強になりそうですね。そんな苦労を乗り越えた学生の皆さんになにかメッセージをお願いします!
まずはお疲れさまでした。講義は長丁場でしたが、私たち教員の意見を設計に落とし込もうとする姿には感服しました。航空機エンジンは工業部品としては一人で描くのが難しいほど大きいものです。しかし、それを一人でやり遂げたことは思い出にもなるし、糧にもなると思うので、ぜひ今後の人生に活かしてください。
将来は出来れば航空業界のエンジンメーカーで、今回の卒業設計の経験を活かして航空業界を担う人に育ってくれれば本望です。
――最後に駒場生や高校生へのメッセージをお願いします!
航空産業って夢があると思うんです。飛行場に行けば楽しい顔で旅に出る人々がいて、安全に飛行機を飛ばすためにいろいろな方が活躍しています。航空学科ではモノづくりをメインに航空産業を支えている自負を持っています。空への夢を持つ方は、一緒に勉強してみませんか。
学生インタビュー

川口 聡介さん

浅野間 遼輔さん
――卒業設計お疲れさまでした。学生は3種類のエンジンから制作するものを選択するとお伺いしているのですが、なぜジェットエンジンを選択されたのでしょうか?
浅野間:一番大きな理由としては、全体図を一枚で表せるからです。レシプロエンジンは設計図を二枚に分けて描き、ロケットエンジンは部品図を描くため一部の部品にしか関わることができません。ジェットエンジンは全体の組み立てを考慮して一枚にまとめられるのがかっこいいと思って選択しました。
――確かに、これだけ大きいものを一人で設計するのは貴重な機会だと感じます。
川口さんはどのようなコンセプトにされたのでしょうか?
川口:ギヤードターボファンエンジンを設計しました。航空機のエンジンは前から空気の一部を吸い込んで圧縮して燃やすのですが、残りの空気は分岐させてそのまま後ろに流しています。その分岐させる空気の比率をバイパス比というんですけど、バイパス比を上げると燃費が向上します。従来のバイパス比は11〜12くらいなんですが、今回は20ぐらいまで引き上げました。しかし、ただバイパス比を上げるとファンが回転する速度が速すぎてしまい、かえって燃費が悪くなってしまいます。そこでファンの軸に減速機を導入することで、計算では25%くらい燃費を削減することができました。
――旅客機の燃費に着目されたのですね。
浅野間さんはどのようなコンセプトで設計されたのですか?
浅野間:マッハ1.8で飛ぶ超音速ビジネスジェット用の可変バイパス比エンジンです。超音速の設計では排気速度が高く騒音が課題になるため、地上付近を飛ぶ亜音速飛行時はバイパス比を大きくして排気速度を落とし、海の上など超音速飛行時は排気速度を速くしてバイパス比を小さくする可変バイパスエンジンを採用しました。

――最近話題の超音速旅客機ですね。
設計をやってみたからこそ学べたことはありますか?
浅野間:座学では部品の強度計算や空気の流れなど、理論的なことを学んできましたが、実際に設計をしてみて部品と部品の組み合わせや組み立てられるのか、といった実践的なことを考えることができるようになりました。
川口:私はジェットエンジンの知識が深まりました。また、これまでただ学問としてしか入っていなかったものが距離の近いものになったといいますか、将来航空宇宙分野に関わっていくなら必要になるような生の知識が得られたと思っています。
――とても勉強になったことが伝わってきました。
卒業設計で苦労した点はありますか?
川口:毎週教員に進捗を報告するのですが、そこで進捗を生んでいないと指摘もいただけません。しかし、今どのような課題があって次に何をしなければならないか、分からなくなってしまうこともあったので気が抜けませんでした。

――なるほど、ゼロから何かを生み出す経験は航空分野に限らず、今後の人生に活きそうですね。最後に、後輩に向けてメッセージをお願いします。
浅野間:航空宇宙学科に進学する人は、純粋に航空分野や宇宙分野にロマンを感じている方が多いと感じます。私も積み上げてきたものは特には無かったですが、憧れだけで入っても授業で吸収して学べる環境でした。みなさんもやってみたいという気持ち一つで飛び込んでみませんか。
川口:航空宇宙学科はなかなかハードな学科だと思います。卒業研究や卒業設計など、やらなければならないことが多く、ぶっちゃけつらいことも多いです(笑)。
ただ、やはり東京大学に来る人は、何かを学べたときに喜びを感じられるような人だと思うので、そういう人には、ぴったりの環境ではないでしょうか。
――本日はありがとうございました!


製図室で作業する航空宇宙工学科の学生 / 本記事の取材に際し多大なご協力をいただいた姫野教授
※このインタビューは工学部広報室学生TA Ttime!のメンバーによって企画編集されました。
取材・執筆:南方 貫吾(機械工学専攻修士2年)写真:Ttime!ほか
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