'工学部/工学系研究科 プレスリリース' blog (64135566598) of hub id 20511701

工学部/工学系研究科 プレスリリース

金ナノ粒子触媒により第三級アミン酸化の従来型選択性を打破 ―新規機能性化学品の環境にやさしい効率的な創製に期待―

 

1. 発表者:
谷田部 孝文(東京大学 大学院工学系研究科応用化学専攻 助教)
山口  和也(東京大学 大学院工学系研究科応用化学専攻 教授)

2.発表のポイント:
◆金ナノ粒子触媒及び亜鉛助触媒を用いることで、第三級アミンのα-メチレン基C–H結合に対し高選択的に進行する酸素分子を酸化剤としたアルキニル化反応に成功しました。
◆金ナノ粒子上で酸素分子への協奏的な電子移動が起こることで、従来型の第三級アミン酸化選択性を打破し、さまざまな新しい構造のプロパルギルアミン類の合成が可能となりました。
◆医農薬品や天然物等に遍在する第三級アミンの構造を維持したまま新たな分子が合成できるため効率的な新規機能性化学品の創製が期待されます。

3. 発表概要:
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の谷田部孝文助教および山口和也教授は、金ナノ粒子触媒(注1)及び亜鉛助触媒(注2)を用いることで、第三級アミン(注3)酸化の従来型選択性を打破し、末端アルキン(注4)との脱水素カップリングを経る、酸素分子を酸化剤とした第三級アミンのα-メチレン基(注5)高選択的なα-アルキニル化反応(注6)に成功しました。
第三級アミンは医農薬品や天然物等に遍在しているため、その構造を維持したまま官能基を導入する反応は新薬等の新たな機能性化学品の効率的な合成に有効です。特に、第三級アミンは酸化反応を経ることでさまざまな官能基の導入が報告されていましたが、第三級アミンの有する三種の異なる炭化水素基を認識し特定の位置の炭化水素基のみを選択的に酸化することは困難であり、選択的変換はこれまでα-メチル基に限られていました。本研究では、金ナノ粒子触媒上で酸素分子への協奏的な電子移動が起こることで従来型の第三級アミン酸化選択性を打破し、亜鉛助触媒による末端アルキンの活性化を経て、α-メチレン基高選択的なアルキニル化反応を達成しました。再使用可能な金ナノ粒子触媒を使用し、酸素分子を酸化剤とした反応であり、実際にさまざまな新しい構造のプロパルギルアミン類の合成に成功しているため、環境調和的かつ効率的な新規有用化学品の創製が期待されます。
本研究成果は、2022年11月9日(イギリス時間)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(S)(22H04971)、若手研究(21K14460)、研究活動スタート支援(20K22547)、基盤研究(B)(19H02509)、特別研究員奨励費(17J08127)の助成を受けて行われました。

4.発表内容:
【研究背景】
アミンは窒素原子を含む有機化学における基本化合物の一つであり、自然界や工業製品等に幅広く存在します。特に、第三級アミンは医農薬品に多く含まれる構造であり、元々のアミン骨格を保持したまま、普遍的に存在するC–H結合に対して特定の位置で選択的変換を行うことができれば、新薬等の新たな機能性化学品を効率的に開発できると期待されます。第三級アミンは酸化反応を経ることで、高い求電子性を有するイミニウムカチオン(注7)に変換できるため、さまざまな酸化反応系・求核剤を用いることで、酸化的α位C–H結合官能基化が多数報告されてきました。しかし、第三級アミンの有する三種の異なる炭化水素基を認識し特定の位置の炭化水素基のみを選択的に酸化することは非常に困難であり、選択的な官能基化はこれまでα-メチル基に限られていました。第三級アミンのα-メチレン基に官能基を導入した構造は製薬分野で頻出するため、α-メチレン基選択的な酸化的官能基化の開発が望まれていました。

【研究内容】
本研究では、ヒドロキシアパタイト(注8)担持金ナノ粒子触媒を用いることで、従来型の第三級アミン酸化選択性を打破し、α-メチル基を全く酸化することなく、α-メチレン基高選択的な第三級アミン酸化が進行することを見出しました。さらに臭化亜鉛助触媒を添加することで、末端アルキンのイミニウムカチオンへの求核付加を促進し、高効率なα-メチレン基高選択的アルキニル化反応を達成しました。本反応は酸素分子を酸化剤とした脱水素カップリングであるため、理論上副生成物として水のみが生成する環境調和的な反応系となっています。ヒドロキシアパタイト担持金ナノ粒子触媒は、反応溶液中に溶出することなく、触媒表面上で反応が進行しており、反応後、濾過により簡便に回収することができました。回収・洗浄を行ったヒドロキシアパタイト担持金ナノ粒子触媒は繰り返しα-アルキニル化反応に使用することができ、大幅な最終収率の低下無く2回は再使用可能でした。本触媒系は、種々の末端アルキン・三種の異なる炭化水素基を持つ非対称アミンを含む第三級アミンに適用可能であり、α-メチレン基の中でも、特に環状α-メチレン基を選択的にアルキニル化することが明らかとなりました。環状α-メチレン基選択的アルキニル化によって生成するプロパルギルアミン構造は従来の手法では合成困難であったため、本触媒反応系によってさまざまな新規プロパルギルアミン類を得ることができました。また、ニコチン、ブフロメジル、クロペラスチンといった生物活性物質の環状α-メチレン基選択的アルキニル化にも成功しました。この特異なα-メチレン基選択酸化の起源を、さまざまな対照実験や速度論解析等によって詳細に調査したところ、金ナノ粒子触媒上で第三級アミンから酸素分子への協奏的な二電子一プロトン移動が起こるという新たな第三級アミン酸化反応機構によってα-メチレン基選択性が発現していることが分かりました。

【社会的意義・今後の展開】
第三級アミンのα-メチレン基選択的酸化によるイミニウムカチオン形成が可能となったため、末端アルキンだけでなく種々の求核剤を用いることで、従来手法では不可能であったさまざまなα-メチレン基高選択的官能基化が実現できると考えられます。医農薬品や天然物等に遍在する第三級アミンの構造を維持したまま新たな分子が多数合成できることが期待でき、新薬等の効率的な新規機能性化学品の創製につながります。今後は、さらに機能を集積した担持金ナノ粒子触媒を設計することで、酸化的α位C–H結合官能基化だけでなく、酸素分子への協奏的な二電子一プロトン移動を起点としたさまざまな新規酸化的分子変換を開発していきます。

5.発表雑誌:
雑誌名:「Nature Communications」
論文タイトル:Regiospecific α-methylene functionalisation of tertiary amines with alkynes via Au-catalysed concerted one-proton/two-electron transfer to O2
著者:Takafumi Yatabe*, Kazuya Yamaguchi*
DOI番号:10.1038/s41467-022-34176-x

6.用語解説:
(注1)金ナノ粒子触媒
金をナノメートル(1~100ナノメートル程度)のオーダーの粒子にした触媒。一般に金はバルクでは不活性であり、ナノ粒子にすることで初めて触媒として機能することが多い。

(注2)助触媒
単独では触媒作用をもたないが、主となる触媒の機能を向上させる化学種。

(注3)第三級アミン
アンモニア(NH3)の3つの水素原子を炭化水素基またはアリール基で置換した化合物の総称。

(注4)末端アルキン
片方が水素原子と結合している炭素–炭素三重結合を分子内に持つ炭化水素の総称。

(注5)α-メチレン基
アミンの窒素原子の隣(α位)の炭素原子に水素原子が2つ結合している原子団。α位の炭素原子に水素原子が3つ結合している原子団はα-メチル基、α位の炭素原子に水素原子が1つ結合している原子団はα-メチン基である。

(注6)α-アルキニル化反応
アミンのα位の炭素原子にアルキンの炭素–炭素三重結合を新たに導入し、有機合成や製薬分野で広く利用されるプロパルギルアミン類を合成する反応。

(注7)イミニウムカチオン
炭素–窒素二重結合を有し、窒素原子に炭化水素基またはアリール基が2つ結合している陽イオン。第三級アミンが二電子一プロトンを失う形で酸化されるとイミニウムカチオンが生成する。正電荷を帯びているため、高い求電子性を持ち、さまざまな求核剤と反応する。

(注8)ヒドロキシアパタイト
水酸化リン酸カルシウム(Ca5(PO4)3(OH))のことであり、人間の歯や骨の主要構成成分である。ヒドロキシアパタイト担持金ナノ粒子触媒では、ヒドロキシアパタイト上に金ナノ粒子が固定化されている。

 

7.添付資料:

 

fig1

1. 本研究成果の概要図

第三級アミンの酸化的変換ではα-メチル基以外の選択酸化が確立されていないことが課題でした。本研究では、ヒドロキシアパタイト担持金ナノ粒子触媒を酸素雰囲気で使用することで協奏的な二電子一プロトン移動が起こりα-メチレン基高選択的な第三級アミン酸化が進行しました。さらに臭化亜鉛助触媒を添加することでさまざまな基質において効率的にα-メチレン基高選択的なアルキニル化反応が進行し、種々の新しい構造のプロパルギルアミン類の合成を実現しています。

 

 

 

fig22. α-アルキニル化反応におけるナノ粒子触媒および助触媒による効果の比較

担持金ナノ粒子触媒だけでもα-メチレン基選択的にアルキニル化が進行しますが効率が悪く、亜鉛助触媒だけでは全く反応は進行しません。担持金ナノ粒子触媒と亜鉛助触媒を組み合わせることで効率的にα-アルキニル化が進行します。また、酸素分子のないアルゴン雰囲気で反応を行うとほとんど反応が進行せず、酸素分子を酸化剤としていることが分かります。

 

 

 

fig3

 

3. 本触媒系における末端アルキンおよび第三級アミンの基質適用性の例

ヒドロキシアパタイト担持金ナノ粒子触媒および臭化亜鉛助触媒を用いた本触媒系によりさまざまな第三級アミン、末端アルキンを用いて幅広い構造のプロパルギルアミン類を合成可能でした(各構造の下の数値は収率)。青色がアミン、赤色がアルキンの元の構造をそれぞれ示しており、どの基質においてもα-メチレン基高選択的にα-アルキニル化反応が進行しています。

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Communicationshttps://www.nature.com/articles/s41467-022-34176-x