プレスリリース

量子力学的な作用による光電変換を実証-太陽電池や光検出器の高性能化に道-

 

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター 強相関界面研究グループの中村優男上級研究員(科学技術振興機構さきがけ研究者)、川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、動的創発物性研究ユニットの賀川史敬ユニットリーダー、強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)らの共同研究グループは、シフト電流と呼ばれる量子力学的な光電流の発生を、有機分子性結晶のtetrathiafulvalene-p-chloranilTTF-CA)において実証することに成功しました。

強誘電体など空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ物質では、p-n接合を形成しなくても光起電力が発生することが知られていました。この光起電力は、シフト電流と呼ばれる量子力学的な光電流発生機構で生じることが近年理論的に提案されています。シフト電流は、エネルギー散逸がほとんどない電流であるため、光電変換効率の大幅な向上につながる可能性があります。しかし、シフト電流である明確な証拠は実験的に得られておらず、実証に適した物質系も不明なままでした。

共同研究グループは、イオン変位と電荷移動の2つの成分からなる強誘電体の電気分極のうち、後者が主になる分子性結晶のTTF-CAに着目しました。また、この物質はバンドギャップが約0.5エレクトロンボルト(eVと小さいことから、可視赤外光領域で大きなシフト電流が期待できます。実際にTTF-CAの単結晶試料において分極軸方向に生じる光起電力を測定した結果、強誘電相において疑似太陽光照射による大きな光電流の観測に成功しました。また、光電流が非常に長距離伝搬することを見いだし、シフト電流としての特徴を持つことも明らかにしました。

本成果は、シフト電流による光電変換に関する基礎学理の理解を深めるとともに、革新的な光検出器や、従来とは異なる光照射条件でも駆動する環境発電デバイスなどへの応用につながると期待できます。

本研究は、国際科学雑誌『Nature Communications』(817日付け、日本時間818日)に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)、日本学術振興会 科学研究費補助金 若手研究(A)「新しい太陽電池材料の開拓を目指した分極超構造の作製(研究代表者:中村優男)」などの助成を受けて実施されました。

 

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Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-017-00250-y