発表のポイント
◆ 組成傾斜AlGaN耐圧維持層やAlN/AlGaN超格子電流拡散層を有する超低損失なAlN系ショットキーバリアダイオード(SBD)の動作実証に成功しました。
◆ 作製した素子は、分布型分極ドーピング(DPD)により不純物添加無しで高電子密度が誘起されていることが確認され、AlN系デバイスの中で世界最小であるオン抵抗0.34 mΩcm2および逆方向耐圧400 V(最大破壊電界8 MV/cm)を示しました。
◆ 窒化物半導体の混晶・ヘテロ接合技術を活用することでAlN系パワーデバイスを劇的に低損失化できることを示した結果であり、本成果はAlN系デバイスの実用化および低炭素社会の実現に大きく貢献します。

DPDを活用した組成傾斜AlGaN耐圧維持層を有するAlN系SBDの電気的特性の測定の様子
概要
東京大学(所在地:東京都文京区、総長:藤井 輝夫、以下、東京大学)大学院工学系研究科電気系工学専攻の佐々木 一晴 大学院生、前田 拓也 講師、NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下、NTT)は、超低損失なAlN系(注1)ショットキーバリアダイオード(SBD)(注2)の試作実証に成功しました。本研究では、分布型分極ドーピング(DPD)(注3)を活用した組成傾斜AlGaN耐圧維持層、ヘテロ界面の抵抗を低減するAlGaN中間層、AlN/AlGaN超格子(注4)による電流拡散層を有するAlN系SBDを作製しました。作製した素子は、AlN系デバイスの中で世界最小のオン抵抗0.34 mΩcm2を示し、逆方向耐圧は400 V(最大破壊電界8 MV/cm)を示しました。これらは、Siの理論限界を大きく凌駕し、SiC、GaNの理論限界に肉薄するものであり、極めてインパクトが大きい結果です。本研究成果は、AlN系パワーデバイスの性能向上・実用化に向けた大きな一歩であり、AlN系パワーデバイス実現による省エネルギー社会の実現に大きく貢献すると考えられます。
発表内容
<背景と課題>
窒化アルミニウム(AlN)は6.0 eVと極めて大きなバンドギャップエネルギーを持つウルトラワイドギャップ半導体であり、絶縁破壊電界が非常に大きいと予想されています。そのため、AlN系パワー半導体デバイスの実用化は、例えば電気自動車のモーター駆動・充電に伴う電気の交流/直流変換や周波数変換といった電力変換の損失を大きく低減することができ、低炭素社会の実現に大きく貢献します。これまで、東京大学とNTTは、高品質なAlN結晶成長技術の確立とオーミック接触形成の工夫により、AlN系SBDの電流輸送機構の解明およびショットキー界面物性の精密評価に成功しています(関連情報①)。一方で、AlN中のSiのドナー準位が深く、室温で十分な電子密度が得られないため、オン抵抗が大きくなってしまう問題がありました。
<成果の内容>
AlNは、同じ結晶構造・近い格子定数を持つGaNやInNと混晶・ヘテロ接合を形成することが容易であり、バンドギャップや分極を自在に変調することができます。混晶AlGaNにおける組成を徐々に変化させることで、分極電荷を空間的に分布させ、それに応じてキャリアを誘起することができる「分布型分極ドーピング(DPD)」は、AlN系デバイスを作製する上で不可欠の技術と言えます。この度、東京大学とNTTは、この組成傾斜AlGaNを700 nmと比較的厚膜に成長させ、パワーデバイスの耐圧維持層として用いることを検討しました。図1(左図)に本研究で作製したAlN系SBDのデバイス構造を示します。東京大学がデバイス設計を行い、NTTがデバイス作製を行いました。図1(右図)に本研究で作製したAlN系SBDのエネルギーバンド図と電子分布の数値計算結果を示します。組成傾斜AlGaN耐圧維持層において、不純物添加せずに約1×1017 cm-3の電子密度が得られていることが分かります。
図1:(左図) 本研究で作製したAlN系SBDの断面図。高品質AlNバルク基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE)によって、AlN/AlGaN超格子電流拡散層、Si添加AlGaN中間層、組成傾斜AlGaN耐圧維持層を成長させました。その後、反応性イオンエッチングにより電流拡散層を露出させ、耐圧維持層上面にショットキー電極、電流拡散層上面にオーミック電極を形成しました。(右図) 本研究で作製したAlN系SBDにおけるエネルギーバンド図および電子分布の数値計算結果。
東京大学は、作製したAlN系SBDの基礎特性の測定・解析を行いました。図2(左図)に作製したAlN系SBDの順方向電流-電圧特性を示します。微分オン抵抗は0.34 mΩcm2を示しました。これは、これまで報告されているAlN系デバイスの中で最小の値です。また、抵抗成分の内訳を詳細に解析したところ、耐圧維持層が占める割合は3%程度であり、コンタクト抵抗などの寄生抵抗が支配的であることが分かりました。また、逆方向電流-電圧特性は、耐圧400 Vが得られ、その時の最大破壊電界は8 MV/cm程度とSiCやGaNの値を大きく上回る結果が得られました。図2(右図)に耐圧-オン抵抗のトレードオフ理論限界のベンチマークを示しています。本研究で作製した素子は、Siの理論限界を大きく凌駕し、SiCやGaNの理論限界に肉薄していることが分かります。今後、デバイス構造の工夫によってさらなる高耐圧化・低損失化が可能と考えられます。
図2:(左図)作製したAlN系SBDの順方向電流-電圧特性。
(右図)耐圧-オン抵抗のトレードオフ理論限界におけるベンチマークプロット。
これらの研究成果は、パワー半導体分野で最大規模の国際会議であるThe 38th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD 2026)に採択され、5月27日にLas Vegas(USA)で発表予定です。
<今後の展望>
本研究の成果をもとに、今後、AlN系パワーデバイスのさらなる性能向上に取り組みます。これらの研究は、高耐圧かつ超低損失なAlN系パワーデバイスの研究開発を加速させ、SiCやGaNの理論限界をも凌駕するパワー半導体を実現し、持続可能な省エネルギー社会の実現に貢献することが期待されます。
〇関連情報:
「プレスリリース①窒化アルミニウム系ショットキーバリアダイオードの電流輸送機構を解明 ―低炭素社会に寄与する新しいパワー半導体デバイスの実現に向け大きく前進―」(2024/12/10)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-12-10-001
「プレスリリース②新規窒化物半導体ヘテロ接合における電子散乱機構を解明 ―高周波GaNトランジスタの性能向上に道筋―」(2025/07/07)
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-07-07-001
発表者・研究者等情報
東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻
佐々木 一晴 修士課程
前田 拓也 講師
NTT物性科学基礎研究所
廣木 正伸 主任研究者
江端 一晃 主任研究者
平間 一行 グループリーダー
谷保 芳孝 上席特別研究員
学会情報
学会名:The 38th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD 2026)
題 名:Extremely Low On-Resistance in AlN-based Schottky Barrier Diodes with Distributed Polarization Doping Drift Layer
著者名:Issei Sasaki, Masanobu Hiroki, Kazuaki Ebata, Kazuyuki Hirama, Yoshitaka Taniyasu, Takuya Maeda
※8月にIEEE Xplore digital libraryよりProceedingsが出版予定
研究助成
本研究の一部は、公益財団法人東レ科学振興会2024年度研究助成および公益財団法人矢崎科学技術振興記念財団2024年度研究助成を受けて実施されました。
用語解説
(注1)窒化アルミニウム(AlN)系半導体
AlNはバンドギャップエネルギーが6.0 eVと極めて大きく、ウルトラワイドギャップ(Ultrawide bandgap, UWBG)半導体として注目を集めている。深紫外光デバイスとしての応用に加え、近年では、高い絶縁破壊電界を示すことからパワーデバイスや高周波デバイスとしての応用も期待されている。また、バンドギャップエネルギーが極めて大きいため、真性キャリア密度が桁違いに低く、高温動作可能な半導体デバイスとしての応用も期待されている。また、GaNやInNなどの窒化物半導体と混晶やヘテロ接合を形成することができるため、エネルギーバンド構造の変調や分極誘起ドーピングの活用が可能である。
(注2)ショットキーバリアダイオード(SBD)
金属と半導体により接合を形成した際、金属の仕事関数と半導体の電子親和力の差に応じて半導体側から金属側へ電子が拡散し、エネルギー障壁と内部電界を有する空乏領域が形成される。このような接合をショットキー接触と呼ぶ。半導体側のポテンシャルを外部電圧によって変化させ、半導体側から金属側へ電流を流すことができる。すなわち、ダイオード特性(整流性)を示す。
(注3)分布型分極ドーピング(Distributed Polarization Doping, DPD)
GaNやAlNなどの窒化物半導体は、強いイオン性に起因して大きい分極を有している。同質の(均一な)結晶の場合、分極電荷は表面と界面に現れるが、混晶の組成を膜厚方向に徐々に変化(傾斜)させることで、分極電荷を空間的に分布させ、それに応じてキャリアを誘起することができる。不純物ドーピングと本質的に異なり、熱励起を必要としないため、室温や低温でも高い導電性を得ることができる特徴がある。2002年にDebdeep Jenaらによって提案された。(D. Jena et al., Appl. Phys. Lett. 81, 4395–4397 (2002). DOI: doi.org/10.1063/1.1526161)。
(注4)AlN/AlGaN超格子
AlN/AlGaN超格子とは、AlN層とAlGaN層をナノメートル周期で交互に積層した人工的な結晶構造のことである。AlNとAlGaNの分極差に応じて、各AlN/AlGaN界面で二次元電子ガス(2DEG)が誘起される。また、歪みの蓄積を抑制することができ、AlN基板上に比較的厚膜な電流拡散層を形成する際に有用である。
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