春季ライス大学留学ブログ | Ttime! スタッフ 杉山 詩歩さん(電子情報工学科4年)

2025/04/04

 


以前のアンケートから工学部生の留学時の体験が知りたいという声が多くあったため、春季に留学したTtime!スタッフから体験の共有を行います!
全4回のブログでお送りします。

2025/02/08-02/16
2025/02/17-02/23
2025/02/24-03/02
2025/03/03-03/09

 

1st Week 2025/02/08 - 02/16

はじめに
工学部電子情報工学科4年の杉山 詩歩です!
私は今、TOMODACHI-STEM Women’s Leadership and Research Programという5週間の春季プログラムでライス大学に来ています。海外大学院で研究インターンを行い、アメリカの大学院生の生活を直接見て、そして素晴らしい仲間であるプログラム参加者とのネットワークを作ることができます。

ライス大学とは?

ライス大学はアメリカ合衆国テキサス州に位置する総合大学です。フラーレンの発見等でノーベル賞を取得したリチャード・スモーリーはライス大学で研究を行っていたという歴史があり、その名を冠した研究所があります。ライス大学はナノ物理や電気・化学などの分野に強いことで知られています。また、ライス大学の教員や卒業生が16名が宇宙飛行士やNASAの長官として活躍しており、宇宙分野との関連も深いです。テキサス州の油田で財をなした方などが大学に様々な建物を寄贈し、美しいキャンパスが広がります。各建物が、所属する学科に関連するモチーフ(生物系の建物であればDNAの二重らせん構造など)を伴っており歩いて見て回るだけで心が踊ります。

fig001ライス大学の位置(google mapより)

fig002ライス大学の建物写真(筆者撮影)

fig003ライス大学のモチーフであるフクロウの像(筆者撮影)


研究インターンの開始

私が今回研究インターンをさせてもらう研究室(Rice Computational Imaging Group | Veeraraghavan Lab) は、電気・コンピュータ学科(東京大学でいうEEICです)に所属し、光を読み取るセンサというハードウェアとそこから画像を構成するためのアルゴリズムといったソフトウェアの両方の研究が行われています。特に研究室で近年開発されているレンズのないカメラ(FlatCam)を用いて、どのように手術やヘルスなどの医療分野に応用できるか等に焦点が置かれています。研究の様子は次回またお知らせします!!プログラムの終盤で開催されるポスター発表に向けた講義もあり、

1)一つのストーリーを定めて情報を削ぐこと
2)離れた人を惹きつけるように可視化に重きをおくこと
3)流れを明確にすること

などのポイントを教えていただきました!普段のスライド作成にも活かしていきたいです。

 

ten今週のひとこと
テキサス州ヒューストンは気候が非常に面白いです。
たった一週間のうちに、5℃から30℃まで大きく気温が変化し、まるで春夏秋冬があるように感じるほどです。
体調管理には気をつけていこうと思います!

 

 

2nd Week 2025/02/17 - 02/23


こんにちは!
今回はこちらで行っている研究の背景について報告します!

レンズレスカメラとは
私がインターンシップをさせていただいている研究室では、レンズのないカメラ(レンズレスカメラ)の開発や応用の探求が行われています。従来のカメラはレンズで集光し、イメージセンサで光の強度を読み取っていました。レンズがある分、かさばり、値段が高くなるという問題がありました。一方で、レンズのないカメラといえばピンホールカメラが思い浮かびますが、光を通す穴が小さいため光量が少なく画像が暗くなるという問題があります。

そのため、レンズをなくしたうえで、光を通す穴がいくつも開いたマスクを利用するタイプのレンズレスカメラ(マスクベースカメラ)が注目されています。光量が多く明るくなります。また、イメージセンサに映る像は、複数の穴を通った被写体の像の重ね合わせになるため人間が直接見てもわかりませんが、物理モデルや機械学習を用いて復元することができます。

fig0005
(マスクベースレンズレスカメラ、ピンホールカメラ、レンズカメラの比較図)


レンズレスカメラの現状の課題

被写体の一部が非常に明るいケースについて考えます。レンズありのカメラを用いる場合は、並べられたイメージセンサのうちの一部のみが飽和します。マスクベースのレンズレスカメラを用いる場合は非常に明るい箇所からの光が、多数のマスクの穴を通って多数のイメージセンサに届きます。結果として多数のイメージセンサが飽和し、全体的に鮮明度が下がります。そのため、暗くなってしまった画像を、鮮明な画像の色調に合わせることで回復する必要があります。また、画像の復元方法やマスクの形についても、より復元精度の良くなる方法が模索されています。

次回はこれらの改善についてお話します。

ten今週のひとこと
ライス大学の研究者たちのパネルディスカッションにおいて、「朝布団から出たくなるような毎日を過ごす」「得意よりも好きを大切にする」という言葉が印象に残りました。
道を選ぶ際に、他の要因に惑わされずに好きなことを見極める姿勢が大事だと改めて胸に刻みました。

 


3rd Week 2025/02/24 - 03/02

こんにちは!
今週は留学先で参加した歴史のイベントと、ヒューストンにある宇宙関連施設の見学の体験について紹介します!

Day of Remembrance 追憶の日
第二次世界大戦中の1942年の2月19日に、日系アメリカ人を強制収容所に入れる大統領令が署名されました(Day of Remembrance:https://jacl.org/day-of-remembrance)。2月19日はこの出来事を偲ぶ、追憶の日と呼ばれています。ライス大学では2月23日に日系アメリカ人市民連盟主催の関連イベントが開催され、私も参加しました。参加者の多くは親族が実際に収容された人であり、実際に起こった出来事であると実感することとなりました。イベントではまず歴史の振り返りが行われたのち、人種差別を繰り返さないためのパネルディスカッションが行われました。日本の義務教育ではあまり焦点があたらない側面の歴史を知ることができました。
パネルディスカッションでは、メキシコ系、イラン系、中華系のアメリカ人の方が登壇されており、アメリカという国での人種の混ざり方や難しさを知りました。incarceration投獄)や、deportation 国外追放)など難しい単語が多く理解するのが難しい部分もありましたが、とにかく、違和感を覚えたらすぐに声を上げることが必要だというメッセージが何度も強調されており、歴史を繰り返さないためにもその姿勢を大切にしようと思いました。

NASA 訪問
ヒューストンには、ジョンソン宇宙センターがあります。ここでは、月に再び宇宙飛行士を送るアルテミス計画も、火星探査の計画も目下進められており、非常にワクワクしました。ヒューストン現地で出会ったNASAのアラムナイによれば、宇宙開発はどんな工学分野とも関わりがあり、興味があれば広く門戸が開かれているとのことでした!宇宙飛行士の方が乗り物の中で訓練を行う場所も見学することができ、宇宙開発を非常に身近に感じました。


fig006(宇宙飛行士訓練場 筆者撮影) 

fig007 (宇宙センターの前のマクドナルド Google Street Viewより)


ten今週のひとこと
歴史にせよ宇宙にせよ、実際に近くに行ってみると、自分もつながっているという感覚を得ました。
現場に足を運ぶことで得られる気づきは大きいですね!


4th Week 2025/03/03 - 03/09

こんにちは!
今回は研究の続きと、最後に行ったポスター発表の様子についてお話します!

レンズレスカメラの課題の続き
レンズレスカメラで得られた暗い画像Aを明るく撮れた画像Bのトーンに揃える方法の一つとして、2つの画像の画素値のヒストグラムの形を一致させる手法があります。そのため、変化点検出アルゴリズムを用いてAとBのヒストグラムの特徴点を見つけ、位置を揃えることで画質を改善することができました!
また、今後レンズレスカメラ用のニューラルネットワークのトレーニングセットとして活用するため、自分自身が被験者となりデータセットの一員にもなりました!

その他コンピュータビジョンの最前線
お世話になった研究室では、ほかにも 1. 手術の道具の位置トラッキング、2. 光の収差補償、 3. 高速3Dスキャニングなどの研究プロジェクトに関わらせていただきました。それぞれ医療用ロボット、宇宙の天体観測、自動運転技術への応用を見据えた技術開発であり、未来を作っている実感が湧いて、とてもわくわくします。また、レンズレスイメージングで使われているパターンマスクがリソグラフィで作られているそうで、半導体のプロセスとの共通点があったのが興味深かったです。
特に印象的だったのは、手術の道具のトラッキング以外にも、運転手の健康状態の推定など、医療に関わる画像情報処理の研究が多かったことです。ヒューストンには世界最大級の医療集積地、テキサスメディカルセンターが存在するため連携しやすいそうです。プログラムの初日の夜、サイレンの音が頻繁に聞こえたため、物騒な場所なのかとヒヤヒヤしましたが、病院が近く救急車の量が多いことがサイレンの原因であると分かり、半ば安堵したのを思い出します。

fig008

研究室が所在するBRC(BIOSCIENCE RESEARCH COLLABORATIVE) 


ポスター発表
日本、台湾からの参加者計20人が、行った研究インターンシップの内容についてポスター形式で発表しました。大学院生や教授、また日本語を学習中の学部生が聴きにきてくださいました。発表者も聴講者もおいしいタコスを片手に、あふれる熱気の中で発表とディスカッションを行いました。今回のポスター発表は、発表テーマが生物から理論物理までと多岐にわたり、聴講者の専攻が異なることがあるため、話しはじめに相手の専攻や背景知識の多さを把握し、説明の力点を変える工夫が必要でした!
発表の前日に、プログラムの参加者と宿泊所の部屋で代わる代わる発表練習をし、フィードバックをし合ったのが本当にいい思い出です。ふだん同じ分野の人と話すときよりも、平易な言葉遣いで概念的な理解を伝える練習になりました。
英語で概要と面白さを相手に伝えられたときの感動はひとしおで、自信につながりました。

fig009
ポスター発表の様子


ten今週のひとこと
あっという間の5週間でしたが、研究だけでなく、ライス大学の学生や参加者の学生と、キャリア・政治・文化などたくさん話して交流を深められました。
これからも交流は続く予定です!地球規模で友達ができるのも留学の醍醐味ですね!