AI技術で小惑星の全ての土砂を高速自動計測 ―鉱山、土木、建設、防災へ応用可能―

2025/04/08

 

発表のポイント
はやぶさ2の解析チームがAI技術(深層学習)を応用し、これまで研究者が一生をかけても識別できなかった膨大な数の岩石を高速かつ高精度に自動解析するシステムを開発。
小惑星リュウグウとベヌーの表面を覆う全岩石(のべ350万個)を識別し、この2つの小惑星の決定的な違いをもたらした原因が、わずか数時間の自転周期の違いであったことを発見。
この新技術により、土砂災害や鉱山、トンネル工事で発生する大量の土砂も瞬時に分析可能。

imageAI技術で土砂を自動解析

概要
東京大学大学院工学系研究科の清水雄太特任研究員と宮本英昭教授らによる研究グループは、AI(深層学習)を活用し大量の岩石を高速かつ高精度に自動識別する実用的なアルゴリズムを世界で初めて確立しました。本研究では独自に収集した数万個に及ぶ岩石の輪郭データを基に新たな解析手法を開発し、小惑星リュウグウ・ベヌー表面に存在する全ての1m以上の岩石粒子(識別数は350万個、画像間の重複を取り除き総数20万個を記録)を初めて網羅的に識別し、それらの形状と分布を解明しました。その結果、両天体では表面の土砂が逆方向に移動していたことが明らかとなり、わずか数時間の自転速度の差がその原因であると突き止めました。この成果は、小惑星の多様性や小惑星形成後の進化の理解に寄与するのみならず、防災・減災、採鉱・建設・土木工事現場で直面する大量の土砂の状態把握という課題の抜本的解決に向けた鍵となることが期待されます。

発表内容
岩石は私たちの身近な環境のみならず、太陽系内のあらゆる岩石天体に普遍的に存在します。したがって、岩石の性質や分布を詳細に把握することは、自然環境や地質学的現象の解明、さらには鉱業や土木、防災・減災など幅広い分野で極めて重要です。岩石の分布を把握することは容易に思えますが、大小さまざまな形状の土砂が膨大な数含まれる集合体を対象とすると、とたんに困難さが増し、時間的にも解析しきれなくなります。また正確かつ客観的で、再現性のある解析は手作業では困難でした。
本研究グループは、約7万個の岩石の輪郭データから、CNN(注1)を用いて岩石を高速・高精度に自動識別する手法を確立しました。これにより大量の岩石を同一の判断基準で画一的に、再現性を担保して解析することが初めて可能となりました。このアルゴリズムを用いて、JAXAの「はやぶさ2」、NASAの「OSIRIS-REx」ミッションで得られた、小惑星リュウグウおよびベヌー表面の高解像度画像約1万枚から、合計約350万個の岩石を識別し、画像間の重複を取り除き最終的に合計約20万個の岩石のサイズ・形状・位置の分布を解明しました(図1)。この結果は、両小惑星上に存在する大きさ1m 以上の岩石全てを記録・解析した、革新的なものとなります。

fig1
図1 小惑星ベヌー・リュウグウ上の岩石の自動識別結果:350万個の岩石をAIによるアルゴリズムで自動識別。地図投影で重複を削除し、1m以上の全岩石(20万個の岩石が存在と判明)の位置と形状を把握。

この研究による解析で、リュウグウは自転が遅いために表面の岩石が赤道から極へ流れ、反対にベヌーは自転が速いために極から赤道へ岩石が移動していることが分かりました。一方で、ベヌーでは、極方向の移動の痕跡も認められたため、かつてはリュウグウ同様に自転が遅かったと推察できます。理論的計算から、こうした天体上での物質の移動方向は、ある自転周期を境に数時間異なるだけで逆転することが分かりました。これは自転周期の変遷に伴って天体の姿が大きく変容したことを意味し、自転速度のわずかな差が、今日観測される小惑星の全体形状を支配していたという、極めて重要な知見をもたらしました(図2)。

fig2
図2 自転周期の違いが駆動する多様な小惑星の進化:ある自転周期を境に、自転周期が遅い場合表面の土砂は極へ、速い場合は赤道へ移動する。さらに速くなると土砂は宇宙空間に放出され月を形成し、二重小惑星となる。自転周期の違いが大きな鍵となり、統一的に多様な小惑星の描像を説明することができる。

本研究成果は、惑星科学分野において多様な天体進化の過程を理解するうえで重要な一歩となります。開発された岩石の自動識別アルゴリズムの解析速度は凄まじく、手作業では解析に2週間ほど要する画像を数秒で解析してしまいます。これは研究者が一生をかけても解析しきれない膨大な数の岩石でさえ解析可能となったことを意味します。加えて、さまざまな産業界での応用が可能です。例えば斜面の常時モニタリングによる防災・減災システムへの利用や、鉱業・土木・建設現場でのドローンや定点カメラを活用した簡便で迅速な資材管理、さらには都市インフラの点検や農業分野における土壌・地盤状況の解析など、多岐にわたる分野でその有用性が期待されます。

〇関連情報:
研究紹介動画



発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
 清水 雄太 特任研究員
 宮本 英昭 教授
  兼:東京大学 大学院理学系研究科 

論文情報
雑誌名:Scientific Reports
題 名:Diverse evolutionary pathways of spheroidal asteroids driven by rotation rate
著者名:Shimizu Yuta, Miyamoto Hideaki*, Michel Patrick
DOI10.1038/s41598-025-94574-1
URLhttps://doi.org/10.1038/s41598-025-94574-1

研究助成
本研究は、科研費特別研究員奨励費「小天体探査における科学的成果の最大化:最適なデータ獲得・自動分析手法に関する研究(課題番号:21J21798)」、科研費研究活動スタート支援「微小重力下の粉粒体動力学が解き明かす小天体表面の変容(課題番号:24K22896)」、科研費基盤研究(A)「宇宙資源の探査・開発・利用を目指した原理実証実験(課題番号:23H00279)」および株式会社DigitalBlastの支援により実施されました。

用語解説
(注1CNN
畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network)のこと。画像内の局所的な特徴を抽出するための畳み込み層とプーリング層を組み合わせた深層学習モデル。入力画像から階層的に抽出された特徴を基に、対象物の検出・分類を高精度に実現する。

 

プレスリリース本文:PDFファイル
Scientific Reports:https://doi.org/10.1038/s41598-025-94574-1