プレスリリース
- 研究
- 2024
混合食は栄養とカーボンフットプリントのバランスを良くする ―広範な食品群ではなく個別の料理を対象とした 食の健康・環境影響についての新しい分析―
発表のポイント
◆ 本研究では、料理レベルでの持続可能な食生活を探求するために、新たに混合整数計画モデルを構築しました。◆ 混合整数計画モデルを用いて、料理ごとの栄養価、価格、およびカーボンフットプリントを定量化し、混合食が栄養ニーズを満たしつつ環境への影響を低減するより持続可能な料理であることを明らかにしました。
◆ この研究結果は、食品システムの変革を推進し、より持続可能な食生活の形成を促すことへの貢献が期待されます。
料理ごとの栄養、価格、およびカーボンフットプリントの間のトレードオフ
概要
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻のロン イン准教授、吉田 好邦教授、未来ビジョン研究センターのアレクサンドロス ガスパラトス教授らの研究チームは、食生活の環境および健康への影響を探求し、混合食(注1)が栄養ニーズを満たしつつもカーボンフットプリント(注2)を低減させることを明らかにしました。本研究では、料理ごとの価格と栄養価を考慮するとともに、産業連関分析(注3)を通じてカーボンフットプリントを評価しました。その結果、牛肉を中心とした料理が最もカーボンフットプリントが高く、豚肉や野菜ベースの料理は低いことや、カーボンフットプリント全体に対して調理による直接的なCO2排出の影響は小さく、CO2の主な排出源は原材料の生産過程にあることが明らかになりました。また、カーボンフットプリントの高い料理は高価であり、低いものは比較的安価であることも分かりました。
本研究成果は、持続可能な食政策の立案に寄与し、健康を確保しながらカーボンフットプリントを削減する指針を提供するものです。この方法論は世界各国での研究に適用可能で、食の選択が環境と健康に与える影響についてのより深い理解への貢献が期待されます。
発表内容
これまでは、食品システムの持続可能性に関する先行研究が不足しており、特に現代社会において、世界人口の増加と都市化の加速によって食品需要が増大し、持続可能な食生活選択にトレードオフが生じていることの理解は重要です。国連食糧農業機関(FAO)は、2050年までに世界人口が91億人に達し、食品生産を70%増加させる必要があると予測しています。
本研究チームは、料理レベルでの持続可能性分析に着想を得て、経済学と数学を用いたモデリングのアプローチを導入し、健康、環境、経済の3つの側面から、45種類の料理に関する持続可能な食生活スキームを探求しました。具体的には味の素株式会社のレシピデータベースを基に選ばれた料理について、カーボンフットプリントを定量化し、栄養価と価格を評価しました。さらに、16の食生活シナリオ(注4)を提示し、異なる料理の組み合わせでカーボンフットプリントを最小限に抑えつつ、個々の栄養ニーズを満たす混合整数計画モデルを構築しました。
研究結果からは、特に牛肉を含む料理が高いカーボンフットプリントを持ち、豚肉と野菜ベースの料理が比較的低いカーボンフットプリントを持つことが示されました(図1)。
図1:主要な料理のカーボンフットプリントの分布
左側の列は調理時間を示し、右側の棒グラフは各料理のカーボンフットプリントを二酸化炭素換算値で表示しています。青色部分は調理に関連する直接排出を示し、赤色部分は食材の生産に由来する間接排出を示しています。
調理過程での直接排出は全体のカーボンフットプリントに対して比較的小さく、料理のタイプによって異なることが明らかになりました。また、栄養評価からは、肉ベースの料理が一般的に高いコレステロール量を持つ一方で、異なるタイプの料理間では特定の栄養素において顕著な違いがあることが確認されました。そのため、色々なタイプの料理を食べた方が栄養バランスが良くなることが分かりました。
今回の研究成果から、持続可能な食生活選択に関する新たな知見が確認されました。今後、持続可能な食品システムへの移行という社会への波及効果と、持続可能性研究の発展に寄与することが期待されます。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院工学系研究科
ロン イン 准教授
吉田 好邦 教授
コウ リチャオ 博士課程
未来ビジョン研究センター
アレクサンドロス ガスパラトス(Alexandros Gasparatos) 教授
ジェ スー(Jie Su) 特任助教
メリーランド大学
フォン クイシュアン(Feng Kuishuang) 教授
論文情報
雑誌名:Science Advances
題 名:Mixed diets can meet nutrient requirements with lower carbon footprints
著者名:Yin Long*, Liqiao Huang, Jie Su, Yoshida Yoshikuni, Kuishuang Feng*, Alexandros Gasparatos* *共同責任著者
DOI:10.1126/sciadv.adh1077
研究助成
本研究は、文部科学省卓越研究員事業「少子高齢化社会におけるライフスタイル変容によるカーボンフットプリント削減の道筋」、科研費基盤研究(C)「家庭の世帯属性と人口動態を考慮した2050年カーボンニュートラル実現の道筋(課題番号:JP23K11542)」とアサヒグループ財団の支援により実施されました。
用語解説
(注1)混合食:
食材を肉、魚介、野菜などに分類するとき、単一の食材から成る料理ではなく、さまざまな食材を含む料理を指す。
(注2)カーボンフットプリント:
商品・サービスのライフサイクルの各過程で排出された「温室効果ガスの量」を追跡した結果、得られた全体の量をCO2量に換算して表示することを言う。
(注3)産業連関分析:
一国のある年における財・サービスについて各産業部門間で何がどれだけ生産され、販売されたかを、行列形式で一覧表にした産業連関表を用いて、最終消費者の購買がどの産業にどれだけの生産活動を誘発するかを分析する手法。
(注4)食生活シナリオ:
食生活の好みや習慣に基づいて設定された食事パターンで、ベジタリアンや特定の肉を食べないことなど、特別な食事要求までカバーする飲食習慣のシナリオのこと。
プレスリリース本文:PDFファイル
Science Advances:https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adh1077