プレスリリース

1ナノメートルの人工分子マシン1個を「見て、触る」 - 光学顕微鏡による1分子モーションキャプチャ - : 応用化学専攻 池田朋宏特任研究員、野地博行教授

 

「ビーズプローブ光学顕微鏡1分子運動計測法(1分子モーションキャプチャ法)」は従来生体内でエネルギー変換を行う分子(生体分子マシン)の機能を解明するために考案された手法である。光学顕微鏡で可視化できるサイズのビーズを観察対象生体分子マシンに取り付けて、 “モーションキャプチャ”のマーカーのように用いるこの方法では、生体分子マシンの運動の方向性や一歩で進むサイズ、発生する力など他の計測では解らない多くのことが明らかになるため、人工的に作製した分子マシン(人工分子マシン)への適用が待たれていた。しかしながら、人工分子マシンのサイズは生体分子マシンの1/10の1ナノメートル程度で、分子の小型化が引き起こすプローブの結合効率の低下やビーズと基板間の強い相互作用などの問題があり、本手法をそのまま適用するのは困難であった。

今回、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の野地博行教授、池田朋宏特任研究員、塚原隆博修士は、自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所の飯野亮太教授(2014年5月まで東京大学大学院工学系研究科准教授)、物質・材料研究機構高分子材料ユニット有機材料グループの竹内正之博士と共に、大きさが1ナノメートルである人工分子マシン1分子のモーションキャプチャに成功した。研究グループは、サイズの小型化の問題点を考慮して従来の手法を改良することで、分子内の2枚の板状の部分がホイールのように回転(人工分子ベアリング)するダブルデッカーポルフィリン分子1個の回転運動を記録した。さらに、ビーズに外力をかけることで分子1個の運動を操作することにも成功した。

人工分子マシン1個の振る舞いを「見て、触り」ながら性能評価できるこの手法は、人工分子マシンの目標の一つ「力を発生して運動する人工分子モーター」の実証に適用できる現在唯一の方法である。将来、例えば光で駆動する分子モーターを作製し、生体分子モーターと接続することによって、生体のさまざまな化学反応を光で操作できるテーラーメイドなエネルギー変換技術が可能になると期待される。本研究の成果はその重要性が認められ、ドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionの裏表紙にてハイライトされる。

 

 

詳細リリースはこちらからご覧ください。