遷移金属ニオブを含む極性ウルツ鉱型窒化物半導体「NbAlN」の作製に成功~GaN系ヘテロ構造の界面電子密度を3倍超に高め、分極を生かした材料設計を拡張~

2026/09/07

研究の要旨とポイント

  • 遷移金属ニオブ(Nb)を含むNbAlNを、GaN上に単結晶エピタキシャル薄膜として作製することに初めて成功しました。

  • 原子分解能の観察により、NbAlNがGaNと同じ金属極性を保ち、Nbに富むナノ領域を含みながら結晶格子が連続していることを確認しました。

  • NbAlNをバリア層に用いると、AlN/GaN界面のシート電子密度が参照構造の3倍超(1.7 × 1013cm−2)に増加しました。

  • 遷移金属を含む極性窒化物の材料設計領域を広げ、GaN電子デバイスのキャリア密度制御に新たな選択肢を示しました。

 

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【研究の概要】

東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科の小林 篤准教授、池田 和久助教、同大学大学院 先進工学研究科 マテリアル創成工学専攻の黒木 颯太氏(2026年度 修士課程1年)、奥田 朋也氏(2025年度 修士課程修了)、菊池 立貢氏(2026年度 修士課程2年)、東京大学、三重大学の研究グループは、遷移金属ニオブ(Nb)を含む窒化アルミニウム(AlN)系半導体「窒化アルミニウムニオブ(NbAlN)」を、窒化ガリウム(GaN)上に単結晶の極性ウルツ鉱型薄膜として作製することに初めて成功しました。

AlNGaNに代表される極性ウルツ鉱型窒化物半導体(*1)は、高い絶縁破壊電界と強い分極(*2)を持ち、高出力・高周波電子デバイスの基盤材料として利用されています。AlNにスカンジウム(Sc)などを加えると格子定数や分極に関わる性質を大きく変えられることが知られていますが、金属的な結合を好む遷移金属を取り込みながら、ウルツ鉱型の結晶構造と一方向にそろった極性を保つことは困難でした。

本研究では、反応性スパッタエピタキシーにより、NbAlN薄膜をGaN上にエピタキシャル成長(*3)させました。原子分解能の環状明視野走査透過電子顕微鏡(ABF-STEM、*4)観察から、Nb23%含む約25 nm厚のNbAlN薄膜が、観察した範囲でGaNと同じ金属極性の積層を保つことを確認しました。また、Nbに富むナノ領域が存在しても、ウルツ鉱型の結晶格子は途切れず連続していることを明らかにしました。

さらに、NbAlNをバリア層として加えたNbAlN/AlGaN/AlN/GaNヘテロ構造では、AlN/GaN界面の高い移動度を保ったまま、二次元電子ガス(2DEG、*5)の密度が、NbAlNを用いない構造の約5.1 × 1012 cm−2から1.7 × 1013 cm−2へと3倍超に増加しました。これは、NbAlNの分極によってキャリア密度が変調されたと解釈できる結果です。

本成果は、遷移金属を含む極性窒化物へ材料選択の範囲を広げ、GaN系ヘテロ構造における2DEGのキャリア密度を設計する新たな選択肢を示すものです。本研究成果は国際学術誌「Advanced Materials」に掲載されました。(オンライン掲載日:9月3日)。

 

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図1 極性ウルツ鉱型NbAlNの結晶構造を表現したイメージ図

【研究の背景】

AlNGaNなどのウルツ鉱型窒化物は、原子の並び方に由来する自発分極と、ひずみに由来する圧電分極を持ちます。異なる窒化物を重ねた界面では、この分極の差によって高密度・高移動度の2DEGを形成できます。この性質は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)をはじめとするGaNパワー・高周波デバイスの動作基盤となっています。

代表例であるScAlNでは、AlNScを加えても一定の組成範囲でウルツ鉱型構造が保たれ、格子定数や圧電性・強誘電性などの機能が大きく変化します。この発見を契機に、AlNにさまざまな元素を加え、新しい極性窒化物を開拓する研究が進んでいます。

一方、Nbは部分的に電子が入ったd軌道を持つ遷移金属で、通常は金属的な岩塩型NbNを形成しやすい元素です。そのため、NbAlNに取り込み、四面体配位からなるウルツ鉱型構造と長距離の極性秩序を維持できるかは、窒化物材料科学における重要な未解決課題でした。

そこで研究グループは、添加元素による電荷補償を用いない三元系NbAlNに着目し、GaN上での単結晶エピタキシャル成長、原子レベルの結晶構造と極性、さらにGaN系ヘテロ構造に導入した際の電子輸送特性を調べました。 

 

【研究結果の詳細】
①    NbAlN薄膜のエピタキシャル成長と構造評価
反応性スパッタエピタキシーにより、GaN基板上にNb含有量11~37%のNbAlN薄膜を作製しました。Nb含有量25%までは、薄膜は滑らかな表面とGaNに整合したウルツ鉱型結晶構造を維持しました。一方、37%では表面が粗くなり、結晶品質も大きく低下しました。この結果から、今回の成長条件では少なくともNb含有量25%までは高品質な成長が可能ですが、37%ではその維持が難しいことが分かりました。

②    原子レベルでの極性と組成分布の確認
Nbを23%含むNbAlN薄膜をABF-STEM、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)およびSTEM-EDS(*6)で観察・分析したところ、NbAlN/GaN界面付近と膜上部の観察領域で、GaNと同じ金属極性の積層が確認されました。さらに、NbAlN層内にはNbに富むナノ領域が見られましたが、粒界や独立した結晶相を形成せず、周囲と連続したウルツ鉱型格子の中に取り込まれていました。

③    2DEG密度の増加と高い電子移動度
NbAlN/AlGaN/AlN/GaNヘテロ構造のホール効果測定では、NbAlNを用いない参照構造のシート電子密度が約5.1 × 1012 cm−2であったのに対し、775℃で成長したNbを10%含むNbAlNバリア層(厚さ13 nm)を導入すると1.7 × 1013 cm−2まで増加しました。これは参照構造の3倍を超える値です。675℃で成長した試料でも約9 × 1012 cm−2まで増加し、効果の大きさが成長温度に依存することも分かりました。
室温の電子移動度は、参照構造の1690 cm2 V−1 s−1に対し、675℃成長では644 cm2 V−1 s−1、775℃成長では1485 cm2 V−1 s−1でした。775℃成長試料では、高い電子密度と比較的高い移動度が両立しています。冷却してもシート電子密度がほぼ一定で、移動度は80 Kで6800 cm2 V−1 s−1に達しました。
今後、分極定数やバンドアライメントの測定、界面・不純物の詳細解析、トランジスタ作製を進めることで、NbAlNバリアの動作機構とデバイス性能を明らかにする必要があります。
本研究を主導した東京理科大学の小林准教授は、次のように述べています。「Nbは金属的な窒化物を作りやすいため、AlNの極性ウルツ鉱型構造に取り込むことは容易ではありません。今回、Nbに富むナノ領域を結晶格子の連続性を保ったまま取り込み、GaNと同じ極性を維持できることを原子レベルで確認しました。遷移金属を含む極性窒化物という新しい材料群を開拓し、GaNヘテロ構造のキャリア密度を設計する選択肢を広げる成果です」

※    本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP23KK0094、JP25K22019)、公益財団法人 泉科学技術振興財団、公益財団法人 中部電気利用基礎研究振興財団、生体医歯工学共同研究拠点、名古屋大学未来材料・システム研究所共同利用・共同研究の支援を受けて実施しました。

 

【用語】
*1 極性ウルツ鉱型窒化物半導体
ウルツ鉱型の結晶構造を持ち、結晶のc軸方向に正負の電荷の偏り(極性)を持つ窒化物半導体。この極性により自発分極や圧電分極が生じる。
*2 分極
物質の中で正負の電荷の重心がずれ、電気的な偏りが生じた状態。ウルツ鉱型窒化物半導体では、結晶構造に由来する自発分極と、ひずみによって生じる圧電分極がある。
*3 エピタキシャル成長
結晶基板の原子配列にそろえて、一定の結晶方位を持つ薄膜を成長させる技術。異なる材料同士でも結晶構造や格子間隔の相性がよければ、高品質な界面を形成できる。
*4 環状明視野走査透過電子顕微鏡(ABF-STEM)
細く絞った電子線で試料を走査し、透過した電子を環状検出器で捉える観察法。軽元素を含む原子配列を高い空間分解能で可視化でき、原子の並びから結晶の極性を判定できる。
*5 二次元電子ガス(2DEG)
半導体の界面などで、電子が厚さ方向に閉じ込められ、界面に沿った方向に動く電子の集団。高密度かつ高移動度の2DEGは、HEMTの高速・高出力動作を支える。
*6 走査透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)
走査透過型電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分光法(EDS)を組み合わせ、試料の微細構造観察と元素分布の分析を同時に行う手法。

 

【論文情報】

雑誌名:Advanced Materials
論文タイトル:Polar Wurtzite NbAlN: A Transition-Metal Nitride Alloy for Polarization-Engineered GaN Heterostructures
著者:Atsushi Kobayashi, Souta Kurogi, Tomoya Okuda, Riku Kikuchi, Yusuke Wakamoto, Kouei Kubota, Hikaru Sasaki, Kazuhisa Ikeda, Kanako Shojiki, Takahiro Kawamura, Toru Akiyama, Takehito Seki, Takuya Maeda
DOI:10.1002/adma.74756


【発表者】

東京理科大学

小林 篤(准教授、責任著者)、池田 和久(助教)、黒木 颯太(修士課程1年)、奥田 朋也(2025年度修士課程修了)、菊池 立貢(修士課程2年)

東京大学

若本 裕介(博士課程1年)、久保田 航瑛(修士課程2年)、佐々木 洸(修士課程2年)、関 岳人(准教授)、前田 拓也(講師)

三重大学

正直 花奈子(准教授)、河村 貴宏(准教授)、秋山 亨(教授)

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Advanced Materials:https://doi.org/10.1002/adma.74756