「瞬間」から「その後」までを1回で撮る超高速カメラを開発 ―撮影間隔を自在に変え、5桁にわたる時間スケールをつなぐ―

2026/10/01

発表のポイント

◆ 超高速現象の変化に合わせて、最初は撮影間隔を細かく、その後は徐々に広げる新しい撮影法「対数的高速度撮影法」を開発しました。
◆ 11コマで、フェムト秒からピコ秒を経てナノ秒に至る、約5桁にわたる時間スケールを、1回の撮影でつなぐことに成功しました。
◆ この技術により、レーザ照射直後の変化から、後に生じる衝撃波や物質の飛散までを一続きに撮影することに成功しました。今後、再現の難しい高速現象の解明への応用が期待されます。

 

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広い時間領域をつなぐ対数的高速撮度影法の概念図

 

概要
東京大学大学院工学系研究科の島田 啓太郎 特任研究員(研究当時)、中川 桂一 准教授らの研究チームは、高速な現象の発展に合わせて撮影間隔を変える新しい高速度撮影法「対数的高速度撮影法」を開発しました。
従来の高速度撮影では、撮影間隔を短くすると細かな変化を捉えられる一方、長い時間にわたる変化を記録することが難しくなります。本研究では、現象の始まりでは撮影間隔を細かく、その後は徐々に広げて撮影する光学技術「BRIDGE」を開発し、100フェムト秒のオーダーからピコ秒領域を経て10ナノ秒(注1)まで、約5桁にわたる時間スケールの変化を1回の撮影でつなぎました。
この撮影法を用いて、レーザ照射によって固体表面が瞬間的に除去されるレーザアブレーションや、水中におけるプラズマ(注2)と衝撃波の形成過程を11コマで撮影し、初期からの一連の変化として可視化しました。本手法は材料・ものづくり、生命科学・医療、エネルギーなどに関わる高速現象を理解し、その挙動を制御するための計測技術として、幅広い活用が期待されます。

 

発表内容
<研究の背景>
高速度カメラは、肉眼では捉えられない一瞬の現象を多数のコマに分けて記録する装置です。ところが、極めて高速な現象を撮影する場合、コマの間隔を短くすると詳しく捉えられる一方、記録できる時間が短くなります。逆に、コマの間隔を長くすると長時間にわたって記録できる一方、短い時間で起こる変化を見逃すという問題があります。
特にレーザと物質の相互作用では、レーザ照射直後に起こる極めて速い変化が、その後のプラズマ、衝撃波、物質の変形や飛散へとつながります。そのため、異なる速さで進む変化を一続きに捉えることが重要です。

 

<研究の内容>
研究チームが着目したのは、限られた撮影コマをどの時刻に用いるかという点です。
撮影コマを等しい間隔で並べるのではなく、現象が急速に変化する初期にはコマを密に配置し、その後は徐々に間隔を広げます。いわば、1本の超高速動画の中で、時間の「拡大率」を変える考え方です。研究チームはこの方法を「Logarithmic ultrafast photography(対数的超高速撮影法)」と名付けました。
さらに、光の色ごとに通る距離を変えることで、それぞれの光が対象に届く時刻を個別に調整する「Band-resolved individual delay generation(BRIDGE、ブリッジ)」という光学技術を開発しました(図1)。これにより、限られた撮影コマの間隔を100フェムト秒から10ナノ秒まで柔軟に設定することが可能になりました。

 

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図1:BRIDGEの光学系と高速度撮影の原理
上:BRIDGEの光学系。下:対象を照らす光の到達時刻を調整し、波長ごとの像を記録する撮影の流れ。

 

実証実験では、ガラスとハイドロキシアパタイト(注3)にフェムト秒レーザを照射しました。レーザ照射直後にはプラズマなどの高速な変化が起こり、その後、衝撃波や物質の飛散が現れます。本撮影法を用いることで、これらを別々の実験ではなく、一度のレーザ照射から得られた11枚の画像として一続きに観察できました。また、時間が経つにつれて、ガラスとハイドロキシアパタイトで物質の広がり方が異なっていく様子も捉えました。この結果は、極めて短い時間に起こる変化が、その後の材料応答へどのような影響を及ぼすかを明らかにできることを示しています。

 

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図2:ガラスおよびハイドロキシアパタイトのレーザアブレーション現象の対数的高速度撮影の結果

左が空気、右が試料で、レーザは左から照射しました。F:フィラメント、A:空気中のプラズマ、P:アブレーションプルーム、S:空気中の衝撃波、W:ガラス内部の応力波、D:噴出した物質、E:破片。

 

〈今後の展望〉
本手法は、限られたコマを現象の速さに合わせて配置することで、異なる時間スケールの変化を1回の撮影でつなぎます。特に、材料のばらつきや確率的な変化など、同じ現象を何度も再現することが難しい対象に有効です。今後、レーザ加工、材料の構造変化、生体の力学応答、プラズマ・衝撃波、高エネルギー密度現象など、短時間に複数の過程が連続して起こる現象への応用が期待されます。

 

発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
 島田 啓太郎 特任研究員(研究当時)
  現:米国ローレンス・バークレー国立研究所 博士研究員
 中川 桂一 准教授

 

論文情報
雑誌名:Optica
題 名:Logarithmic ultrafast photography with band-resolved individual delay generation(9 月25 日付掲載)
著者名:Keitaro Shimada, Kohei Azuma, Jun Horiuchi, Dylan Thomas, Masato Ota, Keiichi Nakagawa
DOI:10.1364/OPTICA.610944
URL:https://doi.org/10.1364/OPTICA.610944

 

研究助成
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ACT-X(課題番号:JPMJAX22K8)、および文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム( Q-LEAP )( 課題番号:JPMXS0118067246)の支援により実施されました。


用語解説
(注1) フェムト秒・ピコ秒・ナノ秒
フェムト秒(fs)は1000 兆分の1 秒、ピコ秒(ps)は1 兆分の1 秒、ナノ秒(ns)は10 億分の1 秒を表す時間の単位です。1 ピコ秒は1000 フェムト秒、1 ナノ秒は1000 ピコ秒に相当します。なお、10 ナノ秒は1 億分の1 秒です。


(注2) プラズマ

物質を構成する原子や分子から電子が離れ、自由に動く電子とイオンが混在する状態です。強いレーザ光の照射で生じたプラズマが急速に膨張すると、周囲に衝撃波が発生することがあります。


(注3) ハイドロキシアパタイト
骨や歯の主成分であるリン酸カルシウムという物質です。

 

 

プレスリリース本文: PDFファイル

Optica:https://doi.org/10.1364/OPTICA.610944