プレスリリース

精密分子操作による量子相転移の制御・観察に成功 ~サブオングストロームスケールの構造変形により分子中のスピンを可逆的に操作~

 

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程の大学院生平岡諒一(研究当時、現住友化学株式会社)、同研究科の高木紀明准教授、同工学系研究科の南谷英美講師、物質・材料研究機構主任研究員の荒船竜一らの研究グループは、金表面に吸着した鉄フタロシアニン分子に走査トンネル顕微鏡(STM)の針を近づけ、鉄原子の位置をサブオングストロームスケールで制御することで、分子のスピン状態を可逆的に変化させることに成功しました。

その背後にあるメカニズムは、近藤効果とスピン軌道相互作用の拮抗です。分子内部の鉄に局在したスピンが近藤効果によって生じる量子多体状態をとるか、スピン軌道相互作用による異方的なスピン状態をとるかは、分子と金表面の相互作用によって決まります。STMの針による分子操作でこの相互作用を精密に変調することで、2つの状態間の量子相転移を実現し、それが分子の電気伝導特性の変化によって検出できることを実験・理論によって初めて明らかにしました。

分子操作によってこのような量子相転移を制御・観測した例はこれまでにありません。本研究成果は、量子多体現象に対する理解の深化や、単分子デバイスの新たな動作機構につながるものです。

 

 

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Nature Communications:https://www.nature.com/articles/ncomms16012