混合廃プラスチックのリサイクルに新たな手法:廃プラスチックのなかのポリウレタンを選択的に分解する触媒の開発

2026/07/10

ポイント

  1. 現代社会で大量に生産・廃棄されるプラスチックの効率的なリサイクルが求められています
  2. 独自に開発した触媒を用いることで、廃プラスチックのなかのポリウレタン(※1)のみを分解することに成功しました
  3. これまで分離が困難であった複数のプラスチックが混ざった廃棄物の効率的なリサイクル手法になると期待されます

概要

廃プラスチックの適切なリサイクルは、海洋汚染の防止、化石資源の節約、二酸化炭素排出量削減などの地球規模の環境問題解決のための喫緊の課題と認識されています。役目を終えたプラスチックを化学反応によって原料モノマー(※2)まで分解し、新しいプラスチックを再生産するケミカルリサイクル(※3)は、有望なリサイクル手法です。しかし、原料モノマーを回収するためには、複数のプラスチックが混ざった混合廃プラスチックから特定のプラスチックを事前に分離する必要があり、これがボトルネックとなっていました。

本研究では混合廃プラスチックのなかのポリウレタンを選択的に化学分解し、ポリウレタンの原料モノマーと分解されていない他の高分子材料を簡便に分離する新たな手法を開発しました。

東京大学大学院工学系研究科 山田悠斗 修士課程学生(研究当時)、九州大学大学院工学研究院 岩﨑孝紀 教授、産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門 田中真司 上級主任研究員、東京大学大学院工学系研究科 野崎京子 教授の研究グループは、独自に開発したイリジウム触媒とカリウム塩基を組み合わせることによって、ポリエステル(※4)やポリメチルメタクリレート(※5)、ナイロン(※6)などの異なる高分子材料との混合物のなかのポリウレタンのみを水素ガスを用いて化学的に分解できることを明らかにしました。

ポリエステルとポリウレタンの混紡繊維に適用すると、ポリウレタンが化学分解された原料モノマーとポリエステルの繊維が回収されます。これらは、それぞれ液体と不溶な繊維なので、ろ過によって簡便に分離することが可能です。選択的な化学分解手法は、これまで分離のコストのためリサイクルされずに廃棄されていた混合廃プラスチックの効率的なリサイクル手法になると期待されます。

本成果は、2026年7月9日(現地時間)に国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に公開されるとともに、注目論文(Hot Paper)に選出されました。論文はOpen Accessで公開され、無料で閲覧することができます。

 

fig1

混合廃プラスチックのなかのポリウレタンのみを分解することで分離とリサイクルを実現

 

【研究の背景と経緯】
廃プラスチックの適切なリサイクルの実現は海洋汚染の防止の観点から重要な課題です。また、多くのプラスチックは化石資源由来のナフサを原料に生産されていることから、リサイクルすることによって化石資源の消費量の削減のみならず、二酸化炭素の排出削減にもつながります。このような炭素循環につながるプラスチックのリサイクル方法として、マテリアルリサイクル(※7)とケミカルリサイクルが注目されています。いずれの方法でも回収した廃プラスチックを同じ化学構造を持つプラスチックごとに分別する必要があります。
そのため、ペットボトルのような単一の化学構造を持つプラスチックでできた製品のリサイクルは比較的容易な一方で、異なるプラスチックが混ざった混合廃プラスチックや化学構造の異なる高分子材料を複合した製品のリサイクルにおいては、分離が課題となります。また、化学結合によって異なる化学構造の高分子材料が連結されたものなど分離が困難な混合廃プラスチックも多くあります。
このような背景から、異なる化学構造を有するプラスチックが混ざった状態から、特定のプラスチックのみを化学的にモノマーまで分解することができれば、プラスチックの分離とケミカルリサイクルを両立する新たなリサイクル方法になると期待されます。
実際に、プラスチックの主鎖構造の違いに着目して、選択的な化学分解を行う研究開発が進められています。これらの研究の多くは、より結合の弱い主鎖構造を選択的に分解することによって選択的な化学分解を実現しています。
比較的分解が容易なポリエステルやポリアミドは熱可塑性(※8)を示すため、マテリアルリサイクルが容易です(図1左上)。一方で、熱硬化性(※9)のポリウレタンはマテリアルリサイクルが困難なため、化学分解によるケミカルリサイクルが必要となります(図1左下)。しかし、一般的な化学反応では、エステル結合やアミド結合がウレタン結合に優先して分解されます。

これに対して、熱硬化性のポリウレタンを選択的に化学分解することでケミカルリサイクルするとともに、熱可塑性のポリエステルなどを分解することなく回収・マテリアルリサイクルすることができれば、混合廃プラスチックの効率的なリサイクルが実現できると期待できます(図1右)。

 

fig2図1. 混合廃プラスチックの効率的なリサイクルのためのアプローチ

高分子材料の性質による適用可能なリサイクル手法(左)と熱可塑性高分子材料と熱硬化性高分子材料を含む混合廃プラスチックの効率的なリサイクルのための選択的な化学分解と分離によるリサイクルのフロー(右)

 

【研究の内容と成果】
東京大学大学院工学系研究科 山田悠斗 修士課程学生(研究当時)、九州大学大学院工学研究院 岩﨑孝紀 教授(研究開始時:東京大学大学院工学系研究科 准教授)、産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門 田中真司 上級主任研究員、東京大学大学院工学系研究科 野崎京子 教授の研究グループは、独自に開発したイリジウム触媒と塩基添加剤を組み合わせることにより、ウレタン結合に水素ガスを付加させてホルムアミドとアルコールに分解できることを明らかにしました。開発した触媒は、ポリエステルやナイロンなどの一般的にポリウレタンよりも分解が容易なプラスチックが混ざっていても、ポリウレタンを選択的にモノマーまで分解します。また、ポリエステルやナイロンは反応によって化学構造のみならずプラスチックとしての形状が変化しないことから、簡単な分離操作で回収することができます。
研究グループは、独自に開発したイリジウム触媒とセシウム塩基を組み合わせると、ウレタン結合を水素ガスによって切断し、ホルムアミドとアルコールに分解できることを2024年に報告しました(注1)。ポリエステルに含まれるエステル結合は酸性や塩基性の条件ではウレタンの分解物であるアルコールと反応することが知られています。そこで、イリジウム触媒と組み合わせる塩基添加剤の影響を調査しました。フェノール誘導体のカリウム塩を用いると、エステルがウレタン分解物のアルコールと反応することなく定量的に回収できることを明らかにしました(図2A)。
次に最適な条件を用いて、複数のポリマーの混合物の分解を検討しました。ポリエステルポリオール(※10)から生産されるポリウレタンのモデルとして、主鎖にウレタン結合とエステル結合を含むポリウレタンに適用したところ、エステルを分解することなくジホルムアミドとジオールが回収できることを明らかにしました(図2B)。
一般的なプラスチック材料であるポリメチルメタクリレート(PMMA)とポリウレタンを1:1で混合して水素化を行ったところ、ポリウレタンのみが分解され、PMMAが回収されました(図2C)。回収したPMMAが反応前と全く変化していないことが確認されました。これらの実験結果は、エステル結合を含むプラスチックが共存してもポリウレタンのみを分解する本触媒の特異な化学選択性を示すものです。
ナイロンを用いて同様の実験を行ったところ、ナイロンが分解されることなくポリウレタンが選択的に分解されることが確認できました(図2D)。水素化反応やその他のウレタン分解反応では、ウレタンよりもエステルやアミドの反応性が高く、ウレタンを選択的に分解することは困難と考えられていましたが、今回得られた結果は従来手法とは異なりウレタン選択的に分解反応が進行しました。すなわち、熱硬化性であることが多くケミカルリサイクルしか適用できないポリウレタンを分解する一方で、マテリアルリサイクルが適用可能な熱可塑性高分子材料を分解することなく回収できたことから、混合廃プラスチックの効率の良いリサイクル手法になると期待できます。

 

注1 窒素とリンからなる配位子を有するイリジウム触媒とセシウムブトキシドを組み合わせた触媒を用いて水素ガスを反応剤とすることでウレタン結合をホルムアミドとアルコールに分解することができる。従来の触媒では、ホルムアミドがさらに水素ガスと反応してアミンとメタノールまで分解されるのとは対照的にホルムアミドが得られることが特徴。

<参考>

雑誌名:Journal of the American Chemical Society

題 名:Chemoselective Hydrogenolysis of Urethanes to Formamides and Alcohols in the Presence of More Electrophilic Carbonyl Compounds

著者名:Takanori Iwasaki*, Yuto Yamada, Naoki Naito, Kyoko Nozaki*

DOI:10.1021/jacs.4c06553

東京大学プレスリリース:https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-08-09-002

 

fig3図2. ポリウレタンと熱可塑性高分子材料の混合物のポリウレタン選択的な分解反応

(A)ウレタンとエステルとの混合物を用いたウレタン選択的な触媒の探索、(B)エステルを主鎖に含むポリウレタンの化学分解、(C)ポリウレタンとPMMAの混合物を用いたポリウレタン選択的な化学分解、(D)ポリウレタンとナイロン66の混合物を用いたポリウレタン選択的な化学分解

実際の廃棄物に適用できるか確認するために、肌着などに用いられる混紡繊維を用いて検証を行いました。ポリエステルとポリウレタン(88/12)の混紡繊維1.00 gの分解を行ったところ、0.87 gの繊維と0.11 gの可溶成分が回収されました(図3A)。
回収された繊維の微細構造を電子顕微鏡で確認したところ、分解前後で見た目に大きな違いがないことがわかりました(図3B)。一方で、13C核磁気共鳴分析ではポリウレタンに対応するピークの消失が確認されました(図3C)。すなわち、混紡繊維の88%を構成するポリエステルを分解することなく、ポリウレタンのみが選択的に分解されました。
可溶成分を分析したところ、ポリウレタンの原料であるポリオールが主成分であることが確認できました。一方、ポリエステルを構成するエチレングリコールが可溶成分中に観測されなかったことからポリウレタンのみが分解されていることが確認できました。

fig4

図3. ポリエステルとポリウレタンの混紡繊維中のポリウレタン選択的な分解反応

(A)分解前後の混紡繊維の写真、(B)分解前後の混紡繊維の電子顕微鏡写真からは繊維の大きな変化は見られない、(C) 分解前後の混紡繊維の13C核磁気共鳴スペクトルからはポリウレタン由来のピークの消失が確認された

 

【今後の展開】

今回の研究では、ポリエステルやナイロンなどの熱可塑性高分子材料の存在下で、水素ガスを反応剤としてポリウレタンを選択的に分解できることを初めて実証しました。これらの高分子材料からなる混合廃プラスチックとしては、自動車のシートなどが挙げられます。近年、ヨーロッパでは自動車を製造する際に廃車由来の再生プラスチックの利用を義務付ける規制が議論されていることから、自動車産業における再生プラスチックの製造に必要な原料モノマーの回収技術としての利用が期待されます。

 

【用語解説】

(※1) ポリウレタン

…ジイソシアネートモノマーとポリオールモノマーを反応させて得られる高分子材料。イソシアネート基(-N=C=O)と水酸基(-OH)との反応によってウレタン結合が形成する。ジイソシアネートモノマーとポリオールモノマーの組み合わせによって物性を調整でき、発泡体の製造も容易である。自動車のシートやベッドのマットレスなどのクッション材から建物の断熱材など様々な用途があり、生産量は高分子材料中第6位。

(※2) モノマー

…高分子を構成する繰り返しユニット。ポリエチレンのように同じ繰り返しユニットが繰り返す高分子材料と、二種類のモノマーが交互に繰り返す高分子材料が知られている。

(※3) ケミカルリサイクル

…高分子の主鎖を化学反応によって切断し、モノマーへと分解して回収・精製した後に原料モノマーとして再利用する方法。化石資源から生産した原料モノマーを用いた場合と同等の機能を有する高分子材料が得られる利点がある。

(※4) ポリエステル

…主鎖にエステルを含む高分子材料の総称。本研究で用いた混紡繊維にはテレフタル酸とエチレングリコールがエステル結合でつながったポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられていた。

(※5) ポリメチルメタクリレート(PMMA)

…メタクリル酸メチルの重合体。透明性が高いことからアクリルガラスとして水族館の水槽などに用いられる。

(※6) ナイロン

…主鎖にアミド結合を有する高分子材料(ポリアミド)のなかでも飽和炭化水素鎖からなり、繊維として用いられるもの。

(※7) マテリアルリサイクル

…回収した高分子材料を加熱融解して成形することでリサイクルする方法。ペットボトルはマテリアルリサイクルによって再生されている。選別などによって単一の高分子材料が得られることが前提となる。マテリアルリサイクルを繰り返すと、分子レベルでの劣化が蓄積するので品質の低下が問題となることもある。

(※8) 熱可塑性

…高分子材料を加熱した際に流動性を示す性質。マテリアルリサイクルは熱可塑性高分子材料にしか適用できない。

(※9) 熱硬化性

…高分子材料を製造した段階で硬化し、加熱しても流動性を示さない性質。高分子主鎖に分岐構造があり網目構造を持つと熱硬化性高分子材料となる。分岐構造を持ったポリオールモノマーから製造されるポリウレタンなどがその例。

(※10) ポリエステルポリオール

…主鎖にエステルを含むポリエステルを骨格として有し、複数の末端に水酸基を有するポリウレタンの原料。非化石資源から生産されたポリエステルポリオールの利用も進んでいる。

 

【謝辞】

本研究は科学技術振興機構(JST)先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next) (JPMJAN24C3, JPMJAN25C1)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(課題番号:JP23H01955, JP24K26648, JP22H05340, JP24H01061)、天野工業技術研究所、日立財団、ポリウレタン国際技術振興財団、旭硝子財団、池谷科学技術振興財団、田中貴金属記念財団(代表:岩﨑 孝紀)、JST戦略的創造研究推進事業ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)、などの支援により実施されました。

 

【論文情報】

掲載誌:Angewandte Chemie International Edition

タイトル:Selective Degradation of Polyurethanes in Mixed Plastic Wastes via Ir-Catalyzed Hydrogenolysis(イリジウム触媒による加水素分解による混合廃プラスチック中のポリウレタン選択的な分解)

著者名:Yuto Yamada, Takanori Iwasaki*, Shinji Tanaka, Kyoko Nozaki*

DOI10.1002/anie.4288189

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Angewandte Chemie International Edition:https://doi.org/10.1002/anie.4288189