工学部広報室の学生スタッフTtime! が「工学部長賞」を受賞した学生たちにインタビュー。
今回は、工学系研究科 応用化学専攻、植村研究室に所属の修士1年生、中村 颯冴さんを取材させていただきました!

―― よろしくお願いします。まずは、応用化学科に進学した理由を教えてください。
私は母校の立志式で、社会貢献したいという思いから将来の目標を研究者と定めました。どの分野に進むかを考えていたとき、中学3年次に化学の授業が始まりました。その中で、化学は物質や生命、環境など幅広い分野を支える基盤となる非常に重要な学問であり、社会の発展には必要不可欠な存在であることを学び、強く心を動かされました。このことをきっかけに、化学の力で未来を切り拓く研究者になるという目標を掲げ猛勉強し、東大に進学しました。その後、駒場生のときに応用化学科が開講していた「環境・エネルギー工学基礎I」という授業で、分子組織化学と出会いました。分子組織化学では分子やイオンなどの構成要素が自発的に骨格構造を形成する自己組織化という現象を取り扱うのですが、この現象の学術的な奥深さに感銘を受けたことから、将来この分野について研究したいと思い、応用化学科を志望しました。
―― その時に、現在の研究室に進む意志も固まったということですね。それでは、所属している植村研究室の研究内容について教えてください。
私たちは、多孔性金属錯体(Metal–Organic Framework, MOF)を基盤とした多様な応用研究を展開しています。MOFは金属イオンと有機配位子の自己組織化によって得られる結晶性多孔質材料のことで、昨年(2025年)北川 進(きたがわ すすむ)先生がノーベル化学賞を受賞された(注1)ことをきっかけにメディアでも大きく取り上げられました。
植村研究室では、MOF細孔を利用した高分子の精密重合・分解や分子分離、MOFを組み込んだ新規材料の開発 など、MOFが有する規則的なナノサイズ空間を自在に活用し、その構造的特徴を分子レベルで引き出すことで、新たな化学システムの創出に取り組んでいます。

図1 MOFの概要
―― 中村さんの研究内容について教えてください。
私は、MOF細孔を非常に長い高分子鎖が貫通した構造体「MOFaxane(モファキサン)」について研究しています。この名称は、高分子鎖が環状分子を貫通した「ロタキサン」という分子構造になぞらえて名付けられました。MOFaxaneは植村研究室が世界で初めて提唱したもので、そのユニークな構造からさらなる研究展開や応用が期待されています。現在のところ、MOFaxaneは筒状の細孔が空いたMOFでのみ確認されているのですが、ジャングルジムのように三次元的に細孔が空いたMOFの場合には高分子を貫通させたときの挙動が複雑化することが考えられるため、私はその挙動を明らかにするべく研究に取り組んでいます。

図2 MOFaxaneと中村さんの研究についての模式図
―― 研究のアピールポイントや応用先について教えてください。
MOFaxaneは、化学結合を用いるのではなく高分子鎖がMOFの細孔を「貫通する」という物理的な相互作用によって両者を一体化させている点が新しいといえます。この構造によってMOFを架橋点(注2)として高分子に加わる力を分散できるため、従来の材料にはない優れた機械的特性が発現すると考えられ、従来よりも強靭なフィルムやゲルなどへの応用が期待されています。最終的にはMOFaxaneの特性を活用した新たなMOF–高分子複合材料の創製につなげることを目指し、日々実験を行っています。
図3 試作品のフィルム
―― 研究生活の中で面白いと思うことや、反対に大変なことがあれば教えてください。
研究の面白いことと大変なことは表裏一体だと思います。未知の化学現象に挑む中では予想通りに反応が進むとは限らないため、反応条件を丁寧に検討して本質を探究する粘り強さが求められます。期待する結果を得るために日々試行錯誤を重ねていますが、その過程では、予想外の反応に驚かされることも多く、化学の面白さや奥深さをあらためて実感します。さらに、期待以上に研究が進展したときには喜びがあふれます。自分の研究が将来誰かの役に立つものにつながると思うと、応用化学に携わっていることにやりがいを感じます。だからこそ、未知の化学を切り拓く難しさそのものが面白さでもあり、そして非常に意義深いものであるということを肌で感じながら、研究生活を楽しんでいます。
―― 研究以外の時間に取り組んでいることはありますか?
今は週に1、2回ほどキャンパス内のジムに通い、筋トレやランニングに励んでいます。
学部時代はピンポン野球サークルに所属していました。ルールは硬式や軟式野球とはかなり違い、とてもユニークです。ピンポン球が軽いため、その回転のわずかな違いがプレーに大きく影響する難しさがあるのですが、それが逆に予測できないプレーを生み、とてつもなく面白いです。練習や試合のほか、合宿にはスキルアップを図るという目的もありましたが、メンバーとの絆がさらに深まる旅行としても毎回楽しみにしていました。高校時代までに経験したことのないスポーツに挑戦したいという思いからピンポン野球を始めたのですが、その世界観を存分に楽しめたことはもちろん、大学や学年の垣根を越えた気の合う仲間たちと出会えたことに感謝しています。

図4 ピンポン野球をしている様子
―― 学習面についてもお伺いします。応用化学科の授業で印象に残ったものはありますか?
「応用化学基礎論」です。
この授業は進学後すぐに開講され、応用化学科の先生方がご自身の研究とその背景となる基礎化学についてオムニバス形式で講義してくださいます。これから学ぶ専門分野の全体像を掴むことができ、先生方の情熱が伝わるとともに、最先端の研究が生まれる過程や発想を知ることができる刺激的な授業でした。私自身、この授業を通して、MOFの研究に対する意欲が一層高まったと記憶しています。もちろんその他にも、応用化学科は、化学の基礎からその深奥に迫るまでを体系的に学ぶことのできる授業が充実しています。学部で幅広い分野の知識を習得しそれぞれの関連性を理解することは、応用化学専攻で行われている、化学を強固な軸としたさまざまな先進分野との融合研究の基盤となります。さらに、社会に山積する課題を多角的に捉え、新たなブレイクスルーを生み出すための創造力や研究能力を養うことにもつながると思います。
―― 普段の授業で心掛けていたことはありますか。
私は、「授業最重要、最優先」という揺るぎない信念を持っています。授業での全ての学びを大切にし、わからないことを残さないということをモットーに意欲的に取り組んできました。 まずできる範囲で予習を行い、授業後わからなかった部分については必ず先生に質問し、友人とも議論を交わすことで理解を深めていました。さらに復習も徹底し、間違えた箇所や改善策、覚えておきたいことなどを書き記す振り返りノートを作成していました。丁寧さは必要ない、自分らしさを極めた「特別な奥義集」にすることを目指し、勉強を楽しめる要素を盛り込んだり、自分を鼓舞する言葉を付け加えたりするなど、まとめ方にもやる気を高める工夫を凝らしていました。

図5 中学、高校、大学時代の振り返りノート
―― 最後に、高校生や駒場生に向けてメッセージをお願いします。
「何事も楽しもう!」という気持ちをぜひ大切にしてほしいと思います。その前向きな思考で目の前のことに真摯に向き合う姿勢そのものが新たな可能性や視野を広げるきっかけとなり、それまで気づかなかった自分の強みや心惹かれることなどの予期せぬ嬉しい発見にもつながります。また、臆することなく何かに本気で打ち込んだという経験は、進路選択においても背中を押してくれる原動力になると思います。今ある貴重な時間と環境を最大限に活用して、そのときにしかできないことを思いきり楽しんでください!
―― ありがとうございました!
注1:2025年のノーベル化学賞は、「MOFの開発」について日本人の北川 進(京都大学)を含む3名に与えられた。
注2:高分子材料において、個々の高分子鎖同士が相互作用によって結びついている箇所。ここでは特に、MOFと高分子の間で相互作用が働いている箇所を指す。
【インタビューを終えて…】
言葉を一つ一つ丁寧に選んで伝えようとする様子から、学びに対する誠実な姿勢が伝わってきました。筆者も学部時代から中村さんを知る一人ではありますが、今回のインタビューを通して彼の優秀さの一端が垣間見えたように思います。
※このインタビューは工学部広報室の学生スタッフTtime!によって企画編集されました。
取材・執筆:木内 悠稀取材補助・撮影:佐藤 絹子
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