単分子の厚みしかない超極薄ポリマー膜形成反応の開発 ―電極・分子間の強い相互作用による自己停止型重合反応―

2026/05/30

発表のポイント

自発的に停止する電解重合反応により、単分子レベルの超極薄ポリマーフィルムが得られることを見いだしました。
普段重合が起こらないと考えられるほど低い電圧領域で発生する重合反応の機構を詳細に明らかにしました。
電池の性能を左右すると言われる電極表面上のSEIsolid electrolyte interphase被膜の形成メカニズム解明への寄与が期待されます。

 

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分子―電極間相互作用によって自発的に終了する重合反応のメカニズム

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の伊藤 喜光 准教授、横山 裕大 大学院生らの研究グループは、科学技術振興機構の小林 柚子 さきがけ専任研究者(兼:理化学研究所 特別研究員)、理化学研究所の横田 泰之 専任研究員、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所の安藤 康伸 准教授との共同研究で、厚みが単分子程度の超極薄のポリマー薄膜を合成する新しい手法を見いだしました。固体表面においては、意図せず勝手に進行する重合反応(注1)が古くから知られています。これは、例えば電池の性能に重要な影響を及ぼすことが知られているものの実態が明確ではない薄膜(SEIsolid electrolyte interphase被膜(注2))の形成をはじめとした多くの材料物性に関わる重要な反応ですが、その詳細なメカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。本研究では、電極とモノマー分子との強い相互作用をデザインすることによって、通常は反応が起こらないと考えられている低い電圧条件においても重合反応が電極表面上においてのみ進行し、厚さが単分子レベルの超極薄ポリマー膜が形成されることを見いだしました。また、その詳細な反応メカニズムを明らかにしました。この反応は、近年注目を集めている2次元ポリマー(注3)の合成や、SEI被膜の改良による電池の高性能化にとどまらず、接着剤やコーティングといった固体表面における重合反応が関わるあらゆる現象に対して新たな理解と開発指針を与えることが期待されます。

 

発表内容

固体表面において生じる重合反応は、電池の性能を左右すると言われているSEI被膜の形成やコーティング材料、さらには接着剤など多くの場面で利用されている重要なプロセスです。このような反応で形成される薄膜は、材料機能に対して極めて大きな影響を与える存在であることが近年明らかになってきました。その重要性が指摘されている一方で、これらの薄膜は材料表面においてのみ自発的に形成されることも多く、構造や形成メカニズムはほとんど明らかとなっていませんでした。

本研究では、固体表面と分子間に強い相互作用がある場合に分子の反応性が大きく向上することで、電極に直接触れている分子のみが重合反応を起こし、単分子厚のポリマー薄膜ができたのちに自発的に重合が停止することを初めて見出しました。金属の電解メッキにおいて、金属表面と異種金属イオンとの相互作用を利用して単原子層の金属メッキを得る手法(アンダーポテンシャル析出、UPD)が知られていますが、同様の現象がポリマー薄膜形成に適応できることを初めて実証したものになります(本反応:アンダーポテンシャル電解重合、UPEP)(図1)。


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1:アンダーポテンシャル電解重合(本研究、UPEP)とアンダーポテンシャル析出(過去の研究)の比較

 

理論計算の結果、金電極を用いた場合にチオフェン類およびピロール(注4)が電極表面上で十分活性化されることを見いだしました。実際に電気化学実験を行うと、従来反応が起こると考えられている電位よりもはるかに低い電位で、重合反応が進行しました。また、この重合反応が単分子層程度のポリマー堆積後に自動的に停止することも明らかになりました。一方で炭素電極や白金電極では、同じ分子であっても同様の反応性は見られませんでした。

本研究により、分子・固体表面間の相互作用が固体表面上での重合反応の進行に大きく関わっていることが明らかとなりました。このような相互作用に着目することで、蓄電池性能の鍵を握ると言われるSEI被膜や接着剤の高機能化に対して新たな切り口からの材料設計が可能となることが期待されます。また、船舶等の海洋インフラへのフジツボの吸着は運航コストの増大やさまざまな機器のトラブルを引き起こす原因となっていますが、これも材料表面における重合反応がきっかけとなって引き起こされます。このような問題に対しても、重合を防ぐような新たな材料設計指針を提供できる可能性があります。さらには、本重合手法では単分子層程度の厚さのポリマーが選択的に合成できることから、グラフェン(注5)のような特異な物性から注目を集める2次元ポリマーなどの材料合成への応用も期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科

 伊藤 喜光 准教授

  兼:科学技術振興機構 さきがけ研究者(研究当時)

  兼:ストラスブール大学 USIASフェロー

 横山 裕大 博士課程/日本学術振興会特別研究員

 

科学技術振興機構

 小林 柚子 さきがけ専任研究者

  兼:理化学研究所 特別研究員

 

理化学研究所 開拓研究所

 横田 泰之 専任研究員

 

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

 安藤 康伸 教授

 

論文情報

雑誌名:Journal of the American Chemical Society

題 名:Realization of self-terminating underpotential electropolymerization by strong supramolecular monomer-electrode interaction

著者名:Yudai Yokoyama, Yuzu Kobayashi, Yasuyuki Yokota, Yasunobu Ando, and Yoshimitsu Itoh*

DOI10.1021/jacs.6c03733

URLhttps://doi.org/10.1021/jacs.6c03733

 

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電場による非平衡反応場を利用した合成化学」(課題番号:JPMJPR21Q1)および「未来電極材料の実現に向けた多機能電気化学ナノプローブの開発」(課題番号:JPMJPR23Q4)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」(課題番号:JPMJSP2108)、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究B(課題番号:JP25K01826)の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)重合反応

小分子(モノマー)を連結し大きな分子(ポリマー)を合成する反応。

 

(注2)SEIsolid electrolyte interphase)被膜

電気化学反応において電極表面に生じる被膜。反応におけるイオンや電子輸送の場として働くことで、電池の性能に大きく影響することが知られている。

 

(注3)2次元ポリマー

通常のポリマーは直鎖状に伸びる構造を持つことが多いのに対し、2次元方向に伸びるポリマー。従来のポリマーにはない物性を持つことで知られている。


(注4)チオフェン類およびピロール

どちらも、電気を通すことができる高分子材料の原料として用いられる分子。


(注5)グラフェン

炭素原子のみからなる単層材料。その2次元的な形状に由来する、特異的な光・電気的物性を持つことが知られている。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Journal of the American Chemical Society:https://doi.org/10.1021/jacs.6c03733