発表のポイント
◆ 常圧で超伝導を示す二層ニッケル酸化物薄膜に最大20 GPaの高圧を加え、超伝導転移温度が常圧の約40 Kから、16 GPaで最大73 Kまで上昇することを明らかにしました。
◆ 強磁場測定、高圧測定、希土類元素を置き換えた薄膜の比較により、結晶構造の変化に伴う電気伝導と超伝導転移温度との関係を明らかにし、常圧超伝導と高圧超伝導の関係を実験的に示しました。
◆ 本成果は、二層ニッケル酸化物に生じる高温超伝導の発現機構の理解を進めるとともに、結晶構造や電子状態の制御による新たな高温超伝導材料の設計につながることが期待されます。
研究成果のイメージ図:圧力印加による二層ニッケル酸化物の結晶構造変化がもたらす超伝導の増強
概要
東京大学大学院工学系研究科の長田 礎 助教、塚﨑 敦 教授、同大学の十倉 好紀 卓越教授(国際高等研究所東京カレッジ)、理化学研究所創発物性科学研究センターの寺倉 千恵子 上級技師、Jean-Baptiste Morée研究員、吉川 明子 上級技師、中島 正道 上級研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科の今城 周作 准教授、東北大学金属材料研究所のHsiao-Yi Chen助教、野村 悠祐 教授、東京大学物性研究所の金道 浩一 教授、同大学大学院理学系研究科の有田 亮太郎 教授らの研究グループは、常圧で超伝導を示す格子の歪んだ二層ニッケル酸化物薄膜(注1)を作製し、強磁場測定と高圧測定を通じて、その超伝導特性を調べました。
本研究では、常圧で約40 Kであった超伝導転移温度が、16 GPa(ギガパスカル、注2)で最大73 Kまで上昇することを明らかにしました。これにより、従来はそれぞれ独立に研究されてきた高圧超伝導と常圧超伝導を、同一の物質系の薄膜試料で初めて実現しました(図1)。本成果は、高温超伝導の発現機構の理解と、新たな高温超伝導材料の設計につながることが期待されます。
本研究成果は、科学雑誌『Nature Materials』オンライン版(8月18日付)に掲載されました。
図1:二層ニッケル酸化物の結晶構造と静水圧・エピタキシャル歪みの模式図
a. 二層ニッケル酸化物Ln3Ni2O7 (Ln:希土類元素)の結晶構造。二層ペロブスカイト層と岩塩構造層が交互に積層している。b. バルク試料への静水圧印加。静水圧下では結晶が各方向から圧縮されて、面内と面直の格子が縮む。c. エピタキシャル歪み。薄膜では、基板との格子定数の違いにより面内方向にエピタキシャル歪みが加わり、それに伴って面直方向の格子が伸長する。
発表内容
二層ニッケル酸化物は、ニッケルと酸素からなる二層ペロブスカイト層と希土類元素と酸素からなる岩塩構造層が積み重なった特徴的な結晶構造を持つ物質です(図1a)。2023年、バルク結晶に高圧を印加することで約80 Kに達する高温超伝導(図1b)が報告され、その後の2024年、基板との格子定数の違いを利用して面内に格子を圧縮した薄膜で、常圧下でも40 Kを超える超伝導が観測されました(図1c)。しかし、高圧下のバルク試料と常圧下の薄膜試料で現れる超伝導がどのように関係するのかは明らかではなく、両者を同じ試料で比較する研究の報告例はありませんでした。
本研究グループは、パルスレーザー堆積法(注3)とオゾン処理を用いて、常圧で超伝導を示す二層ニッケル酸化物La2LnNi2O7 (Lnは希土類元素)の薄膜を作製しました(図2a)。試料は基板からエピタキシャル歪み(注4)を受けており、面内方向の結晶格子が圧縮されて、常圧下で超伝導を示します。結晶格子と常圧の電気伝導特性をLn元素種の依存性で調べることで、超伝導転移温度が系統的に変化することを明らかにしました。また、59テスラ(注5)までの強磁場中測定を行うことで常圧の超伝導特性を明らかにしました。
つづいて、常圧で超伝導を示すLa2SmNi2O7およびLa2NdNi2O7 薄膜に、キュービックアンビル高圧装置(注6)を用いて、常圧から最大20 GPaまでの圧力印加による特性変化を系統的に調べました。その結果、常圧で約40 Kだった超伝導転移温度は、16 GPaでLa2SmNi2O7では67 K、La2NdNi2O7 では最大73 Kまで上昇し、高圧下のバルク試料で報告されている温度領域に近づきました(図2b, c)。こうした転移温度の系統的変化に加えて、特徴的な新たな転移を生じることの観測に初めて成功しました。
格子の歪んだ薄膜に圧力を印加することで、格子変形と超伝導特性の関係を明らかにしました。さらに、Ln元素種依存性における格子変形と常圧超伝導との関係を圧力効果の特性変化と比較することで、さまざまな知見を得られました。高い超伝導転移温度を実現するためには、結晶格子の大きさだけでなく、面内方向と面直方向の格子サイズ比や、それに伴う電子状態を最適に調整することが重要であると示唆されます。本研究は、これまで別々に研究されてきた常圧超伝導と高圧超伝導の関係を、同一の薄膜試料を用いて初めて実験的に示したものであり、高温超伝導の発現機構の理解や新たな材料設計につながる成果です。

図2:二層ニッケル酸化物薄膜の常圧下・高圧下における超伝導特性
a. La2SmNi2O7 薄膜の常圧における超伝導転移。b. 高圧下における規格化した電気抵抗率の温度依存性。高圧下では二段階の抵抗低下が観測され、圧力とともに高温側の超伝導転移温度が上昇する。c. 超伝導転移温度の圧力依存性 [Ref.1. Nature 634, 579–584 (2024)]。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院工学系研究科
長田 礎 助教
塚﨑 敦 教授
兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター チームディレクター
兼:東北大学 金属材料研究所 教授
国際高等研究所東京カレッジ
十倉 好紀 卓越教授
兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター グループディレクター
大学院新領域創成科学研究科
今城 周作 准教授
物性研究所
金道 浩一 教授
大学院理学系研究科
有田 亮太郎 教授
兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター チームディレクター
理化学研究所 創発物性科学研究センター
寺倉 千恵子 上級技師
Jean-Baptiste Morée 研究員
吉川 明子 上級技師
中島 正道 上級研究員
東北大学 金属材料研究所
Hsiao-Yi Chen 助教
野村 悠祐 教授
兼:東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 主任研究者
論文情報
雑誌名:Nature Materials
題 名:Bridging ambient- and high-pressure superconductivity in La2LnNi2O7 films
著者名:Motoki Osada, Chieko Terakura, Shusaku Imajo, Jean-Baptiste Morée, Akiko Kikkawa, Masamichi Nakajima, Hsiao-Yi Chen, Yusuke Nomura, Koichi Kindo, Ryotaro Arita, Yoshinori Tokura, Atsushi Tsukazaki
DOI: 10.1038/s41563-026-02695-3
URL:https://doi.org/10.1038/s41563-026-02695-3
研究助成
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:JP23K13663、JP23H04869、JP23K03307、JP24H00190、JP25K00015、JP25H01506、JP25H01246、JP25H01250、JP25H01252)、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(東北大学)(課題番号:JPMXP1224TU0193)、住友財団基礎科学研究助成、豊田理化学研究所豊田理研スカラー、大倉和親記念財団研究助成、理化学研究所TRIP initiative、東京大学物性研究所共同利用(課題番号:202505-HMBXX-0084)、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム(課題番号:JPMXP1020230411)の支援により実施されました。
用語解説
(注1)二層ニッケル酸化物
二層ペロブスカイト層と、岩塩構造層が交互に積層した酸化物。本研究では、La2LnNi2O7 (Lnは希土類元素)の薄膜試料を対象としました。
(注2)ギガパスカル(GPa)
圧力の単位で、1 GPaは約1万気圧に相当します。本研究の16 GPaは約16万気圧、20 GPaは約20万気圧に相当します。
(注3)パルスレーザー堆積法
原料となる固体ターゲットにパルスレーザーを照射し、放出された原子やイオンなどを基板上に堆積させて薄膜を作製する手法です。複雑な組成を持つ酸化物薄膜の作製に広く用いられます。
(注4)エピタキシャル歪み
薄膜と基板の格子定数の違いによって、薄膜の結晶格子に生じる歪みです。基板を選ぶことで、薄膜の面内方向を圧縮または伸長できます。
(注5)テスラ
磁場の強さを表す単位です。59テスラは、一般的な医療用MRIで用いられる数テスラの磁場を大きく上回る強磁場です。
(注6)キュービックアンビル高圧装置
試料を上下・左右・前後の6方向から均等に押すことで、比較的均一な高圧を発生させることができる装置です。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Materials:https://doi.org/10.1038/s41563-026-02695-3
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