熱帯の火山噴火によりアジアモンスーン地域において干ばつが連鎖する仕組みを解明 ―シルクロードテレコネクションがアジアモンスーン地域の干ばつを連鎖―

2026/03/30

発表のポイント
◆ 熱帯での大規模火山噴火の後、南アジアと東アジア北部で夏季モンスーン干ばつが連鎖的に発生するメカニズムを解明しました。
 樹木年輪と気候モデルシミュレーションを組み合わせた過去数世紀にわたる解析により、火山噴火による寒冷化が南アジアのモンスーン降水を弱め、その影響が偏西風ジェットに沿って東へ伝わる「シルクロードテレコネクションパターン」という遠隔影響パターンを介して、東アジアの降水を抑制することが明らかとなりました。
  本研究により熱帯の火山噴火後に広域干ばつが生じる大気メカニズムが明らかになり、将来の大規模火山噴火後に生じる水文気候リスクの予測や水資源管理、農業対策の高度化に貢献すると期待されます。

 

fig1火山噴火に対する翌夏の水循環の応答
ドットは統計的に有意な領域を表す。四角は南アジアおよび北東アジアの領域を表す。

 

発表内容 

東京大学大学院工学系研究科の沖 大幹 教授、木野 佳音 助教、武漢大学の聶 文政氏らの研究チームは、ユーラシア大陸の各地で得られる樹木年輪のデータを用いて、シルクロードテレコネクションパターン(注1)の時間変動指標を過去数世紀にわたり復元することに成功しました(図1)。
熱帯における爆発的な火山噴火は大量の硫酸エアロゾルを成層圏に放出し、太陽放射を反射する日傘効果によって地球表面を冷却させます。この冷却は全球の水循環を弱めることが知られていますが、南アジアと東アジア北部という離れた地域で同時に干ばつが発生する仕組みは十分に解明されていませんでした。
本研究では、復元されたテレコネクションパターンの指標と気候モデルシミュレーションデータを組み合わせた解析により、熱帯での火山噴火がアジア広域の降水量に及ぼす影響のメカニズムを明らかにしました。火山噴火による寒冷化は、翌年の南アジアにおける夏季モンスーンに伴う対流活動を弱化させます。これがユーラシア大陸を横断する規模のテレコネクションパターンを励起し、東アジアにおいても下降気流を強め、結果として降水が抑制されるメカニズムの存在が、本研究により明らかとなりました。また、このメカニズムはエルニーニョ–南方振動現象やインド洋ダイポールモード現象といった大気海洋変動とは独立であることも確認されました(図2)。
モンスーンアジアには数十億人が暮らし、農業や水資源は夏季の降水に大きく依存しています。本研究は、熱帯における火山噴火の後の広域での干ばつを引き起こすメカニズムを明確に示しており、将来大規模な火山噴火後に生じる水文気候リスクの予測や水資源管理、農業対策の高度化などへの貢献が期待されます。

 

fig2図1:復元された過去のシルクロードテレコネクションパターン指標の時系列変動と火山噴火が及ぼす影響

(a)樹木年輪から復元したシルクロードテレコネクションパターン指標の時系列(黒、灰色は復元誤差を表す)で、気象再解析から得られる時系列(赤)とよく整合している。青い丸は熱帯で大規模な火山噴火があったタイミングを表す。灰色の波線は標準偏差±1を表す。(b)火山噴火前後のシルクロードテレコネクションパターン指標の平均的な変動(青、水色は標準誤差を表す)。灰色波線は95%信頼区間を表しており、火山噴火の翌年に統計的に有意な指標の低下(星印)が生じることがわかる。(c)気候モデルでシミュレートされた、火山噴火に対する翌夏の対流圏上層の南北風の応答(塗りつぶし)。ドットは気候シミュレーションアンサンブルの77%以上が同様の変化を示したことを表す。コンターは正常時の南北風(実線は南風、波線は北風)の平均的な分布を表す。緑色の三角は本研究で使用された樹木年輪のサイトを表す。

 

fig3図2:気候モデルでシミュレートされた火山噴火の翌夏の対流圏上層の南北風(左列)と降水量(右列)

(a)全ての火山噴火の場合の平均。(b)(a)のうち、シルクロードテレコネクションパターン指標が負の場合のみの平均。(a)でみられたパターンがより強化されている。(c)(a)のうち、シルクロードテレコネクションパターン指標が正の場合のみの平均。(a)でみられたパターンとは逆符号の変化を示す。(d)(a)のうち、エルニーニョ–南方振動現象(ENSO)やインド洋ダイポールモード現象(IOD)が中立な場合のみの平均。(a)でみられたパターンはENSOやIODとは無関係に生じていることがわかる。
全ての図に共通して、ドットは気候シミュレーションアンサンブルの77%以上が同様の変化を示したことを表す。左列において、コンターは正常時の南北風(実線は南風、波線は北風)の平均的な分布を表す。右列において、矢印は対流圏下層の風の変化を表す。

 

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科
 沖 大幹 教授
 木野 佳音 助教

武漢大学 水資源工程与調度全国重点実験室
 聶 文政 博士課程
  研究当時:東京大学大学院工学系研究科特別研究学生

 

論文情報

雑誌名Nature Communications
題 名:Tropical volcanism triggers pan-Asian monsoon droughts via circumglobal teleconnection
著者名:Wenzheng Nie, Jun Xia, Kanon Kino, Dunxian She, and Taikan Oki  
DOI: 10.1038/s41467-026-70710-x
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-026-70710-x

 

研究助成

本研究は、科研費「過去2万年間の極端気象の様相変化が古気候間接指標に与える影響の解明(課題番号:JP24K20915)」および「衛星地球観測による新たな全球陸域水動態研究(課題番号:JP21H05002)」の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)シルクロードテレコネクションパターン:ユーラシア大陸上に生じる偏西風の蛇行パターンで、日本を含む各地の天候に影響を及ぼす。なお、本研究の対象となったのは厳密にはcircumglobal teleconnectionパターンという類似の大気の遠隔影響パターンである。これらの区別に関する議論の詳細は、小坂 優, シルクロードパターン再考 -2010年度日本気象学会山本・正野論文賞受賞記念講演-, 天気, 58, 519-531 (2011).(https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2011/2011_06_0039.pdf)に記載されている。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Communications:https://doi.org/10.1038/s41467-026-70710-x