細胞・組織の高圧瞬間凍結法の開発

2026/03/25

発表のポイント
◆ 大気圧の約2000倍の圧力下で瞬間的に凍結させることで、これまでの凍結法では困難であるとされていた単層培養細胞や細胞凝集塊の凍結保存と融解後の培養に成功した。

◆ 高圧瞬間凍結という特殊な方法を用いることで、細胞組織の凍結保存が可能となった。

◆ iPS細胞から作製したミニチュア臓器の保存など、再生医療研究への応用が期待される。

 

fig1細胞・組織の高圧瞬間凍結-実験の概要-

 

発表内容 

東京大学大学院工学系研究科の酒井 康行 教授、西川 昌輝 准教授、勝田 毅 助教、Fang SONG大学院生、理化学研究所環境資源科学研究センターの豊岡 公徳 上級技師、佐藤 繭子 技師らによる研究グループは、大気圧の約2000倍の圧力下、わずか数ミリ秒(1ミリ秒は1/1000秒)で瞬間的に細胞・組織を凍結させることで、液体窒素に浸漬するなどのこれまでの凍結法では困難であるとされていた単層培養細胞(Monolayer)(注1)や細胞凝集塊(Spheroids)(注2)の凍結保存に成功した。融解後の細胞・組織は、非常に高い生存率と細胞活性を示したことから、高圧瞬間凍結法の有効性が示された(図1)。

本研究では、電子顕微鏡観察用のサンプル作製に用いられてきた高圧凍結機 Leica EM ICE(注3)を生細胞保存に初めて適用し、これまでの凍結法では困難であるとされていた単層培養細胞(Monolayer)や細胞凝集塊(Spheroids)の凍結保存および融解後の高い生存率での培養に成功した。先行研究と比較して融解後の生存率が非常に高いことや、その後の安定培養が可能であること、また、毒性が高いとされるDMSOなどの凍結保護剤を使用する必要がない点などで新規性がある。この研究成果は今後、オルガノイド(注4)などの小さな細胞組織の保存などを通じ、再生医療や各種バイオ産業、生物工学などの基礎研究分野に役立つことが期待される。

 

fig2図1:単層培養細胞の凍結融解後の代謝活性の比較
(HPF: 高圧瞬間凍結、NPF: 通常のガラス化凍結)

 

発表者・研究者等情報

東京大学

 大学院工学系研究科
   酒井 康行 教授
   西川 昌輝 准教授
   勝田 毅 助教
   Fang SONG 博士課程

理化学研究所環境資源科学研究センター
  豊岡 公徳 上級技師
  佐藤 繭子 技師

 

論文情報

雑誌名:PNAS Nexus
題 名:A proof-of-concept study on high pressure freezing for cryopreservation
著者名:Fang Song*, Mayuko Sato, Yuya Toyama, Taiyo Ishikawa, Fumiya Tokito, Takeshi Katsuda, Kiminori Toyooka, Yasuyuki Sakai, Masaki Nishikawa*  
DOI: 10.1093/pnasnexus/pgag065
URL: https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag065

 

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:JP21K19886)」、「学術変革領域研究(学術研究支援基盤形成)(課題番号:JP22H04926)」、科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR225L)」の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)単層培養細胞(Monolayer):平面上に単層に接着した状態で培養されている細胞。
(注2)細胞凝集塊(Spheroids):複数の細胞が集まってお互いに接着し、塊になった三次元的な細胞組織。培養液中に浮遊した状態、または一部培養容器に接着した状態で培養される。
(注3)高圧凍結機 Leica EM ICE:細胞組織などの含水試料を、氷晶を発生することなく微小構造を最大限保持した状態で凍結できる。一般的な用途では、資料は凍結後に樹脂置換などを経て電子顕微鏡観察に用いられる。
(注4)オルガノイド:生体の組織や臓器のミニチュアモデル。対象となる組織・臓器の構造や機能を少なくとも部分的に保持している細胞凝集塊。iPS細胞など幹細胞から誘導された細胞や、組織・臓器の前駆細胞の自己組織化能力をうまく活用して作製される。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

PNAS Nexus:https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag065