【研究成果のポイント】
◆ 下水中のウイルスRNAを用いることで、インフルエンザ患者数を高い精度で予測できることを示した。
◆ インフルエンザA型およびB型それぞれの流行状況を区別して推定できる手法を開発し、従来の患者報告に比べて、約1週間早く流行状況を把握できることを明らかに。
◆ 臨床検査体制に依存せず、地域における実際の感染動向を反映できる可能性があることから、医療資源の配分や公衆衛生対策の迅速な意思決定への活用につながることに期待。
概要
大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)の村上道夫教授、東京大学大学院工学系研究科附属水環境工学研究センターの北島正章特任教授(感染症総合教育研究拠点連携研究員)、大阪健康安全基盤研究所の左近直美主幹研究員らの研究グループは、下水中に含まれるインフルエンザウイルスRNA濃度を用いて、地域におけるインフルエンザ患者数を予測する手法を開発しました。
インフルエンザなどの感染症対策では、流行状況を迅速かつ正確に把握することが重要ですが、医療機関での受診や検査結果に依存していることから、報告までに時間的な遅れが生じるという問題があります。
こうした問題を補完する手法として、近年「下水疫学(wastewater-based epidemiology)」が注目されており、新型コロナウイルス感染症の流行を契機に実用化が進みましたが、インフルエンザについては、A型・B型を区別した流行予測の実証は十分ではありませんでした。
本研究では、大阪府内3か所の下水処理場で採取した試料をもとに、インフルエンザA型およびB型それぞれの発生状況を統計モデルにより推定しました。その結果、患者数を高い精度で予測できることを確認しました。さらに、従来のサーベイランスよりも理論的に約1週間早く流行の兆候を把握できることを示しました。
流行の早期検知が可能になることで、医療機関における病床確保や人員配置など、迅速な意思決定への貢献や他の感染症への応用、リアルタイム監視体制の構築への展開が期待されます。
本研究成果は、2026年5月13日(水)に国際誌「Water and Environment Journal」に掲載されました。

図 下水データから推定した感染者数と観測値の比較
【村上道夫教授のコメント】
下水中のインフルエンザウイルスを測定することで、公表されている患者報告データよりも約1週間早く、地域のインフルエンザ流行をA型とB型に分けて推定できることが明らかになりました。本論文では2025年4月までの結果を報告していますが、その後も調査を継続しており、構築したモデルにより流行状況を高い精度で推定できていることを確認しています。今回の研究成果により、インフルエンザ患者の増加に伴う入院需要を見据えた病床確保など、医療提供体制の早期準備に役立つことが期待されます。
研究の背景
インフルエンザなどの感染症対策では、流行状況を迅速かつ正確に把握することが重要です。しかし、従来の患者サーベイランスは医療機関での受診や検査結果に依存しており、報告までに時間的な遅れが生じるという問題があります。また、検査体制の変化や受診行動の違いにより、実際の感染状況を十分に反映できない可能性も指摘されています。
こうした問題を補完する手法として、近年「下水疫学(wastewater-based epidemiology)」が注目されています。この手法は、感染者の排泄物に含まれる病原体を下水から検出し、地域全体の感染状況を推定するものです。新型コロナウイルス感染症の流行を契機に実用化が進みましたが、インフルエンザについては、A型・B型を区別した流行予測の実証は十分ではありませんでした。
研究の内容
本研究では、大阪府内の3つの下水処理場において、2023年4月から2025年4月までの週次サンプルを収集し、インフルエンザA型およびB型のウイルスRNA濃度を測定しました。これらのデータと感染症発生動向調査による患者報告データを組み合わせ、統計モデルを構築しました。
その結果、インフルエンザ患者数(A型とB型の合計)について高い予測精度が得られました。下水からの測定値は、採取から1–2日以内に得ることができますので、従来の患者報告よりも理論上約1週間早く流行の変化を捉えられることが示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、下水を用いた感染症監視が、従来の医療機関に基づくサーベイランスを補完する有効な手法であることを示しました。流行の早期検知が可能になることで、医療機関における病床確保や人員配置など、迅速な意思決定に貢献することが期待されます。
また、本手法は検査体制や受診行動に依存しないため、医療が逼迫した状況においても安定した指標として活用できる可能性があります。今後は、他の感染症への応用や、リアルタイム監視体制の構築への展開が期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年5月13日(水)に国際誌「Water and Environment Journal」に掲載されました。
タイトル:“Early prediction of type-specific influenza incidence using wastewater-based epidemiology”
著者名:Michio Murakami, Saeko Morikawa, Kaori Yamamoto, Yukino Yasuda, Hiroki Ando, Daisuke Motooka, Masaaki Kitajima, Naomi Sakon
DOI: 10.1111/wej.70060
本研究は、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクト、日本学術振興会科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))、科学技術振興機構(JST)「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)地域共創分野(本格型)」「未来社会創造事業」の一環として行われました。
参考URL
村上 道夫 教授
https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/michio-murakami/
北島 正章 特任教授
https://researchmap.jp/mkitajima
左近 直美 主幹研究員
5者連携協力協定(大阪府・大阪市・大阪健康安全基盤研究所・大阪大学・大阪公立大学)
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2026/04/06001
プレスリリース本文:PDFファイル
Water and Environment Journal:https://doi.org/10.1111/wej.70060
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